初めての魔法
毎日一話を目標に更新したいですが、出来なかったらすみません。
アリエルに連れられてやってきた晩餐会場は豪華絢爛だった。パーティー会場は広く、綺麗に飾られた食事は立食形式で、大きなテーブルに綺麗な料理が飾られている。
「これは、これはアクイ様。よくぞおいでくださいました」
入口には王様がいて歓迎してくれる。相変わらずの商人のような笑顔でアクイをで出迎えてくれる。
「王様直々のお出迎え、ありがとうございます」
「いえいえ、勇者様方をお出迎えするのも王の務めでございます」
アクイの中で王様は狸として認定されている。王様のおべっかは聞き流しておくことにして、内心では王様をたいした人だとは思う。
王様と適当に挨拶を済ませて、会場の中を歩き周る。城の中は戦時ということが疑わしいほどに、煌びやかなものだった。本当に戦争をしているのだろうか?この国は苦しんでいる国なのだろうか?そう思ってしまうほど豪華なのだ
パーティー会場を歩いていると、中央に人だかりができていた。今回の勇者召喚で真なる勇者の称号を得た上に、一番に王様に協力を宣言した勇者の中心人物であるアマノが、代わる代わる貴族やご婦人に囲まれているのだ。
アクイは触らぬ神に祟りなしと判断して、中央に近づかないように人だかりから遠ざかった。遠ざかりながら、ウェイターからグラスを受け取って壁際に避難する。
壁際に移動するとパーティー会場がよく見える。様々な人間の欲がパーティー会場を埋め尽くしているのだろう。アクイは視線をテラスへ向ける。テラスからは中庭が見えていて、中庭は中央に噴水があり、四つのゾーンに分けられた花壇が作られている。中庭の綺麗な景色を見ている間も、パーティー会場の人間観察は欠かさない。
カミシロとアンジョウは、どこかのお嬢様だったのか、気品を感じさせる立ち振る舞いでパーティー慣れしていた。
対照にコンゴウとシラユキはオドオドしながら食事を摂って、安全な壁際に同じく避難している。
誰が味方で誰が敵かわからない状況で、誰彼かまわず親しくするのは得策ではない。改めてアマノのお人よしぶりにイラつきを覚える。
取ったグラスは、ライムに似た爽やかなカクテルで、考えに耽る頭をスッキリさせてくれて、ノドと心を落ち着かせてくれる。
「これはこれは闇の勇者様ではありませんか?」
考え事をしていると、小太りで小柄な男が話しかけてきた。
「あなたは?」
話しかけられると思っていなかったが、急いで営業スマイルを作って相手の出方を窺う。
「失礼しました。私はルールイス王国で一番の商人、シャンス・エル・リーブル男爵と申します。お見知りおきを……」
名乗る男に、アクイの中で信頼に足る男か品定めが始まる。
「親切にご紹介ありがとうございます。闇の勇者として召喚されました。阿久井 重と申します」
「やっぱりそうでしたか、私の目に狂いはなかった」
分かっていたくせに大げさな態度で応じるリーブル男爵に、アクイは好感を覚えた。この男・・・黒いな。リーブル男爵に自分と同じ匂いを感じた。
「いえ、こちらこそ男爵様に声をかけていただくなんて思っていなかったので、無礼をしました。しかも商人をされているとは、今後ともぜひ良いお付き合いをさせていただきたいと思います」
相手を誉めて、こちらの意図を強調する。
「こちらこそ闇の勇者様であるアクイ様に名前を覚えていただけるとは光栄の極みです」
リーブル男爵と簡単な挨拶をして別れる。その後は何人かの貴族やご婦人がリーブル男爵との会話を聞いていたのか、挨拶してきたのを軽く流して、切りのいいところで自室に戻った。
その日のパーティーは歓迎ということもあり、それなりに盛大に行われたが、アクイの中では不信感が募るばかりだった・・・
ベッドがフカフカだったのは唯一の救いだな。
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翌日から勉強が始まった。
