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裏切り者になります2

お気に入りが久しぶりに見ると60人超えていました。


評価してくださった方、お気に入りにしてくれている方ありがとうございます。

なるべく面白く読めるように頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。

 万人長バルツァー・フエルト・ボードルは、今年で60になる。家に帰れば厳格な当主として過ごし、妻や息子、孫もできた。だが、心は今も戦場を求めていた。若いころは連邦もここまで穏やかではなかった。小競り合いもあり、人同士の争いも多く、魔物達も今よりも暴れていた。

 獣人との戦争が終結した後、貴族の当主となり、軍の最高責任者となり、どんどん戦場から遠ざかり、王宮でのつまらない政治争いをする毎日だった。正直戦場という言葉を忘れそうになっていた。


「将軍すべての準備が整いました」


 王都にあるバルツァー・フエルト・ボードルの仕事場、最高司令官の部屋に、副長を務めるラルド・フェラー千人長が入ってきた。


「ラルドか、いよいよだな」

「将軍と戦場に出られるのは久しぶりですので、楽しみにしております」


 ラルドは真面目な男で、バルツァー・フエルト・ボードルの副官になって10年が経っている。もしもバルツァー・フエルト・ボードルに何かあれば、彼が次の万人長になることも王に伝えている。

 軍は世襲ではなく、実力主義だと標榜しているバルツァー・フエルト・ボードルは、本当の息子よりもラルドを息子のように可愛がっている。


「久しぶりの獲物だ。存分に楽しもう」


 ラルドは思っただろう。自分が万人長になるのには、あと十年はかかるだろうと。本来であれば60歳と言えば、引退していてもおかしくない。しかし、軍役をバルツァー・フエルト・ボードルは続けている。ラルドは生涯この男には勝てないだろう思っていたが、獰猛に笑う男を見て、その思いは確信に変わる。


 バルツァー・フエルト・ボードルは、広場に集められた千人の前に出る。


「勇者諸君、準備はできたようだな。これから我らが王に反逆した愚か者どもの討伐に向かう。先陣を務めたシャリス百人長のことは聞いていると思う。今回の戦いに失態はない。なぜかわかるか?」

「将軍がおられるからです」

「そうだ。お前たちを率いるのはこの私だ、負ける要素などない。そこに君たちの力が加われば、最強と言う言葉しか出てこない。反逆者共の狩りとしゃれ込もうじゃないか。いくぞ、出陣だ」


 バルツァー・フエルト・ボードルの演説を聞き、未だに戦場に出たことも無い者もいたが、全ての者の心が奮い立った。この将軍が居れば勝てると。


「「「「オオオオオオォォォォォーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

 

 歓声と共にバルツァー・フエルト・ボードルは馬に跨り、門へと歩を進めた。バルツァー・フエルト・ボードルの後には千人の兵士が続く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アクの指示でサントンとハッサンは、解放軍の残りをまとめるべく外に出た。


 外ではゲオルグが元々盗賊団からの繋がりのある古参の者達に声をかけて三十人ほどのメンバーが固まりを作りつつあった。

 サントンやハッサンも新規加入のメンバーと、自分達と年の変わらない元盗賊団のメンバーのとこに行って数を揃える。サントンの声に従って、五十人ほどが集まった。


「親父、待てよ。行かせるわけにはいかないぜ」


 ハッサンは、ゲオルグ達が今にも出陣しそうな雰囲気を察して止めに来た。


「ハッサンよ。ここからは男同士の戦いだ。子供の出る幕じゃなぇ、邪魔するんじゃね~よ」

「親父は間違ってるぞ。これは俺達皆の戦いだ。親父一人が突っ走っても何もいいことなんかねぇよ。何より旗である親父がやられた時点で俺達の負けじゃねぇか」


 ハッサンにしては、言葉を選んだ説得だった。


「そうだ。この戦いはもう詰んでるのよ。だから被害を最小限にするためには、俺達が出ていってやられてくるしかねぇのよ」

「親父、死ぬ気か?」

「だから、これは男の道だといっただろ。まだ子供のお前に邪魔する権利はねぇぞ。お前には未来がある。ハッサンよ、お前は若いんだ。だから生きろ。母さんを頼むな」


 ゲオルグが髭面のゴツイ顔でハッサンに笑いかける。ハッサンはもう止められないと言葉を続けることができなくて俯いてしまう。

 アクにはどうにかしてゲオルグ達の出陣を思いとどまらせてほしいと言われた。それが出来なくても時間を稼いでほしいとハッサンは頭を珍しく働かせた。しかし、ハッサンの心には、もう俺には言う言葉がねぇよ。


 ハッサンは父の顔を見てそれ以上何も言えなくなった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 フードを被り直したルーは、アクに頼み事である宿の一室の扉を叩いていた。


 コンコン、コンコン。


「は~い。誰?」


 女性の声が聞こえ、中から出てきたのはエリスだった。エリスはフードを深々被った美少女を見て、問いかける。


「私はマスターの使いで来ました」

「マスター?」

「マスターアクです」

「アクがマスターなの?」

「はい」


 アクの使いだと言われて、エリスはどうして美少女が来るのかと戸惑いと怒りが浮かんできた。だが、アクが何の意味もなく人を使わせるとは思えない。


「それで用件は何かしら?」

「今からあなた様のお父上であるダント様と、ゲオルグ様が無謀な特攻をかけようとしているから何としても止めてほしいと、マスターからの伝言です」

「私に父達を止めろと?」

「はい。無理ならば時間を稼いでほしいと」

「どうして私なのかしら?」

「それは私にもわかりません。でもマスターは言っていました。エリスならできるからと」

「そう私ならできるといったのね」

「はい」



 アクはエリスを頼った。エリスならばダントを止めてくれるかもしれしない。エリスもアクから与えられた役目を嬉しく思った。


「じゃ、その頼み任されました。すぐに準備するから、あなたはどうするの?」

「私はエリス様の護衛を仰せつかっております」

「あなたが護衛?」

「はい。私は」


 ルーはフードを取って自分の正体を晒す。それもアクに言われていたことだ。


「獣人なのね」

「はい。私は戦う事に長けています。護衛の任に支障はないかと」

「アクの指示なのよね?」

「はい」

「なら従うわ。お願いします」


 ルーは嬉しくなった。酒場ではまるで化け物を見るような目で見られた。エリスに正体を話したときも正直怖かった。また化け物を見るような目で見られたらどうしようかと、エリスはフードを取ると驚いた顔をしていた。でも、微笑んでルーに握手を求めて来てくれる。


「こちらこそよろしくお願いします」


 ルーも笑顔で返した。エリスの準備ができるまで、エリスの部屋に入れてもらえたので、ベッドに座り外を眺める。マスターはどうするのだろうか?絶望的な戦況、仲間の分裂、打つ手のない今の現状をどう打開するのだろう。


 最悪ルーは自分とマスターだけなら逃げられると思っている。しかし、マスターはここに住む者達全てを助けたいと思っているのだろう。

 自分には思いも付かない作戦を考えるマスターを見られるのは楽しみだという気持ちが湧いてきていた。

いつも読んで頂きありがとうございます。



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