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参謀になります5

 集会を終えて、それぞれの仕事に戻ってもらう。アクもゲオルグ達に後の処理を任せてその場を離れた。アクは村はずれへと移動して森の中に入る。


「どこにいくの?」


 アクの様子に気づいて、女衆を纏めていたエリスが声をかけてくる。


「今から王都に行ってくる」

「王都に?何をしに行くの?」

「人に会いに行くんだ。あとは買い物かな」

「大丈夫?」

「・・・」

「顔色がよくないわ。疲れているんじゃない?」

「俺がやらなくちゃいけないんだ」


 アクのどこか追い詰められた表情に、エリスは自分の胸が締め付けられるようなたまらない気持ちになる。気付けば、アクの背中に抱き着いていた。


「なっエリス。何をしてるんだよ」


 アクは女性経験がないわけではないが、10歳も下の女の子から抱き着かれて驚かないはずがない。さらにエリスはアク好みの凄い美人なのだ、抱きつかれればドキドキする。


「アク……私に何でも話して。あなたの抱えているものを私にも分けてほしいの」


 エリスはアクが追い詰められているのを知っていた。最初の作戦も、なるべく人を傷つけないように考えられた作戦だった。アクが人を傷つけたくない人なのだと、エリスは側にいて気づいていた。

 しかし、王国を相手にするこれからの戦いは、相手を殺す事もありえるのだ。その時、アクの心はどれほど傷ついているのだろうか、アクの作戦でエリスや盗賊団の皆だって死ぬかもしれない。

 それをアクは一人で抱え込んでいくのだ。作戦を話しているアクが辛そうにしているのを、エリスだけが気づいていた。


「そんなこと……できないよ。これは……俺が背負うべきことなんだから」


 エリスの言葉は正直嬉しかった。異世界に来て、殺されかけても飄々とした態度を続けていたけど、正直味方と呼べる相手がいなくて、毎日気を張っていた。


「私じゃダメ?」


 エリスがアクを抱きしめる力を弱める。アクは弁明しようと振り返り、泣き顔になったエリスを見た。弱々しく見上げるエリスを、アクは強く抱きしめた。


「ごめん。ありがとう」


 アクはそれだけ言うと、エリスが泣き止むまでずっと抱き続けた。


「……もう大丈夫です。ごめんなさい。みっともない姿を見せて」


 エリスはアクから離れ、顔を隠す。


「いや、そんなことない。でも、どうして俺なんかのために?」

「アクは他の人と違うから。嘘つきで、ズルくて、でもみんなの前では堂々としていて、不思議な人。そしてたまに見せる寂しげな顔を見ていると、私が切なくなってくるの」

「自分じゃよくわからないけど。エリスが俺を見てくれているって言うのはわかったよ」


 アクの言葉にエリスは赤くなる。


「ありがとう。心配してくれて、俺は大丈夫だから。絶対に成功させる」

「でも……」


 エリスが何か言おうとしたが、アクが遮る。


「エリスの気持ちは嬉しい。でも考える時間をくれないか?」

「……わかったわ。ごめんなさい」

「謝らないで。本当に嬉しかったんだ。だけど今は目の前の事に集中したいんだ」

「わかったわ。私、待ってる。絶対無事に帰ってきて」

「ああ」


 エリスが落ち着いたのを確認して、アクは転移の魔法を使って闇の中に消えていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 王国軍百人長のシャリスは、出撃に向けて自分の愛馬を綺麗にしていた。


「メルティー、明日は出撃だ。いつも通り頼むぞ。なぁにいつもの盗賊討伐や、魔物討伐となんら代わり映えしない出撃だ。だけどお前と戦いに行けるのにこれほど嬉しいことはない」


 シャリス百人長は馬をこよなく愛している。バンガロウ王国では馬は貴重で、馬は基本馬車を引くために存在している。騎乗して出撃するのは限られた者達だけで、いい馬に乗れる者はさらに少なく。

 その中でシャリスの愛馬のメルティーは、王国一の名馬と呼べる最高の馬だった。


「シャリス団長。出撃の準備整いました」


 シャリスの部下で、十人長のグエンが報告に来た。グエンは十人長の中で隊長を任され、シャリスの補佐をしている。


「そうか、ご苦労。今日はゆっくり休んで明日に備えるがよい」


 グエンの後ろに控える兵士達にも労いの言葉をかける。


「シャリス団長も休んでくださいよ」


 兵士達は陽気にシャリスに挨拶して帰っていく。シャリスは兵士に好かれている。バンガロウ王国最強の女性は戦えば負け知らず、馬に乗れば気品漂い。馬を下りて話をすれば、豪快で世話好き、騎士の中には求婚して玉砕した者はあとを絶たない。