「では早速ですが、シゲル様。質問はありますか?何がわからないのかわからないので質問を頂ければありがたいです」
そういうとアクイの前に椅子を置いてアリエルが座る。
「そうだな。まずはやっぱり魔法について教えてほしい」
「はい。魔法の何が知りたいですか?」
「魔法に関して、俺の世界にはなかったからな。まったく知識がないんだ。だから最初から頼む」
「わかりました。では、この世界でも魔法は一部の者しか使えません」
「どうして?」
「魔法にはまず、属性と呼ばれるものがあるのはご存じですか?」
首を横に振る。
「では属性についてご説明します
魔法は六大属性あり、火、水、風、土、光、闇に分類されます。魔法を使うためには生まれつき属性を宿していないと魔法を使うことはできません。属性を持たない人達を無属性と呼びます。属性をもっていないので魔法は使えません。
この世界の人間は半分が無属性になります。また属性を持っていて魔法が使えても、自分が宿している属性以外の魔法は使うことはできません。
火の魔法を使いたいが風の属性しか使えない者は、いくら火の魔法を唱えても魔法は発動しないのです。しかし、存在する火に向かい風を使って、その火を強くすることはできます。どうしてかわかりますか?」
「そりゃ酸素が多くなれば火が強くなるからね」
理科の授業で習ったことをアリエルに伝える。
「酸素?その言葉はわかりませんが、風は火を助けることができます。なので魔法も絶対ではありませんが、己の属性を理解すれば応用は利きます」
アリエルは魔法が好きなのか、身を乗り出して説明してくれている。
「じゃ闇属性だと、どんなことができるんだ?」
アクイの属性は闇、闇と言われても漠然としていてわからない。
「すみません。私は風属性なので具体的には何ができるかはわかりません。闇属性は魔族でも一部の者しか使えないと言われています。このルールイス王国には現在使える者がおりません」
申し訳なさそうに肩を落とす、アリエルを励ますために話題を変える。
「じゃ魔法はどうやって使うの?」
「魔法ですか?私達は日常的に魔法を使っているので自分の属性に話しかけるようにしています。見ていてください」
アリエルが見ていてくださいと言って外を指差したので視線を向ける。中庭に落ちていた葉っぱに手を翳しと、葉っぱが風に運ばれて部屋まで飛んできた。
「おお~凄い!」
「そうですか、今のは風の魔法の初級なのですが……」
アリエルはアクイの反応に少し照れていた。
「俺にもできる?」
「闇属性では風を使えないはずなので同じことはできません。また闇魔法は私にはわかりません。なので、自分の中の魔力に語りかけてみてください」
俺は言われるがまま目を瞑り、自分の中の魔力に話しかける。正直何のことかはわからなかったけど、目を瞑って魔法について考えていると、身体の中心が段々熱くなってきた。
さらにその中心部分が特に熱くなってきたので意識を集中させる。集中していると暗い影のようなモノが段々輪郭を持ってきた。
輪郭は子犬程度の大きさになり、黒いハリネズミ?のような形になる。黒いハリネズミはお腹を向けてくるので撫でてやる。
「キュ!キュ!」
可愛い。撫でるたびに鳴くのでたくさん撫でてしまう。
「シゲル様、シゲル様?」
アリエルの声が遠くの方から聞こえてくる。撫でるのを止めるのは名残惜しいが、アリエルの声が聞こえる方に意識を向ける。
「シゲル様?」
アリエルが心配そうにのぞき込んでいた。
「大丈夫ですか?」
「ああ」
「いったい何をしてたんですか?目を瞑ったと思ったら黒い魔力がシゲル様を覆いだして、しかも、どんどん大きくなるからビックリしましたよ」
黒い魔力が身体を覆う?意味がわからん。それよりも肩に違和感があったので視線を向ける。手のひらサイズの黒いハリネズミが潤んだ瞳で俺を見上げていた……
読んでいただきありがとうございます。