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参謀になります6

 エリスとのドキドキする時間を過ごしたアクは、王都にあるエビスの店に来ていた。


「これはこれはアクさん、久しぶりです」

「エビスも元気そうで何よりだ」

「それで、今回はどうされました?」


 エビスは商人である。商人とは誰よりも耳聡く、情報を集めているものだ。


「エビスも、もう知っていると思うが、クック村で反乱が起きた」

「反乱ですか、私の情報では二十人ほどの盗賊が、クック村を愚かにも占拠しているだけということですが」


 エビスの言葉にアクは頬を緩ませる。


「商人の情報でそれなら、情報操作は上手くいっているようだな」

「何かあるのですか?」


 エビスも商店をまとめる者だ。アクの態度に何かあるとすぐに気付いた。


「反乱は俺が計画した」

「それは、どうしてですか?」


 エビスは目を細め、何かを探るような態度を取る。エビスの中でアクという人物を考え、答えを探すように思考を巡らせているのだろう。


「この国を転覆させるためだ」

「王国を滅ぼすということですか?本当にそんなことができるとでも?」


 エビスはアクの言葉に、驚きはなかった。反乱と言う言葉から、そこまでは予想できていたようだ。しかし、本当に国と戦えるかはまだ信じられないようだ。


「ああ、バンガロウ王国を滅ぼして新たな国を作る」

「そんなことが本当にできると思いますか?」

「俺ならできる」

「あなたが特別な力を持っていることは知っていますが、それだけではとても叶うとは思いませんよ」


 エビスにしては辛辣な言葉をアクに投げかける。それはエビスがアクを試しているような、そんな目をしていた。


「先に言っておく。俺の味方になれ」

「……すぐにはお答えできかねます」


 エビスの言葉に応える代わりに、アクはエビスを仲間へ勧誘する。


「どうしてだ?」

「私個人としてはアクさんに大恩がある。しかし、商売人としては損得を考えなければなりません」

「そういうことか、なら余計に味方になっていた方が得だぞ。損はさせない。いや、むしろ今味方にならなければお前は損をするぞ」

「どうしてそこまで自信を持てるのかわかりませんが、根拠がありません」


 エビスにしてみれば、アクの言葉は絵空事なのだ。実際にクック村を占拠したぐらいで何ができるというのか、エビスにはアクの考えがわからない。


「エビス、どうしてもダメか?」

「はい。商品を売ること、今の情報を他人に話さないことは約束します。ですが、お味方はできません。私には何百人もの使用人を食べさせる必要があるんです」

「そうか、すまない。強引過ぎたな。邪魔をした」


 アクにしては珍しい強引なやり方に、エビスは頑として、商人としての自分の立場を優先した。それが彼の信条であり、彼が商売を成功させていた人物だと理解できる。


「アクさん、必要な物はありますか?」


 エビスは味方はできないが、しかし、個人的にはまだまだアクに対して恩を返したいとは思っていた。


「……なら、俺の護衛がほしい。誰かいないか?」


 アクはしばし考えを巡らせ、そんな話を持ち掛ける。魔法があるので、大抵のことは何とかなるが、アク自身にこの世界で戦うだけの戦闘能力は皆無なのだ。


「護衛ですか?」

「ああ、逆らわない。そして強い護衛がほしい」

「強いだけなら傭兵ギルドに行けばいるでしょうが。逆らわないとなると……」


 エビスはしばし、考えを巡らせ一つの答えを出した。


「心当たりがあります。ついてきていただけますか?」


 エビスは真剣な顔になり、店の地下にアクを案内する。地下は暗闇で、エビスが持っている蝋燭の明かり以外に光が入らない。たまに蝋燭の明かりで見えるのは、たくさんの檻だった、檻の中に人影も見える。


「エビス、ここは?」

「奴隷市場です」

「奴隷市場ってお前」

「この国では合法ですよ。ですがここにいる者達は、特別でして。あまり表に出せないのです」

「合法なのか?」


 アクは合法と聞いて、元の世界とのギャップに驚きを隠せない。


「はい。奴隷は罪を犯した者や借金などを返せない者がなります」

「一生奴隷なのか?」

「いえ、借金をした者は働きに応じて給金を受け取り、そこから自分の借金を返していきます。返し終えたら解放されます。犯罪者は、その犯罪に応じて奴隷になる年数を決められており、年数が終われば奴隷から解放されます」


 エビスの話を聞いていると、ちゃんとした国の法として聞こえるので、間違っているようにも聞こえない。


「そういうことか。でっ、ここが特別だと言うのは何故何なんだ?」

「アクさんは秘密を教えてくれました。それに報いるため、私の秘密を教えます」

「合法ではない奴隷と言うことか」

「はい」

「それでどうして俺をここに?」

「ここにいる奴隷がアクさんの護衛に最適ではないかと思いまして」

「奴隷が護衛?」

「はい。ここにいる者達は特別ですので、ついてきてください」


 暗闇の中をエビスが持つロウソクの灯りだけで進んでいく。地下は奴隷たちが何日も風呂に入っていないせいか獣臭が強く、鼻がひん曲がるかと思ってしまう。エビスが進むのを止めると、一番奥に行きついた。


