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裏切り者になります3

 サントンは、ハッサンと合流するべく五十人を引き連れて門に向かった。すでにゲオルグたちも出撃の準備を終わらせつつある。


「ハッサン、どうだ?お頭たちは?」

「すまねぇ。俺にはかける言葉が思いつかねぇ」


 サントンは、ハッサンの様子で失敗したことを理解する。だが、それではダメなのだ。少しでも数がいる。今お頭達に抜けられるのは痛手でしかない。


「わかった。俺がやる」


 サントンの言葉に、俯いていたハッサンが顔を上げる。


「あんな親父達止められねぇよ」

「かもな。それでもこれは命令じゃなくアクからの頼みだ」


 サントンは何かを決意して剣の柄に手を置いて門の前に向かう。門の前には出陣を控えたゲオルグ達がいた。


「お頭!」


 サントンが声を張り上げ、ゲオルグを呼ぶ。


「今度はサントンか?おまえらちょっと待て」


 側にいた者に声をかけて、ゲオルグはサントンの前に出る。


「なんだサントン?」

「行かないでくれ。俺達は協力しないといけない」

「協力してどうなる?籠城して死ぬのを待つか。それともアクが言うように暗殺を企てて後ろ指差される生き方をしろと?」

「そうじゃねぇ、アクが新しい策を考えている。それまで待ってくれよ」

「待てねぇ。敵さんは、俺達がこうしている間にも向かってきている。少しでもここにいる者を救うためには早めに戦いを挑まないといけない」


 ゲオルグが言っていることは正論だとサントンにもわかっている。わかっているが、サントンはアクに賭けたいと思っていた。


「なんでそんなに焦るんだよ」

「簡単なことだ。家族を守るためだ」

「だからそれは、ここで俺達と」

「サントン、お前に難しいことを言っても分かるかわかんねぇが。籠城するという事は、村の外の畑は放置するという事だ。軍に荒らされたとして、次の収穫ができるのはいつだろうな。半年か?一年か?その間誰が飯を食わせてくれる。俺達に支配されたとされるクック村に、援助はあるのか?俺達の家族に飯は与えられるのか?俺達が早く負ければ、それだけ被害は少なくなる。そして俺達が解放軍だと名乗れば少なくとも残ったお前たちが遺志をついでくれる」


 ゲオルグの言葉で、サントンは戦ってでも止めようと、剣の柄にかけていた手をどける。


「お前は確かに強くなった。戦えば俺よりもお前が勝つだろう。だが、お前は戦況が見えていない。そんなお前に俺を止める資格はない」


 サントンはそれでも食い下がろうと思った。それをすればクック村に被害が出て、ゲオルグの気持ちを踏みにじると思うと、何も言えなくなっていた。


「サントン。お前が頭だ。後を頼むぞ」


 ゲオルグはゴツイ手でサントンの頭を撫でた。


「お前も俺達の息子だ。がんばれよ」


 ゲオルグは踵を返し、元盗賊団の中に戻っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 バルツァー・フエルト・ボードル率いる千人。


