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裏切り者になります6

 サントンに言って用意してもらった二つの大瓶の中には、それぞれ色違いの水を用意してある。ロカのお陰で水を汲みに行く手間が省け、準備の短縮ができた。


「これはなんですか?」


 ロカが黄色い水が入った大瓶の一つを覗き込み、不思議そうな顔をする。


「それぞれ魔法で作った薬が入っているんだ」

「へぇ~お薬ですか」

「触らないでくださいね」


 ロカが水に触ろうとしたので、アクが止める。


「ごめんなさい」


 ロカが急いで手を引っ込めて謝る。


「いえ、そろそろゲイザーさんの準備も終わったと思うので行ってきます。あとはサントンの指示に従ってください。ご苦労様でした。ありがとうございます」


 ロカの魔法によって作り出された水に、アクの作り出した二種類の霧が染み込み。反撃の準備ができた。あとはゲイザーが作る城壁の出来次第だ。城壁を作って敵よりも高い位置に足場を作ってもらう。城壁の四方に大瓶を運び込む必要がある。


「ゲイザーさんお疲れ様です」

「おう。ジジイを働かせおってからに、こんなもんでどうじゃ?」


 ゲイザーがドヤ顔で城壁の前に作られた足場を指さす。


「最高の出来です。ありがとうございました」

「うむ。ワシも久しぶりにここまで大がかりの魔法を使ったわい。魔力にはまだ余裕があるが、今日はもう休ませてもらうぞ」


 ゲイザーは疲れたと言ってギルドの方へ帰っていった。用意ができたのことで、アクは幹部達を集めた。ゲオルグ、ダント、サントン、ハッサン、グラウス、さらにボルスとダンにも来てもらった。

 エリスには後方支援ということで、子供達と非戦闘員の保護にあたってもらっている。ルーはアクの後ろで控えて、アクの護衛をしていた。


「皆さん、準備が整いました。日も暮れてきたので、明日の開戦まで数時間です」

「前置きはいいから。早く策の詳しいところを話せ」


 ゲオルグに催促され、アクが作戦を話し出す。


「戦いはいたってシンプルです。門を閉めて、攻め寄せてくる者達に水をかけるだけです」

「はぁ~?それで勝てるのか?」


 アクの発言にハッサンが食いつく。


「勝てる。いや、勝たなければならない。相手が攻めて来るであろう四方に、それぞれ大瓶を用意しました。相手は門か、城壁を突破しなければクック村には入れません。突破を企てている最中に水を上からかけて撃退していきます」

「魔法はどうするつもりだ。魔法使いは相手にもいると思うぞ。魔法の攻撃は強力だ。城壁から攻撃していても遠くから放たれる弓や魔法には対処できないぞ」


 ダントがアクの策の弱点を指摘する。


「はい。そこでグラウスには魔法使いを重点的に調べてもらいました。グラウス頼めるか?」

「承知。魔法使いの人数は十人です。歩兵部隊に八人。将軍の護衛に二人です」

「十人か、少ないのか?多いのか?」


 ハッサンがグラウスの報告に質問で返す。正直一つの軍隊に魔法使いが、一人いれば良い方だと言われている。十人とは百人に対して少ないぐらいだった。アクが考えていたよりは、魔法使いの数が少ないのだ。


「多いだろうな。バンガロウ王国で王国に従事している魔法使いは、三十人ほどが確認されている。その中で十人だ」


 これにはダントが代わりに答えた。アクの考えとは違い。この世界では、戦闘ができる魔法使いは限られている。


「そいつらはどうするんだ?」

「そいつらは俺とサントン、後ゲイザーさんの三人で対処します。弓矢についてはゲイザーさんに防護壁を作ってもらっていますので、なんとか耐えてください。一番敵が攻めてくる西門をゲオルグさんとダントさん。南門をハッサンとグラウス。北をボルスさん、東をダンに任せます」

「「「おう」」」


 全員の気合いの籠った返事を聞き、アクがもう一度全員の顔を見て告げる。


「相手の最強の矛を叩き折りにいきます。俺達は勝つ」

「「「「おうーーー!!!」」」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夜が明けてバルツァー・フエルト・ボードルは、朝の風と光の中で自然を感じていた。