「ここです」


 エビスがそういうと、近くの壁のロウソクに火をつけていく。明るくなると大きな檻が三つあり、それぞれに少女がベッドに座っていた。


「女の子だな」

「ただの女の子ではありません。右の檻にいるのは竜人族、真ん中の檻が銀狼族、左の檻が魔人族の娘です」


 アクはエビスの説明に驚きを禁じ得ない。この世界の歴史をあまり知らないアクでも、獣人とバンガロウは敵同士であり、大きな戦争をしたことを知っている。


「他種族の娘達か」

「はい。この中からお一人をお譲りします」


 アクは特別の意味をすべて理解し、エビスがどうしてここに連れてきたかを理解した。


「一人だけか?」


 珍しい種族ということもあるが、ここにいる娘たちは確かな力を持っていることだろう。アクは全員が必要な気がした。


「アクさんは欲張りですね。ですが、一人で十分だと思いますよ。それぞれ普通の人間が使役できる種族ではありませんので」

「それでも全員ほしいと言ったら?」

「白金貨1枚ずついただきます」


 あまりにも高額な金額に驚くが、平然と告げるエビスにぼったくってるわけじゃなさそうだ。


「お前が連れていた護衛と従者を返す。それでどうだ?」

「護衛達が生きているのですか?」

「俺が保護した」

「また恩が増えましたね。ですが、それでも見合いません」

「わかった。じゃ、銀狼族の子を頼む」


 アクはこれ以上交渉しても意味がないと悟り、またエビスが見せる裏の顔に感心して、ここは引くことを決めた。いつかは手に入れたいが、今は一人でも十分だと言う実力を見てみたい。


「では準備しますので上に戻りましょうか」

「ああ」


 蝋燭の火をつけたまま、二人は地下を後にした。その後、エビスは使用人達に用意させて、銀狼族の少女をアクの前に連れてくる。連れて来られた少女は、まだ10歳ぐらいで、身長140cmぐらいだろうか?銀色のロングヘヤーの間から、犬耳が見えており、綺麗にされた顔は真っ白な肌をしている。着せられているワンピースからは、フサフサの尻尾が見えている。

 

 アクは銀狼の少女をゆっくりと観察していく。顔はかなりの美少女で、地下に閉じ込められていたせいなのか、目が虚ろで何を考えているのかわからない。


「アクさん。奴隷契約をしますね」


 エビスが、魔法陣が書かれた紙を差し出す。


「その前にこの子の名前を教えてくれるか?」

「名前ですか?ありませんよ。アクさんが名付け親になってください」

「俺が付けるのか?」

「はい。それも奴隷契約の一環でもありますので」

「そうか、じゃあ、ルーでどうだ?」


 アクは初めての異世界奴隷に戸惑いながらも、ルーという名を少女につけた。気に入ったどうかはわからないが、少女を見ると無表情のまま頷いた。

 アクとしても、思いついた名をつけただけなので、少女が頷いたのならいいかと納得した。


「では、ここにアクさんの血を落としていただけますか?」


 エビスが本格的な契約に入る為、話を進めていく。アクは渡されたナイフで、指先を小さく傷つけて血を垂らす。ルーと名付けられた少女も同じように魔法陣に血を垂らした。


「これで契約完了です」

「それで契約の効力とかは?」

「まず、主人に危害を加えると死にます。次に命令に従わなければヒドイ頭痛に襲われます。最後に、この契約は主となる側が放棄しない限り生涯従うことになります」


 エビスの説明にアクは強力な魔法で縛ったことを理解させられる。エビスに告げた逆らわないとうはこういうことだったのだ。 


「かなり強力な契約なんだな」

「はい。最上級契約の魔法陣を使いました。これもおまけで付けさせていただきます。昔の大戦時に活躍した銀狼種の戦闘能力は未知数です。どれくらいスゴイかわかりません。私は恐れていますので、ここまでにさせていただきました」

「そんなに凄かったのか」

「ええ。銀狼種が一人いれば、一個中隊が撃破されるほどだと言われています」

「そうか、そんなに凄いんだな。ありがとう。こちらも言ったことは守らないとな」


 アクはそういうとブラックホールを出現させて、『リリース』エビスの従者と、護衛と念じる。すると5人の護衛と一人の従者服を着た者がブラックホールから現れる。


「なっ」


 護衛達は今にも剣を振り下ろそうとしている者や、必死で剣を受け止めようと身構えている者などいたが、エビスの存在に気付いて全員が何が起きたかわからないという風に辺りを見渡しだした。


「皆の者、冷静になられよ。盗賊達はもうおらぬ。ここにおわす魔法使いのアク殿が我々を救ってくださったのだ」


 エビスが言った言葉で、護衛達はアクに視線を向ける。


「無事でよかったな」


 続けてエビスが護衛達に声をかけると、護衛達もだんだんと記憶が戻ってきたのか、自分たちの体を見つめる。


「エビス様。我々は盗賊に襲われていて……ここはどこですか?」

「焦らんでもいい。盗賊達から、このアク殿が助けてくれたのだ。ここは我が商店の一室だ。少し食事をして落ち着くがいい」


 エビスはそういうと使用人を呼び、護衛達や従者に食事と部屋を提供して休ませるように言う。全員が去った後、エビスは深々とアクに頭を下げた。


「本当にありがとうございます」

「いや、エビスとはこれからも長い付き合いをしたいと思っている」

「ありがたいお言葉にございます」

「泊まっている時間がないのでな。今日はこの子を連れて帰るとするよ」

「さようですか。ご期待に沿えませんで申し訳ない」


 エビスは仲間の勧誘のことを言っているのだろう。申し訳なさそうに頭を何度も下げる。


「いや、この子を譲ってもらっただけでもありがたい。ではな、良き友よ」

「はい。またお待ちしております。良き友よ」


 アクはエビスの商店を後にした後、食堂に入った。

読んで頂きありがとうございます。

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