 黒髪を短髪にして褐色の肌が健康的な肉体をさらに際立たせる。


「メルティー、明日は頼んだよ」


 ブラッシングが終わり、フワフワになった馬に抱き着き明日の出撃へ向けて思いを募らせる。


「私もそろそろ休むよ。メルティーもゆっくりお休み」


 馬に別れを告げてシャリスは行きつけの飯屋に入る。イカルの飯屋と呼ばれる農夫達が集まる飯屋でシャリスは、ここの野菜料理が大好きだった。


「いつもの頼むよ」

「隊長さんいらっしゃい」


 店の看板娘、メルが出迎えてくれる。


「明日は出撃するんだ。ここにも少しの間こられなくなるよ」

「はいはい。またそういってすぐに帰ってくるんでしょ?心配してませんよ」

「ははは、だが油断はできないよ。私だって負けるかもしれないじゃないか」


 メルはシャリスと年も近いので軽口を言い合える。ただ立場があるので、呼び方は隊長さんと堅苦しいものになってしまうが、お互いに気にしない。


「隊長さんがそんなこと言ったらダメでしょ。絶対に帰ってきてね」


 それまでの陽気さはなく、メルが真剣に言うのでシャリスの方が圧倒される。


「わっ、わかったわ」

「よろしい。エールをおまけに付けておくわ。ゆっくりしていって」


 メルは他の客の注文を取ったりと忙しそうにしていたので、せっかくのエールを楽しんだ。


「おい、お前。俺の酒が飲めねぇのか!!!」


 シャリスのテーブルに料理が運び込まれ、いざ食べようと手を付けた瞬間に、男の怒声が店中に響いた。シャリスも何事かと視線をおくれば、一人の男を三人の男が囲んでいた。

 三人は目深にフードを被った男に、酔って絡んだようでフードの男がうっとうしそうにしていた。


「いらん。我は酒は飲まぬ」


 男の言葉は短く、端的な者だった。


「てめぇ~俺様がおごってやるっていってるのによ」


 酔った男達も農作業で鍛えられているのか、屈強な体をしている。


「失せろ」


 男はそんなことは意に返さないで、食事に手を付けた。それを農夫達はバカにされたと思い、テーブルごとひっくり返した。これにはシャリスも黙ってられない。

 贔屓の店で騒動を起こすだけならまだしも、物を壊すなど許せない。シャリスが酔っ払いを成敗しようと立ち上がる前に、からまれていた男が立ち上がり机を壊した農夫を首つり状態で持ち上げていた。


「ぐぇ、お、お前何しやがる」


 宙釣りにされながらも農夫は反抗しようとするが、男は地面に叩きつけた。


「食べ物を粗末にするな。殺すぞ」


 男が見せた殺気に、店の中が静まりかえる。


「ヒィー」


 農夫もやっと関わってはいけない男に絡んでいたのだと理解して悲鳴を上げる。


「その辺でいいだろう」


 シャリスが見かねて声をかける。男の殺気を受けて、唯一話せたとも言える。


「私はバンガロウ王国百人長のシャリスだ。貴様の気持ちはわかるが、目の前で殺させるわけにはいかん。そいつには法の裁きをちゃんと受けさせるので、この場は納めてくれないか?代わりに私が一杯奢ろう」


 男もシャリスの顔を見ていたが、農夫を離し殺気を鎮める。殺気が止むと、店の中で息を飲む声が聞こえ、メルが駆け寄ってきた。


「お客様、申し訳ありません。すぐに代わりの物をお持ちします」


 メルは手早くテーブルを元に戻し、散乱した食器を片付ける。


「こっちにきなよ」


 シャリスが自分のテーブルを指して男を招く。


「ここの料理は絶品なんだ。気分を取り直して食べてきなよ。あたしが奢るからさ」


 シャリスはフードの男の返事を聞く前に、腕を引いて椅子に座らせる。メルも男が座ったのを確認して、エールと簡単なパンとスープを先にテーブルに運ぶ。


「メインをお持ちしますので、ゆっくりなさってください」


 メルとシャリスがアイコンタクトで合図をして、シャリスが任せてとウィンクする。


「あんた強いね。あんたほどの男には久しぶりにあったよ。さぁ食べてくれ」


 シャリスはフードの男を誉めながら食事を始める。


「差し支えなければ名前を聞いても?」

「・・・グラウスだ」

「グラウス。あんたよかったら王国に勤める気はないかい?あんたならすぐにあたしと肩を並べられるよ」

「今の仕事がある」

「へぇ~何してんだい?」

「使用人だ」

「あんたほどの腕があって使用人?借金でもしてるのかい?」

「そんなところだ」

「ならしかたないねぇ~借金を返し切らないと王国は雇えないし、残念だ」


 グラウスはシャリスを見ていた。次の対象の名前が確かシャリスだったと思いだし、観察することにしたのだ。


「なぁ、あんたはどこで戦い方を学んだんだい?あんたの戦い方は見たことがないんだよ」

「カブラギ皇国のシノビをしていた人に習った」

「へぇ~あれが忍術ってやつかい。そりゃ知らないわけだ」

「馳走になった」


 グラウスがそういうと確かにさらに盛られていたサラダもスープもエールもなくなっていた。いつ食べたかわからないが、グラウスが立ち上がる。


「もう行くのかい?」

「まだ仕事があるのでな・・・」

「そうかい、あんたとはまた会いそうな気がするね」

「そうか」

「信じてないね、あたしの勘は当たるんだよ」

「ではな」

「ああ、またね」


 シャリスはどこか自信満々にグラウスを見送った。


「面白い奴に会えたね。明日は戦いだし幸先良いかもね」


 シャリスはグラウスの去った後の扉を見つめて笑っていた。

読んで頂きありがとうございます。

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