裏切り者になります4
本日二話目です。
楽しんで頂ければ幸いです。
ゲオルグ達は最終確認を終えて後は出発するだけとなった。今でこそグラウスが偵察の任務に就いているが、その役目は元々ダントが得意としいていたものだった。
最終確認を終えたゲオルグ達の下に、ダントが戻ってきていた。
「ゲオルグ、奴ら王都を発った。横に広がって進軍してくるみたいだ。まぁそれでも本陣は五百ぐらいはいるから、突破は難しいと思うがな」
「ガハハハ、面白くなってきたじゃねぇか。千対三十、勝ち目のない戦いかもしれねぇが、一矢報いてやるぜ」
ゲオルグの言葉に、付き従う古参メンバーも頷き合う。
「本当にいいのか?無駄死になるぞ」
「かまわねぇよ。俺達は戦いの中で死ねる。それに、アクやサントンが居れば後はなんとかしてくれるだろ。若いもんにまかせるのは情けねぇけどよ。ここまで来ただけでも俺達としては上出来だ」
「そうかもな、行こうぜ。このまま出れば夜には奴らと出くわすことができる。少数の俺達にはその方がいいだろう」
「おうよ。野郎どもいくぞ!」
ゲオルグの声で、完全武装した一団が門を出ようと歩き出す。しかし、門の前にはフードを被った獣人と少女が立っていた。
「皆さん待ってください。行くのを考えなおしてください」
「エリス……ここは男の戦場だ。お前の出る幕じゃない」
ダントが冷たい声で、娘のエリスに告げる。
「女とか男とか関係ありません。今大事なのはみんなで協力することです。お父さん達がしてるのは勝手な自己満足じゃないですか」
エリスは幼い頃から知ってる顔を一人一人見ていく。彼らも幼いころから知っているエリスの事は、子供や兄弟がいない者達からしても、娘や妹のように可愛がってきたのだ。そのエリスの言葉にバツが悪そうな顔になる。
「エリス……俺達は決めたんだ。お前たちを守ると、これは必要なことなんだ」
それでもダントが説得しようとするが、ダントの方にゴツイ手が置かれる。
「エリス、どうして俺達を止める?お前は俺達のしてきたことを嫌っていただろう?」
ゲオルグの質問に、エリスはゲオルグの目を見つめ返す。
「お父さん達のしていることは無駄な争いを生んで嫌いでした。だけどアクが来てからは変わったわ。今は意味があることをしているのでしょ?皆を助けるためにしているのでしょ?なのに皆さんがしていることはなんですか。昔に逆戻りじゃない。もう盗賊じゃなくなったと演説したのは嘘なの?」
エリスの言葉に、バツが悪そうにしていた者はますます動揺した顔になる。
「耳が痛てぇ~な。だけどなエリス。どう言われても俺達は行く。これが必要だと判断したからだ」
「頑固なのですね。ですが、私も行かせる気はありません」
エリスが何事かを呟くと、炎が巻き上がり門を守るようにファイアーウォールとなって立ちはだかる。
「この炎の壁を越えて丸焦げになっても進みますか?」
「理屈じゃねぇってことか、お前の方がサントンやハッサンより厄介だったんだな」
ゲオルグは苦笑いしてから、炎の壁の向こうにいるエリスに話しかけた。
「男の方は男同士でわかり合うのかもしれませんが、あいにくと私は女なので、そんなこと関係ありません」
「そりゃそうだ」
今度は苦笑いではなく、ゲオルグは本当に楽しそうに笑った。
「だがな、レベルが違い過ぎたな」
ゲオルグがそういうとダントが前に出た。ダントが出現させた炎の壁が、エリスの炎の壁にぶつかる。ぶつかり合った魔法は互いを消滅させ、消滅の衝撃でエリス達の方が吹っ飛ばされた。
「エリス、お前は戦いに向いていない。できれば好きな男でも作って幸せに生きてほしい」
ダントは願うように呟き、気を失い倒れている娘を見つめた。
「いくか」
「ああ」
ゲオルグとダントはすべて終わったと門へ向かう。
「すみません。まだ行かせるわけにはいきません」
「厄介な奴がまだいたな。お前で最後だろうな、アク」
「はい。多分俺で最後です」
「そうか、お前は記憶もない。力もない。俺達との関係もあまり深くもない。それでどうやって止める?」
ゲオルグの言葉にアクは一度顔を俯かせ、次に顔を上げたとき、決意を込めた目をゲオルグに向ける。
「記憶はあります。力も……」
「そうか……それで?記憶が戻ったお前が、俺達をどう止める」
「新しい策ができました。勝つための」
「暗殺はダメだぞ。籠城は以っての外だ」
「必要なことならなんでもします」
「聞いてやるよ。どんな策だ?」
「その前に、見てほしいモノがあります」
