参謀になります8
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アクはルーを連れて草原にきていた。草原は、盗賊団のアジト近くに見つけていたので、走りたいと言われたときに真っ先に思いついた。
「アクは魔法使いなの?」
「呼び捨てかよ。せめてマスターと呼べよ」
「え~言い難いよ」
走ることが楽しいのか、最初のだんまりはなりを潜め、様々な質問を投げかけてくる。
「それでもだ。誰かに見られたとき説明がめんどくさい」
「は~い。マスターは魔法使い?」
首を傾げながら質問をしてくる美少女は正直可愛い。銀色のフワフワした紙が揺れて、狼の耳がピクピクと動いている。
「そうだ。これでいいか」
「案外弱くないのかな?」
「どうだろうな。だけど守ってもらいたいのは本当だぞ」
「ふ~ん」
もうどうでもいいという感じで、ルーは草原を走り去って行った。やっぱり狼の獣人も、走るのが好きなんだろう。本当に楽しそうだ。
「俺もそろそろ準備をするか」
アクはルーが走り回ってるのを遠巻きに見ながら岩場に移動した。落ちている石をかたっぱしからブラックホールに吸収していく。
「何してるの?」
いつの間にか、ルーが横に立っていた。
「うわっ!いつの間に来たんだよ」
「えっ?今だよ。それより何をしてるの?」
「言っただろ。俺は解放軍をしてるって、次の作戦のための準備だよ」
「石を集めるのが?」
「今回の作戦に必要なんだ」
俺たち解放軍にはお金がない。この岩場には必要な物を取るため元々来るつもりだったのだ。
「ふ~ん。何をするの?」
「作戦か?それは見てのお楽しみだな」
「え~教えてよ。マ、ス、タ-」
美少女が耳元で甘えた声を出す。
「お前はどこでそんなこと覚えて来るんだ?」
「一緒に捕まってた魔人族の子が教えてくれたよ」
「そうか」
案外あの状況を楽しんでいる者もいるんだとアクは感心すると同時に疲れた顔をする。なんだか俺の思っている獣人のイメージと全然違う。ため息を吐きながら、もう一度ジト目でルーを見る。
「な~に?」
アクの態度にクリクリした目で見返されるとたまらなく可愛い。くっそ~、十四歳の女の子にドキドキしちまう俺って危ない奴だったのか、ルーは見た目はまだ幼いが、もう十四歳で、あと一年後には成人として体が急成長するらしい。
「なんでもね~よ」
「ふ~ん。変なの」
ルーは不思議なものを見るように、首を傾げてアクを見上げている。いちいち行動が可愛い過ぎて狙っているのかと叫びたくなる。
「そんなことより走るのはもういいのか?」
「うん。思う存分走ったから。それにこれからはいつでも走れるでしょ?」
「まぁ、そうだな。じゃそろそろ行くか」
「うん」
アクは必要な石を拾い集めたので、ルーを連れて転移の魔法を使った。
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サントン率いるシルバーウルフ解放軍は罠を張るために準備に勤しんでいた。バンガロウ王都からクック村までは街道が一本道になっている。
山の麓に作られたクック村は、街道沿いを森に囲まれているので罠を張り巡らせるのには最適だった。
「お~い。そっちの準備はどうだ?」
解放軍に参加しなかった男衆も総出で準備を手伝ってくれている。罠は街道を挟むように左右の森に張り巡らせる。ロープを張ったり、穴を掘ったりして、弓を撃つ用の壁を作ったりと自然の要塞を作るのだ。
「OKだ。ロープの強さも大丈夫だな」
「だけど、本当に役に立つのかね、こんなものが?」
罠のチェックをしているサントンの横に、ハッサンがやってくる。
「さぁな、アクが言うことだ。俺達が考えてもわかるかよ」
「そりゃそうだ」
「そんなことよりお前の方は準備終わったのか?」
「おう、ばっちりだ。いつでも王国の野郎が来やがっても大丈夫だ」