 あと数時間後には殺し合いが始まる。それが一方的な殺し合いだったとしても王国に逆らう気概のある者をバルツァー・フエルト・ボードルは尊敬していた。

 バンガロウ王国に戦争がなくなり、自分が戦場に出なくなって長くなってきた。小競り合いがあったとしても、万人長である自分が出る幕などなかった。

 戦場の臭いをかぐのはいつぶりだろうか、こうして自分はまた戦場に立っている。何年経とうと緊張が込み上げてくる感覚は心地いい。


「将軍、野営の撤去完了しました。いつでも出発できます」

「そうか、後数時間でクック村に着く。皆に出発を告げよ」

「ははっ」


 ラルドが号令をかけて兵士達の行軍が始まる。クック村の住人にとって最後になるかもしれない行軍が開始される。

 行軍が開始されて三時間後、バルツァー・フエルト・ボードルは、クック村の西門の前に来ていた。南と北はすでに騎馬隊が到着していて包囲は完了していた。


「あとは将軍の号令を待つだけです。ここまで罠も全て取り除き、後は村だけとなっています」

「怪我人はいるか?」

「皆無です」

「そうか、ならばよい。いくぞ」


 バルツァー・フエルト・ボードルは豪槍を振り上げ兵士達に声をかける。


「いよいよ戦だ。我らに敗北の二文字は無い。兵士達よ我が息子達よ、思う存分に戦うがいい。我についてこい。戦のはじまりじゃ」

「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!!!!!!!」」」」」


 バルツァー・フエルト・ボードルの号令と共に、兵士達がクック村の城壁に群がる。それまで静けさを守っていたクック村からも、雄たけびが聞こえてクック村を占拠した者達が城壁の上から現れる。


「先制は俺が頂くぞ」


 ゲオルグの声が城壁の上から響き渡る。バンガロウ王国兵に黄色い水をばら撒いていく。


「「グワっ!」」


 盾で塞ごうとした者、鎧で守ろうと者がいたが、肌に少しでも触れた黄色い水は効果を発揮する。黄色い水を浴びた者達が次々に倒れていく。その光景は南門だけでなく東西南北、どの場所でも繰り広げられていた。城壁に殺到した者達は例外なく黄色い雨に晒されていく。

 先陣として城壁に殺到した三百人近くの人間が一、瞬で無力化された。


「何が起きているんだ?」


 ラルドは現状を把握しようとするが、何が起きているのかわからない。城壁に近づいた兵達が次々と謎の水によって無力化されていく。


「何かはわからぬ。だが、あの黄色い水が原因であろう。弓隊及び魔法隊に号令を出せ。遠距離攻撃を行うぞ」


 バルツァー・フエルト・ボードルは慌てることなく、作戦を切り替え指示を出す。


「相手も、我が王国の兵百人を倒した者達だ。なかなかやりおる」


 嬉々として現状を眺めるバルツァー・フエルト・ボードルに、副長であるラルドは頼もしさよりも恐怖の方を強く感じた。そこに伝令の者が急ぎ走り込んでくる。


「ご報告します。魔法隊が何者かにより無力化されました」

「何っ?」


 これにはさすがのバルツァー・フエルト・ボードルも驚きの声を上げた。


「何が起きている?」

「魔法隊に連絡しに行ったのですが。行方が分からぬ者、腕や足が斬られて詠唱が行える状態ではない者達ばかりです。魔法隊を護衛していた歩兵隊も幾人か無力化されております」

「相手の方が上手であったか、弓隊はどうだ?」

「向こうの城壁に阻まれ、うまく相手を倒せません。弓が届いたとしても壁を盾のようにしている模様で、ほとんど弓隊の効果がありません」


「ジュナスが負けるわけだな。くくく、なんと面白いことか。よかろう、ワシが出る。用意いたせ」

「お供します」

「ラルド、お前には大任を任せる。この戦いを最後まで見届けよ。そして王に報告せよ。我の英雄譚を広めるのだ」

「もちろんです」


 バルツァー・フエルト・ボードルは副官を連れて最前線に躍り出る。将軍の豪槍は炎を纏いバルツァー・フエルト・ボードル個人が炎の化身さながらに黄色い水も弓矢も全てを薙ぎ払い突撃していく。

 最強の将軍が本気になった姿は、誰にも止められない怪物であった。怪物の後ろには、重装騎馬隊を引き連れたラルドが付き従う。


「フハハハ。誰もワシを止める者はおらんのか」


 バルツァー・フエルト・ボードルの猛攻でクック村の人間は勝利を確信しつつあった状況が一変した。城門に届いたバルツァー・フエルト・ボードルが豪槍を振り下ろそうとした瞬間、黒い影がバルツァー・フエルト・ボードルを覆い尽くした。


「何っ!」


 その言葉を最後に、バルツァー・フエルト・ボードルは闇へと飲み込まれた。


「将軍っどこへ?」


 ラルドは消えたバルツァー・フエルト・ボードルを探すが見当たらず、反対に黄色い水の勢いは増し、いつしか黄色い水は緑に変わり、ラルドはそこで意識を失った。


「将軍……」


 王国の大将と副長を同時に失った瞬間だった。

いつも読んで頂きありがとうございます。


評価・感想いただけると物凄く励みになりますのでいただけると作者は泣いて喜びます!!!\(^^)/

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