 重装騎馬百人、騎馬五百人、歩兵三百人、物見隊百人、で構成されている。


 物見隊百人は、出撃と同時に各所に散らばり罠や挟撃、伏兵の有無を探らせ、騎馬を百騎ずつ分けて東西に分けて迂回させた。

 歩兵は百五十人ずつ左右の森を進ませ、邪魔になるゴブリンや魔物を狩っておく。


 残りの五百騎にて街道を直進する。歩兵に合わせるので、速度は遅めではあるが、クック村に着く予定は明日の昼頃で、到着次第攻撃を開始する。


「将軍、ここまでする必要があるのでしょうか」


 ラルドがバルツァー・フエルト・ボードルの展開した布陣を見て、ここまでやる必要があるのかと疑問に思った。


「獅子はウサギを狩るのにも全力を尽くすと言う。我々は獅子よりも獰猛に貪欲に何も残さぬ。何より王国に刃向うという事がどれほど愚かな事かを示さねばならない」


 ラルドは改めて戦慄を覚えた。バルツァー・フエルト・ボードルは、クック村を滅ぼしてしまおうと思っているのかもしれない。


「将軍は村をどうされるおつもりですか?」

「反逆者に与した村人に、慈悲などない。すべて更地にするだけだ」

「了解しました」


 ラルドは自分の考えが間違っていなかったことを悟り、それと同時に本当にそれでいいのかと疑問にも思った。クック村はアースへの最前線、本当に滅ぼしていいのか?将軍に従う自分に反論の言葉は出て来なかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アクは自分の部屋にしている、宿の一室に戻ってきていた。ゲオルグに自分の策を否定されて一旦落ち着こうと戻ってきたのだ。


「なんだよ!俺が折角勝てると思う策を言ってるのに、あれはダメ、これはダメって子供かよ。こんなんじゃ勝てるモノも勝てないじゃないかよ」


 アクはイライラしてベッドに飛び込んだ。今まで自分の策で被害も少なく、ここまで来られたのにと駄々を捏ねる子供のようにいじけていた。


「それでも何とかしないとゲオルグさん達が死んでしまう」


 散々ベッドで悶え暴れた後、アクは策を考え始めた。


「王様暗殺はダメ。アースに力を借りるのもダメ。魔物をけしかけてもダメ。どうしたらいいんだ」


 考えをまとめようと考えるが、余計に混乱して何も妙案が浮かばない。


「キュッ」


 久しぶりに部屋に帰ってきたアクにマルーモが圧し掛かる。精霊なのであまり重さは感じない。ペットにじゃれつかれる感じがして、マルーモを撫でた。


「はぁ~お前はいいな。のんびり寝てればいいんだから」

「キュ」

「なぁ~マルーモ、俺って直接敵を倒す魔法ってないわけだけど、闇の魔法は攻撃できないのか?」


 そうなのだ。アクの魔法は攻撃系がない。唯一マリオネットが相手を支配して殺すことができるかもしれない。しかし、一人限定なのだ。

 ブラックホールはアイテムボックスで収納はできても攻撃じゃない。転移は便利だけど、これも攻撃と呼ぶしろもではない。


「キュっ?」


 マルーモは少し考えた後、アクの方を見て黄色い霧を出す。アクはそれを吸い込むと手や足がシビレ出した。


「麻痺!」

「キュ」


 突然痺れだした手足にアクは、麻痺と叫んだ。マルーモはアクの言葉に頷き今度は紫色の霧を出す。


「うっ」


 紫色の霧は毒だ。息苦しさと胸の辺りに何かこみ上げてくる気持ち悪さがある。苦しくなり吐き出すと血が吐き出される。


「マルーモ頼む。治してくれ」


 アクが頼むとマルーモが白色の霧を出して、すべての症状が治った。


「マルーモ、凄いぞ。状態異常を引き起こす霧を生み出せるのか?」


 マルーモが嬉しそうに頷く。


「他にもあるのか?」


 その後、赤色、青色、緑色、黒色と出してもらった。アクは吸い込まないようにして観察していった。


 黄色は麻痺、紫色は毒、赤色は誘惑、青色は混乱、緑色は睡眠、黒色は石化、それぞれ状態異常を起こすもので、白色はそれを治すものだそうだ。

 そしてこれらは吸い込む以外にも、水に混ぜたり体に塗っても効果があるらしい。


「スゴイぞ。これなら何とかなるかもしれない。だけど俺が魔法使いであることを告げなければならない。ここまで付き合ったんだ。別に告げるのは嫌じゃない。だけど、それ以降はここにいられないな」


 アクはゲオルグたちを死なせないために覚悟を決めた。やらなければ皆殺される。俺がやらなきゃな。

読んで頂きありがとうございます。

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