ハッサンは見た目に反して几帳面な男なのだ。意外と細かい仕事が得意だったりする。
「まぁその勢いは明日までとっておけよ。明日はお前が右、俺が左の指揮を執るんだ」
「わかってるっての、今日は酒でも飲んで寝るわ」
「そうしろそうしろ」
ハッサンが去った後、一通りのチェックをしたサントンも村に帰る。
「サントンさ~ん」
村の門を通るとすぐにロカの声が聞こえてくる。
「ロカか、どうした?」
「マスターが呼んでます」
ロカが言うマスターは、ギルドマスターのゲイザーのことで、サントンは初めからオッサンと呼んでいる。
「オッサンが?」
「はい。ついてきてもらえますか?」
「わかった」
ロカに連れられて、サントンはギルドの裏に来る。サントンたちが試験を受けた場所だ。
「小僧、来たか」
「こんなとこに呼び出してどうした?オッサンじゃ、俺の相手には荷が重いぞ」
「そんなことわかっとるわ。そんなことよりじゃ。お主には土魔法の才能がある」
ゲイザーは兼ねてよりサントンの中に、土属性魔法を感じていた。
「はぁ~俺は魔法なんか使ったことないぞ。って言うか使い方わかんねぇし」
「そうじゃろう。だからワシはお前に魔法を教えてやる」
「ハァ~?俺が魔法を?」
「うむ。お主の戦闘スタイルならワシの魔法は相性がいいと思うぞ」
魔法とは生まれついて自ら感じる者もいるが、ほとんどが親から学ぶと言われいる。しかし、サントンは生まれつき親がいないため、自身の魔法の存在を知らなかった。
ゲイザーの申し出に今よりも強くなれると知ってサントンの目がギラギラと輝き始める。
「まぁいいか、教えてくれよ。どうすればいい?」
「簡単じゃよ。ワシは魔法でお主を攻撃する。それをお主の魔力で受け止めよ」
「おう!どんとこい」
ゲイザーは魔力を体の周りに循環させていく。ゲイザーは掌を合わせ、手の中に魔力の固まりを作り出す。ゲイザーが目を開けると、手の中に作り出した魔力をサントン向けて放った。
サントンは逃げることなく、魔力の固まりに手を伸ばす。今まで味わったことのない衝撃がサントンの体を襲い、物凄い勢いで後ろに吹き飛ばされる。
「魔力で受けよと言うたであろう。そんなことでは魔力の開眼はできんぞ」
サントンはゲイザーの言葉を遠くに聞きながら、魔力の固まりに意識を集中させる。吹き飛ばされながらも、受け止めていた魔力の塊が手の中で焼けるような痛みを発する。
サントンは抵抗するように意識を集中させると掌が光り出し、ゲイザーが放った魔力を、サントンの手の中に吸い込まれていく。
「見事。なんとお主のユニーク魔法は吸収か」
ゲイザーは満足そうに頷き、ロカはサントンなら当たり前だと言わんばかりに満面の笑みで拍手をする。
「ユニーク魔力?吸収?」
サントンはヘトヘトになりながらも自分が行った魔法を確認するように何度も掌を見る。
「ユニークとは生まれ持った個人しか使えない魔法のことじゃ。そして吸収とは相手の魔法を自分の物として使えるんじゃよ」
「それでどうじゃ?魔法を使った感想は?」
「不思議なもんだな。体の中心が熱い気がする」
「それがお主の魔力じゃよ」
「これはどうやって使うんだ」
「これから教えてやる。だから明日は生きて帰ってこい」
「オッサン」
ゲイザーなりの励ましに、サントンは照れて頭を掻く。
「サントンさん。私も待っています」
ロカは恋する目でサントンを見つめる。
「あんがとな。じゃ一杯奢るから飲みにいこうぜ」
「なんじゃ一杯だけか?」
ゲイザーは物足りなさそうな顔でサントンを見る。
「今日は俺のおごりだ。好きに飲めよ」
「そうこなくてはな」
「マスター。飲み過ぎはダメですよ」
「わかっておるよ」
「いくぞ」
サントンがギルドに入ると、賑わっていた酒場がさらになる盛り上がりをつけ加えた。戦闘前夜とは思えない、賑やかで楽しい一夜を過ごした。
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