参謀になります3
ゲオルグの言葉に対して、集まった民衆は意味がわからないと首を傾げ、互いにどういうことだと意味を話し合う。
「あの~旗ってどういうことですか?」
ダンが。ここにいる者を代表して質問してきた。
「そりゃおめ~・・・説明がめんどくせぇ。詳しいことは全部アクに聞け」
ゲオルグは言いたいことを言ったと、後の説明をアクに丸投げした。アクに聞けと言ったことで、ゲオルグが下がりアクが前に出る。
「シルバーウルフ団の参謀になりました。アクです。初めての方は初めまして、私を知ってる人も、改めてよろしくお願いします」
盗賊団の中には新参者のアクがゲオルグに変わって、意見をしていることに納得できない者もいるだろう。そこで、アクなりに改めて挨拶をしたのだ。
「皆さんに、いくつかこれからの事に対して、説明をしていきたいと思います」
アクが全体を見わたして、特に盗賊団の人達の顔を確認して話し始める。
「まず始めに盗賊団は今日をもって解散します」
「「「!!!!!!!」」」
今にも壇上に上がり、アクの胸倉を掴みそうになっている盗賊団のメンバーを、サントンとハッサンが止める。
「慌てずに聞いてください。王国が後二日で攻めて来ることがわかりましたので、いつまでも盗賊団では格好がつかないと思ったため、盗賊団を解散して我々は解放軍と名乗ることにしました」
ここで言葉を切り、全体を見る。解散と聞いたとき暴れそうな勢いだった盗賊団のメンバーも、アクの言葉を待つように黙っている。
「また、解放軍のリーダーにはサントンになってもらいます。これは戦力的なものです。またゲオルグお頭には、旗印として我らの総大将に就任してもらおうと思います」
「総大将?」
聞き慣れない言葉が出て来たことに、疑問に思ったことを口にする。
「我々は王政をするわけではないので、王とは呼びません。そのためゲオルグお頭には解放軍の総大将として、このクック村を中心に我々の旗印として活躍してもらいたいと思います」
アクの言葉を頭の中で、反芻するかのように全員が黙る。
「今までシルバーウルフ盗賊団として名乗っていたのを、シルバーウルフ解放軍を改め、新リーダーをサントンに任命します。副リーダーとしてハッサン、グラウスの両若頭に補佐をしてもらいます。異議のある人はいますか?」
アクが盗賊団の面々を改めて見つめる。異議を唱えるとすれば、彼らしかいない。
「ちょっといいか?」
盗賊団の中でも、ゲオルグに歳が近いボルグが前に出る。
「ボルグさんですね。なんでしょうか?」
「反対するわけじゃないんだが。ただここの皆も思っていることだと思うんだが、サントンの力を見せてはくれないか?」
ゲオルグとの話でも出てきた問題だ。単純にサントンの力がみんなを率いるだけの実力はあるのか?その力を見せろという事だ。
「ボルグさんはどうすれば力を示せると思いますか?」
「そうだな、強い奴と戦ってもらえば分かりやすいが、ここにはお頭以上の奴はいないしな」
ボルグも具体的な内容まで考えていなかったので困った顔をする。
「そうですね。ではこういうのはどうでしょうか?」
アクがボルグに耳打ちするとボルグも頷いた。
「面白いな」
「では……これで行きます」
ボルグが盗賊達の列に戻り、アクが前に出る。
「皆さん聞いてください。今からサントンの実力を知ってもらう為に有志を募ります。サントンがリーダーになることに反対のある者、実力を疑う者は前に出てください」
アクの声に盗賊団の血気盛んなメンバーが前に出る。村人達は状況についていけず、どうするべきか迷っていたのでアクから提案する。
「村の人達も、我こそはと腕に自信のある人は、是非前に出て来てくれないですか?」
アクの言葉に戸惑いつつも、各村から三人ずつ前に出る。
「全部で二十人ってとこか?」
アクがこれで全員かと問いかけるが、これ以上前に出る者はいなかった。ボルグも前には出てこない。
「それでは今からここにいる二十人とサントンで戦ってもらう。だけど、サントンにはハンデとして、木剣を使わせる。対して君たちは自分の得意な武器で戦ってほしい」
