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裏切り者になります5

 ゲオルグの説得に成功したアクは、改めて籠城を選択した。クック村は城郭都市のように、村全体が木と石で作られた城壁擬きで守られている。今回は紙のように脆い、この壁が頼りだ。


「ギルドマスター。あなたに頼みがある」


 アクはサントンを連れて目的の人物であるゲイザーの下を訪れた。


「なんじゃ藪から棒に」

「サントンから聞きました。あなたが土の魔法使いだと」

「確かにワシは土の魔法が使えるが、それがどうした?」

「土の魔法の力をお借りしたいんです」

「それが藪から棒だというんだ。ちゃんと説明せい」


 ゲイザーは元々協力しない姿勢を取っていた。だからこそ、アクは説明を省き、頼みごとをしに来たのだ。


「そうですね。これから千人の王国兵がクック村を滅ぼしに来ます」

「ほう~どういうことだ?おぬしらが戦うのは勝手だが、どうして村を巻き込む?」

「相手がそういう相手だということです」

「バルツァー・フエルト・ボードルか?」

「知っているのですか?」


 ゲイザーの口から敵の大将の名前が出たことで、アクはゲイザーにも何かしら思い入れがあるのかもしれないと思った。


「昔……ちょっとな。厄介な相手がくるのじゃな……」

「はい。だからクック村総出で戦わなければなりません。あなた以外に魔法使いはいますか?」

「うむ、ロカ」


 ゲイザーが受付で聞き耳を立てていたロカを呼ぶ。


「えっ!はっはい」


 ロカはばれたことに、バツが悪そうに部屋に入ってくる。


「一応こやつも魔法使いじゃ」

「ほう~ちなみに何の魔法使いですか?」

「水じゃ。この辺では珍しいんじゃよ」

「水ですか。それは助かります。ロカさん、貴方にも協力を仰ぎたい」

「え~私なんかがお役に立てるかどうか……」


 ロカはサントンをチラチラと見ながら、アクの申し出に対して自身がないという。


「別に戦ってもらうわけじゃないんだ。二人には戦うための準備を協力してほしい。ゲイザー殿にはもう一つお願いしたいことがあるのですが」

「うむ。時間もないのじゃろ?さっそく始めようか」


 ゲイザーは短い情報でアクが焦っているのを読み取った。今はもう昼を過ぎている。相手が来るのに一日しかない、早く準備に取り掛かりたいのだ。


「では城壁の内側に土壁を作ってほしい。壁を頑丈にして壁の上から攻撃できるようにしたいんです」

「城の城壁のようにするじゃな」

「はい。見栄えは綺麗じゃなくても構いません。今は急を要します。そして、ロカさんには大瓶を用意するから、どんどん水を作り出してほしい。できればあなたの魔力限界まで」

「そんなことでいいんですか?皆さんの回復したりするのかと思いました」


 ロカもゲイザーと同じように、自身がないと言いながら、協力に応じてくれた。


「夜になれば、それもお願いしたい」

「わかりました。あとアクさん?私のことはロカと呼び捨てにしてください」

「わかった。俺のこともアクでいい」

「はい。ではアク?まずはどうすれば」

「すぐに瓶を用意させる。サントン、なるべく大きい瓶と瓶から水を救う桶みたいなものを大量に用意してくれ」

「わかった。呼びかけてくる」

「では二人ともよろしくお願いします」

「おう」「はい」


 ゲイザーは城壁に向かい、ロカはサントンの後についていった。


「ここからだ。十倍だろうと負けない」


 アクも準備のためにやることが多いのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 伝令に来たものに対して、副官のランドが問いかける。


「報告はどうなっている?」

「はっ!今のところ罠らしき物を森で数点見つけましたが、他には何もありません。左右の村に向かった者達からも異常なしだと連絡が来ています」

「そうか。不気味だな……嵐の前の静けさかもしれんな」


 バルツァー・フエルト・ボードルは騎乗した馬の上で風を感じていた。進行し始めた当初は、勝利を確信できていた。しかし、村に近づくにつれて得体の入れぬ予感めいたものを感じとっていた。


「相手の人数はわからぬ。最低でも百はいると思うが、十倍の兵力で負けるわけがない。魔法をいくら駆使しようとも、我らにも魔法使いがいるのだ。相殺してくれる。さて相手はいったいどんな策を採ってくるかな」

「将軍、楽しそうですね」


 先ほど報告を聞いていたラルド千人長が横に並ぶ。


「そろそろ日が陰ります。歩兵達もいますので、この辺で野営の準備にかかります」

「任せる」


 バルツァー・フエルト・ボードルは、ラルドの言葉に短く答えて空を見上げた。それは晴れ渡り満天の星空が広がり始めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 クック村の住人に協力してもらい、急ピッチで作業にあたる中、捕まっているジュナスは逃走の機会を窺っていた。


「逃げたいと思うか?」

「どうしてお前が?」


 ジュナスの目の前にはグラウスがいた。


「久しぶりだな」

「そうか。あの日お前は偵察をしていたのか?」

「そうだ」

「お前のせいで、私は」


 憎しみの籠った声で、ジュナスが叫び声を上げる。


「なんだ、お前はそんなものか?」

「???どういう意味だ?」

「お前はどうしたい?」

「何がだ?今はお前を殺したい」

「そうか、お前に価値はないようだな」


 グラウスはガッカリした顔で、ジュナスとの会話を終わらせる。


「おい、待て。どういう意味だ?」

「お前は見えていない。今何が起きているのか」

「何を言っている?」

「自分で考えるんだな。国の崩壊を」


 そういうとグラウスはジュナスの前から音もなく消えていった。


「なんなのだ」


 わけのわからないことを言われて、ジュナスは混乱する。しかし、グラウスの言葉を思い出して、素直に彼女は戦いの意味について考え出した。

読んで頂きありがとうございます。

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