参謀になります9
アクは罠が張り巡らされた森の中ではなく、街道のど真ん中に拾ってきた石たちを置いていく。大きい石は人一人分の高さ以上の物まである。街道の片道を塞ぐほど大きな石も置いて準備を完了する。
「マスター。どうしてこんなめんどくさいことするの?しかもこんな夜に?」
アクはルーを連れて、拾ってきた石を街道に来ていた。
「明るいうちにしてしまうと偵察が見つけてしまうかもしれないだろ。昼に偵察に来ていても、この辺には何もなくて、無事に進めると思っている所に邪魔な石が出現すれば戸惑うからな。相手の馬の脚も止まるから時間を稼げる」
アクの説明にわかったような、わからないような顔でルーは興味なさそうにしていた。
「ふ~ん。色々考えてるんだね」
「ルーは眠くないのか?」
「私は夜の方が調子いいよ。なんだかお月様が出てると力が湧いてくるの」
狼の特性か?月が出ると強くなるとかありえるかもな。
「そうか。それで力が漲ってるのか?」
「うん。今なら誰にも負けないよ」
「ルー、一つ言っておく。明日戦闘が開始されても、お前は俺の傍を離れるな」
「どうして?あたし強いよ。私が敵を倒した方が早いよ?」
無邪気に笑うルーに、アクは真剣な顔で語りかける。
「この戦いはここに住んでる奴が力を合わせてしないといけないことなんだ。俺や、ルーが力を貸すのは間違ってるだろ?」
「え~でもマスターがこの作戦考えたんでしょ?力を貸してることにならない?」
「俺は知恵は貸しているだけだ。でも実行するかどうかはここに生きてる者達が決めるんだ」
「ふ~ん。よくわかんないけど、マスターが言うなら私はマスターから離れないようにするね」
「よし、良い子だ。作業も終わったし飯にしよう」
素直に従うと言ってくれたルーの頭を撫でてやる。銀色の髪はスベスベしていて触りご心地がいい。ルーは気持ちよさそうにしていたが、ご飯と言う言葉にルーの目がキラキラ光り出す。
「肉だよね?肉だよね?肉じゃなかったらマスターを食べるよ」
「こえ~な。ちゃんと肉も用意してるよ」
アクのブラックホールには、今も一年の分の食糧が入ったままになっている。多少商売で使っても減ったのは微々たるものだ。
「肉を焼くから枯れ木を集めてきてくれ」
「わかった」
ルーはヨダレが今にも零れそうだったが、素直に枯れ木を集めに向かった。石で土台を作って、骨付き肉を焚火の上で焼いていく。調味料は塩とコショウで味を調える。
「狼の獣人って、もっと賢いと思ったんだけどな。素直なだけマシか……」
ルーの集めた枯れ木を焚火にセットして焼いた肉に塩コショウを振りかけた食べた。
「おいしい。マスターは料理上手だね」
「いや、ただ胡椒をかけただけだから」
「じゃ魔法の調味料だね」
「お前は本当に美味そうに食べるな」
「だっておいしいもん」
ルーは美少女だが、食べてる姿は獣である。ルーとのほんわか晩御飯を過ごして、アクが用意したテントで眠る。テントはこれからも必需品になるだろうと、エビスに用意してもらっていた。
村に帰ろうかと思ったが、ルーのことを説明するのも面倒なので、今日は内緒で過ごそうと決めた。テントの中で目を瞑り、王国との戦いが終わったら旅にでも出ようかと考えていた。
エリスのこともあるが、ルーの記憶を取り戻す必要もある。
「マスター、おやすみ」
「おやすみ」
誰かと挨拶して寝るのは久しぶりで、なんだか気恥ずかしくも嬉しく思う。
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「アク、準備完了だ。後は騎馬を待つだけだな」
アクの横にサントンが並び立つ。朝早くに合流して、グラウスから騎馬隊が到着するのは昼頃になるだろうと連絡を受けている。
「サントンも最後まで気を抜くなよ」
「おう、あったりめぇよ。俺がお頭になって、初めての戦いだからな。そんなことより、お前こそ大丈夫か?見えないところで働いてるんだろ?」
サントンは街道に置かれた石を見て、アクが置いたのであろうことを知っていた。
「大丈夫だよ。何よりサントンに恩は返さないとな。お前が俺を仲間にしてくれるように頼んでくれたから、今があるんだ」
「そうだったか?でも俺にもまだ秘密があるんじゃないのか?」
「記憶のことか?」
「魔法のことだ。俺も最近魔法を使えるようになってわかったけどな。お前から魔法の気配がするんだ。記憶にも秘密があるのか?」
「何?魔法って後からでも使えるようになるのか」
サントンとアクは顔を合わせて笑いあった。歳は離れているが、アクはサントンのことを親友だと思えていた。
「お互い、まだまだ話すことがありそうだな」
