参謀になります終
第三章はこれで終わりです。
アクは自己嫌悪に陥った。みっともない姿を見せてしまった。年端もいかぬ少女の胸で泣き崩れるなんて、なんて恥ずかしいんだ。
うお~~~どうしよ?今すぐ穴があったら入りたい。
「マスター。どうしたの?」
無垢で自愛に満ちた瞳で見つめないでくれるな。余計に恥ずかしい。
「うおぉぉーーー!!!」
自分の作戦で人が死んだことに耐えられなくて、涙が溢れてきた。ルーに優しくされて、とんでもない失態をしてしまった。
「うわっ!ビックリした。マスター、急に大きな声出してどうしたの?」
「何でもない。何でもないからお前もさっきの事は忘れろ。なっ」
「さっきの?ああ、マスターが私の胸で泣いたこと?やっぱり恥ずかしいの?安心しなよ。誰にも言わないから。その代わり美味しいお肉をよろしくね」
悪戯っ子の笑みに、アクもやっと冷静さを取り戻す。ルーが冗談として流してくれているのが伝わってくる。ルーに気を使わせてしまったな。
「はいはい。お前は肉ばっかだな」
「ふふふ」
「どうした?」
「なんでもな~い」
ルーは嬉しそうな笑顔で、アクをじっと見つめてきた。
「なんだ変な奴だな」
「マスターに言われたくないよ」
「俺は普通だ」
「十分マスターは変だよ」
反論しているルーを置いて、アクは村に向かって歩き出す。村では勝利の報告による祝いが挙げられていることだろう。アクはあと始末である捕虜にした者達を牢に入れたり、重傷者はベッドのある部屋に搬送する。けが人は治療魔法使いも医師もいないので、村の者が応急手当をする。
「来たか、アク。我らが軍師よ」
ゲオルグはもう酔っているのか、芝居かかった口調で、酒場に入ってきたアクに絡んできた。
「もう酔ってるんですか?」
「まだまだ序の口だ。そんなことより祝いだ祝い」
「ほどほどにしてくださいね」
「お前も飲め」
ゲオルグが酒を勧める。アクも今は酔いたい気分だったので、杯を受け取り一気に飲みほす。
「おっ?今日はノリがいいじゃねぇか」
「飲みたい気分なんです」
「祝いだからな」
ゲオルグは何も聞かずに酒を注いでくれる。アクはこの世界にきて、初めて浴びるように酒を飲んだ。
「マスター、大丈夫?」
いつの間にか両手に肉を持ったルーが傍に立っている。酔いがまわってるせいかルーが三人に見える。
「おう、俺は大丈夫だ」
「もう~ダメそうだね。家はわかる?」
「ダイジョウブラッテイッテルダロ」
「はいはい」
アクはルーに引きずられて宿に帰った。どうして宿の部屋を知ってたかと言うと、単にアクの匂いが一番残った場所を探すと宿の一室にたどり着いたのだそうだ。引きずられている内にアクは寝てしまったので、ルーはアクをベッドに寝かせ、そのままアクの隣に眠りについた。
王国との最初の戦いが幕を閉じた。
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「何っ!シャリスが負けただと?」
王の謁見の間にて、一人の男が膝をついて王に報告していた。シャリスが敗れたことは驚いていたようだが、それ以上に何かを思案するような顔をしている。
「はい。シャリス百人長は捕虜となり、兵の半分以上が戦闘不能。残りは捕まったと思われます」
「そうか……」
普段から勇ましい王は、報告を受けて落胆するどころか不敵な笑みを浮かべ、喜んでいるように見える。 いや、実際そうなのだろう。敵に恵まれなかった王は戦いに飢えていた。
「でっ、敵の数はどの程度だ。まさか二十とか言わんよな」
「詳細はわかりません。ですが、百はいるかと……」
報告の者も、森に潜む敵の数をはっきりと把握できずにいた。
「戦ったのに何故わからん!」
王の怒声が謁見の間に響き渡る
「申し訳ありません。敵が姿を見せたのは二十騎だけで、後は森に潜んだまま姿を見せませんでしたので、正確な数字がわからないのです」
報告に来た兵は平伏し、早口に報告する。
「使えん奴め」
「申し訳ありません」
「もう良い、下がれ」
「はっ」
兵は頭を下げたまま謁見の間を後にした。
「ふん。バルツァーはいるか」
「ここに」
バルツァーはバンガロウ王国の唯一の将軍で万人長を務めている。白髪、白髭の屈強な偉丈夫には傷が顔や身体中に刻まれている。
バルツァー・フエルト・ボードルは、王国に二人しかいない貴族でもある。貴族にもかかわらず冒険者として名前が売れている変わり者の人物で、冒険者時代はAクラスにまで上り詰めた。
「兵はいくら要る・」
「五百頂ければ」
「足らんな。千を連れて行け。相手は罠も張ってくるであろう。十分に用心していけ」
「はっ」
「バルツァー。戦だ!存分に力を揮え。負けることは許さん」
「もちろんでございます」
屈強な老兵が、重い腰を上げてアク達に襲い掛かる。
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