アクは徐に握りしめていた左手を開いた、左手から黄色い霧が出てくる。アクは風上に立っているので、黄色い霧はゲオルグ達に向かって流れていく。
「なっ!」
驚きと共にゲオルグ達が膝をつく。
「なにをした?」
「魔法を使いました」
「魔法だと?そんな魔法聞いたことないぞ」
黄色い霧によって痺れる指先で、アクのことを指差すが、腕を上げていることが辛くなってくる。
「これは闇の魔法です」
「闇の魔法が使える奴は、魔族の中でもごく一部だぞ。お前は魔族だったのか?」
「残念ながら魔族ではありません。異世界人です」
「異世界人だと?」
アクは痺れて動けない盗賊団のメンバーに真実を語り始める。
「はい。ルールイス王国が勇者召喚を行なったのを知っていますか?」
「聞いたことはある。だがあんな北の王国で召喚された奴がどうしてこんな南の辺境にいるんだ?」
「逃げてきたんです。魔法で」
「こんなに遠くに移動できる魔法なんて聞いたことがないぞ」
ゲオルグが困惑するなか、話を聞いていたダントが疑問を投げかける。
「あるのか?」
アクはそういうと、突然消えてゲオルグとダントに間に現れた。
「なっ!どうやって?」
「転移したんです」
「転移だと。一瞬で移動したと言うのか?」
「はい。今は目の前でやりましたけど、距離は関係ありません。一瞬で、どこへでも行けます」
「ならここにいる全員を転移されることもできるのか?」
「やったことがないので分かりません。ですが一人や二人は大丈夫です」
「スゲ~力だな」
ゲオルグが素直に感心している。しかし、ゲオルグの横でダントが怪訝な顔をする。
「なぜ今まで隠していた?」
「頼りにされたくないからです。魔法頼りで、何もできない者達に力を貸す気はないので」
「様子を見ていたということか、好きになれないな」
ダントは不快だというように息を吐いた。
「それで、どうして今回は俺達に魔法の存在を教えた?」
「あなた方を死なせたくないからです」
「死なせたくない?」
「はい。今行けば確実に殺されます。そしてここにいる全ての者が同じ末路を辿るでしょう」
アクはゲオルグたちだけでなく、クック村もサントンたちも死んでしまうと告げた。
「どうしてそんなことが言える?」
「相手は慎重な男だと言っていたじゃないですか。慎重という事は、疑惑が残る者すべてを抹殺してもおかしくないという事です。クック村の者も一度は我らに与した形になる。そんな人間を慎重な男が生かしておくでしょうか?応えは否です。見せしめも兼ねて、クック村にいる者全てが殺されます。俺が慎重な司令官ならそうします」
アクの言葉に、ゲオルグもダントも黙るしかなかった。
「それならどうすればいいかです。戦って勝てばいい」
「勝てねぇから困ってるんだろが」
ゲオルグは憤りを我慢できずに声を荒げる。
「策に乗っていただけるなら勝てますよ」
「どうやってだ?」
「今、お頭達はどういう状況ですか?」
ゲオルグは改めて麻痺して動けない体を見る。
「動けねぇ~」
「はい。俺の魔法です。これは俺自身が側にいなくても、ある方法で誰でも使えるようにできます」
「そんな都合の良い話「あるんです」あるはず……」
「だから策ができたといったじゃないですか」
「本当に勝てるのか?」
「勝ちます」
ゲオルグはうつむき、ダントはゲオルグを見つめた。ダント以外もゲオルグに付き従おうとした二十八名がゲオルグを見る。
「わかった。お前の策に乗ろう。その前に俺達を自由にしろ」
「お頭、嘘はないですね?」
「嘘じゃねぇ。お前に従う。皆もそれでいいな?」
「ゲオルグが、いいならそれでいい」
ダントの言葉に男達が頷いていく。最後にボルスが不満そうにしていたが、アクに見つめられてしぶしぶ頷いた。
「よかったです。お頭達の協力がなければ勝ちはありえませんので」
「上手いこと言っても、もうお前には騙されてやらんぞ。早く自由にしろ」
アクは握っていた右手を開き白色の霧を出す。ガスに触れた者から痺れは取れていき自由になる。自由になると同時にゲオルグが、アクに殴り掛かるがアクは転移で躱す。
「避けるなよ」
「殴られたくないので、それで本当に協力してくれるんですか?」
「男に二言はねぇ」
ゲオルグは宙を殴った腕を組んで、宣言する。
「それならいいです。よろしくお願いします」
ゲオルグとのやり取りはもちろんサントンやハッサンも見ていた。知らないのは気絶したエリスとこの場に居なかったグラウスぐらいだろう。
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