「ははは、確かにな。サントン……勝とうな」
「当たり前だろ」
互いに拳を突き出し、コツンと合わせる。
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「来たぞ!!!」
新たに解放軍に入った、ダンが偵察から帰ってきた。ダンは怒声を上げながら敵襲を知らせる。土埃が遠くの方から見えてくる。
「行くぞ!!!」
ゲオルグが出陣を口にして、騎馬隊二十騎が街道に姿を現した。ゲオルグたちは囮で、王国の騎馬隊を引き寄せために出陣したのだ。
「盗賊共!!!すぐに捕えてやるぞ!!!突撃!!!」
シャリスの怒声が響くが、ゲオルグ率いる騎馬隊は動かない。姿を現しただけで何もしない。
「奴らは我々が来るまで待つつもりか?お前ら、早々に蹴散らして夜になる前には王都に帰るぞ」
シャリスはゲオルグたちをにバカにされたと思った。しかし、シャリスが勢いに任せ、突撃をかけようとするが、いたるところに置かれている石により馬達の行軍が上手くいかない。
「なんなのだ、この街道は、ちゃんと整備していないのか」
「シャリス様、これは罠ではないでしょうか?」
「罠だと?」
副官の声に反応したシャリス達が気付いた時にはすでに遅く、右側の森から弓が降り注ぐ。
「罠か」
シャリスが降り注ぐ矢を剣で払い落とす。兵士達はそうはいかず、何騎か打倒されてしまう。
「左の森に入って、木の後ろに隠れるんだ。弓はそれほど多くあるまい」
シャリスはここにきて、未だ盗賊たちの人数を把握できていなかった。馬に乗ったまま左の森に入っていく。傷ついた兵達は肩を貸し合い、シャリスの後を追って森へと続く。
また、それもアクによる誘導であることに、シャリスたちが気付いたのは左の森に入った後だった。森に入った者は、悉く用意された罠に嵌まっていく。落とし穴に落ちる者、ロープによって足を取られる者、待ち伏せしていた解放軍によって倒されていくのだ。王国騎馬軍はみるみる内に数を減らしていった。
「どうなってる?誰か現状を報告しろ!」
シャリスの怒声に答える者はいない。唯一敵を除いては……
「お前が大将か?」
「誰だ?お前は?」
そこには背中に二本、腰に二本の剣を差したサントンが立っていた。
「俺はサントン。解放軍のリーダーをしている」
「お前が首謀者か!!!」
憎々しげにサントンを見つめるシャリスは冷静さを欠いていた。騎乗したままのシャリスは、森では障害が多すぎて思うように動けない。サントンと剣を合わせるが、それでもシャリスの愛馬メルティーは奮闘していたが、シャリスがメルティーの動きについていけなくなり、バランスを崩してしまう。
サントンに隙を見せたのが悪かった。腰の二本の剣を抜いたサントンが、シャリスの目の前に迫る。シャリスも地面に伏して剣を抜くが遅かった。サントンの右手の剣が、シャリスの剣を弾き、左手の剣が首に添えられる。
「終わりだな」
「殺せ!生き恥をさらせん」
「それは俺の決めることじゃない」
「何っ?武人の誇りを踏みにじるのか」
「関係ないな。俺は武人じゃない」
「くっ」
「大将首取ったぞ!!!勝鬨をあげろ!!!」
太鼓が打ち鳴らされ、シャリスと数人の兵士を捕まえる。ケガ人はいるが、解放軍の死者はゼロだ。対する王国軍は、死者十五人、重傷者五十六人、軽傷者二十九人後の者はどこかに逃げてしまった。
「快勝だな」
ゲオルグがアクに声をかける。
「まだまだこれからです」
「そうだが、今日の勝ちを祝うぞ!!!」
ゲオルグはそういうと太鼓を打ち鳴らす。
「お前ら!!!祝いだ!!!」
ゲオルグの祝いの声は高々と解放軍中に広まっていった。
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「マスター?どうして泣いているの?」
「泣いているか?」
「うん」
「そうか……」
それ以上はマスターは何も語りませんでした。私のマスターは初めて会ったときから変わっていました。私と違う人族なのに、私に優しくする。肉を食べさせてくれる。散歩に連れてってくれる。魔法が使えて、戦うのが怖いくせに人を多く殺せる作戦を立てられる。
「マスター」
私はマスターの頭を抱きしめてあげました。私も頭を撫でてもらうと気持ちいいから、マスターは私の胸で泣き崩れました。その姿は情けなくてお世辞にもカッコ良くなくて、でもこの人をほったらかしにしてはいけない。一人にしてはいけない。私が守るんだ。小さな胸の中で、私は誓いを立てました。
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