「「「は~?」」」
アクの発言を聞いて前に出てきた二十人がバカにするなと憤る。周りで見ていた者たちも木剣だけで何ができるのだと困惑してしまう。
「本気で言っているのか、そんなことができると」
集められた二十人の中からダンが代表して聞いてきた。ダンもクック村の中では強い部類に入る。筆頭はもちろんギルドマスターのゲイザーなのだが、ダンもゲイザーに師事して戦いを学んできた。
二十人は素人ばかりではないのだ。戦闘経験を積んだ者がほとんどで、盗賊団の面々も実践を経験している。村の者達も魔物を相手ではあるが、それなりの経験を積んでいる。それを一人で倒すことなどありえない。正直魔法も使わず、武器も木剣一本で戦うなどありえない。
「本気だ。サントン、できるな?」
「まぁアクが言うからやるけど、やる意味あるのか?」
サントンは気のないように言ったが、それを聞いていた者達からすればバカにされたと思っただろう。サントンは木剣で十分二十人を相手にできると宣言したのだ。
「君がキングスレイヤーなのは有名だが、これだけの人数で負ける気はしないな」
ダンも先ほどまでの心配ではなく、怒りをもってサントンに言い捨てた。
「では、開始する。誰か太鼓を頼む」
アクが声を出すと、ボルグが太鼓を打ち鳴らす。
サントンの真骨頂はスピードにある。目にも留まらぬ速さで動く者は、サントン以外にもいる。サントンは相手の行動を予測して、相手の意表を突くのが上手いのだ。
開始の太鼓と共にサントンが走り、集団の真ん中に位置を取った。これには集められた者達も驚いた。すぐに持っていた武器をサントンに向かって振り下ろす。
しかし、すでにサントンの姿は無く、同時に武器を振り下ろした四人が武器を落としてしまう。
サントンによって手の甲、肩、足など、それぞれ隙がある場所を打ち据えられたのだ。
「「「なに!!!」」」
これには周りで見ていた者も驚いた。サントンが四人を相手に、同時に八回攻撃したのだ。サントンの勢いは止まらず、続けざまに四人を倒し、一瞬の内に八人が戦線離脱した。
「サントンから距離を取れ。俺達を撹乱してくるぞ」
盗賊団の一人が、声を出したことで残った者は正面のサントンを見ながら距離を取る。しかし、距離を開けるはずが一瞬にしてサントンの姿が消え、二人の人間が前のめりに倒れた。
倒れた後ろにサントンの姿があった。倒されたのは声を発した盗賊の一人だったが、サントンへの警戒が足りなかった。
半分に減ったことで残った者達に連携が生まれる。ここまでサントンが倒したのが盗賊団五人、村人五人と言うのも偶然なのか。
「皆、バラバラではやられるぞ。固まってそれぞれの背中を預け合うんだ」
ダンの言葉に、残った者がダンの下に集まり円を作る。それぞれが背中を預け合いどこから攻撃されても反撃できるように密着する。ダンもサントンを正面に見据えて、自分が盾役になろうと身構える。
それをあざ笑うかのように、サントンが先ほどまでのスピードを捨ててゆっくりと歩き出す。それもそうだろう、逃げる者がいなくなり数も先ほどまでの半分しかいないのだ。固まってサントンを待ち構えているダン達にスピードはいらない。
「本当にそれでいいのか?」
サントンがダンを見つめて声をかける。
「どういう意味だ?」
ダンも聞き返すが、サントンは答えを返す代わりにダンへと木剣を振り下ろした。ダンは長剣でそれを受け止めようとするが、サントンの剣速は速いだけでなく変化する。真っ直ぐ振り下ろされていた剣が、蛇のようにうねり、ダンの胴を薙いだ。
手加減しているとはいえ、ダンは悶絶して蹲る。集まっていた者達もダンが一撃でやられて円が崩れたので慌てて乱れだす。
「だから言っただろ。それでいいのかと?」
サントンがまた消えたときには立っているものはいなくなっていた。
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