閑話 その他の勇者様9
明日から第四章を開始したいと思います。
誤字・脱字・文章がおかしいところがあるかと思います。
ご報告いただければ嬉しく思います。
光の勇者である天野 光賀は焦りを感じていた。バッポスを師事するようになって、確実に強くなっている自覚はある。魔法もたくさん覚えた。剣術も王国で一番になった。それでも他の勇者達に比べたら自分の存在は影が薄いと感じていた。
自分と共に召喚された一番年上で冴えないオッサンだと思っていた闇の勇者は、召喚されて三日でいなくなった。無責任な奴だと思ったが羨ましくもあった。異世界に来て冒険に出たいという気持ちは自分にもあったのだ。自分に与えられた使命感で、勝手なことをしてもいいのかわからなかった。
火の勇者、風の勇者として召喚された一つ年上の女性二人は、物凄く強かったと聞いている。王様を守っている近衛兵を瞬殺で倒して、魔王を見てくると旅立って行った。自分も魔王と戦える自負はできた。だが、二人のような行動ができるかと聞かれればどうだろうか?
そして自分より劣ると思っていた、土の勇者の殺気には驚いた。土の勇者は、見た目は確かに鍛えられた体をしていたが、この世界に来てから水の勇者と共に、図書館や城下に出て遊んでばかりいた。まじめに訓練もしない不真面目な奴だと思っていた。だが奴は牙を隠していた。自分にはない殺気を、人を殺す覚悟を奴は持っている。
水の勇者の真価はわからないが、心を読めるというだけで自分にはもっていない特殊な能力を持つ。この世界に召喚されたとき、自分は浮かれていた。他のメンバーを見ても自分が一番勇者に向いていると思っていたのに今では一番冴えない。
「どうかしたの?」
コウガのベッドの中、全裸で寝そべっている。この国の王女フフリア・ミシェル・ルールイスは身体を起こす。
「いや、なんでもないんだ。少し考えごとをしていてね」
「それならいいのだけれど。すごく苦しそうな顔をしていたから」
「心配かけてすまない。僕は大丈夫だから、お休み」
「そう、でも一つだけいっておくわ。私にとって勇者はあなただけよ」
フーリアはコウガの不安を取り除くために言葉をかけた。コウガに心配をかけまいとする姿に、その言葉は甘い響きが込められていた。
コウガは順調に歩んでいる。それは誰の目から見ても間違いないもので、あとは魔王が攻めてきたときに倒せれば真の勇者としてなれていただろう。
次の日の報告を聞くまでは・・・
「王様どうされました?」
朝早くにコウガとフーリアは王様に呼び出された。そこにはすでに呼ばれていたらしい、土の勇者の金剛 護がいた。
「良い報せと悪い報せがある」
王様はもったいぶった言い回しをする。異世界に来て一カ月ほど経ったことで、ある程度この国の人が腹黒いことは理解することができた。
「では悪い報せからお願いします」
金剛がコウガが話すよりも早く質問する。王様や大臣達の受けも金剛の方が上がっているので、これに不満を抱く者もいない。
「うむ。悪い報せは金剛お前にじゃ……すまぬ。お前をカブラギ皇国に使者として出すことはできなくなった」
「っ!どうしてですか?」
驚きはあったようだが、何とか冷静に聞き返した。
「向こうから土の勇者だけは受け入れられぬと書状が届いたのだ」
「土の勇者だから?」
「そうじゃ。あの国は昔、土の勇者により滅ぼされそうになったことがあるらしい。書状が来てから調べたので詳しいことはわからぬが、そういうことだ。すまない」
王様は心の底から申し訳なさそうに頭をさげた。
「いや、王様はちゃんと助力してくれました。ここからは俺の戦いです。ありがとうございました」
「どうするつもりじゃ?」
「どうにかしてカブラギ皇国に入ります。俺には雫しかいない」
「そうか、できる限りのことをしよう。だが無茶だけはせんでくれ。無様じゃが、カブラギ皇国との戦争は望まぬ。そして何より水の勇者はあちらで優遇されておるらしい。心配は少ないため焦らず、じっくり考えてほしい」
「わかりました。ありがとうございます」
金剛は聞きたいことを聞いたとばかりに、良い報せを聞かずに謁見の間を後にした。
「土の勇者は……そっとしておいてやろう」
王様の言葉に大臣達も頷き合う。
「王様、では次の良い報せを教えていただけますか?」
金剛がいなくなったので、コウガが王様に続きを促した。
「そうじゃったな。実は火の勇者、風の勇者が魔王ヴィクターを倒したと護衛のエルファルトから連絡があった。連絡には一週間前に倒したと書かれている。さらに現在も暗黒大陸を旅していると記載されておる」
「なんと魔王を倒したと」
大臣達は驚いていたが、声には喜びが含まれていた。だがコウガは地面を失うかと思うぐらい心が乱れた。魔王を倒しただと?この俺が倒すはずだった魔王を相手の陣地に赴き倒したと言うのか、神代 火鉢の戦いを見ていない。コウガには獲物を横取りされたという思いだけが募った。
「そうじゃ、これでひとまず我らに有った恐怖は解消されよう。火の勇者、風の勇者一行が戻られれば褒美を渡さねばならぬだろうな」
王様は今まで見たことがない顔で喜び、これから勇者達の処遇について考えなければならないと思っていた。
「王様、本当に良き報せですね」
コウガは笑顔で本当によかったと繰り返した。
「光の勇者コウガよ。これからの事について話しておきたい。後で時間を頂けるかな?」
「もちろんです」
コウガが即答し謁見の間での会合は終わりを告げた。コウガはそのまま王女を連れて、王様のプライベートルームに入った。王様のプライベートルームは、家族の者か使用人しか入ることを許されていない場所であった。そこにコウガが入れるのは、フーリアとの関係を王様も認知しているからだ。
「待っておったぞ」
会合の後、何人かの貴族や大臣の相手をしてから来たので、王様を少し待たせていた。
「失礼しました」
コウガは言い訳せず、素直に謝った。
「よいよい、それで光の勇者よ。お主に頼みごとをしなければならぬ」
「はい、なんでしょうか?」
「火の勇者一行が魔王を討伐した話に偽りはない。ただそれはあまりにも強大な力なため、その力が我らに向けられては困るのだ」
「確かに脅威になるかもしませんね」
自分たちに向けられることを考えたのか、コウガとフーリアは唾を飲み込む。
「そこでじゃ、コウガよ。お主に火の勇者、風の勇者討伐を頼みたい」
コウガは王様の言葉が理解できなかった。いや理解はできている。だが状況についていけなくて固まってしまう。
「今なんとおっしゃられました?」
「他の勇者を倒してほしいと言ったのだ」
「相違ありませんでしたか……」
「同郷の者を殺すのは心苦しいと思うが、これもルールイス王国存亡のため、ひいてはフーリアのためじゃ」
王様はコウガと、フーリアが男女の関係であることを知っている。そして光の勇者であるコウガが一番与しやすいと思っていた。
「考える時間をください」
肩を落としたコウガはプライベートルームを後にして、部屋に引きこもった。
「なんなんだ。どうして俺が他の勇者を殺さないといけないんだ。魔物狩りをして、魔王を倒して、勇者になって、王女であるフーリアと結婚して終わり。安直な話じゃないのか」
一人暗い部屋の中で考えに耽る。コウガの目には狂気が宿りつつあった。
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