参謀になります1
第三章スタートです。
暇つぶしに読んでいただければ幸いです。
阿久井 重ことアクは、自室にしている宿屋の一室でマルーモに話しかけていた。
「こっちに来てから全然相手してやれなくてごめんな」
「キュッ」
アクがマルーモを撫でるので、マルーモは気持ちよさそうな顔をしている。アクは精霊ではなく、普通のペットと戯れている気分になって癒されていた。
子犬サイズの黒いハリネズミ、ハリネズミは興奮すると毛がハリのようになるが、マルーモの毛はフワフワで気持ちいい。
「キュ~」
「なんだか大変なことになってきたな」
マルーモが気持ち良さそうに鳴いているので、撫でながら盗賊になったことを考える。
「王国と戦うとかマジで半端ね~な。クック村を手に入れるために考えた作戦も成功してよかったが、本当に上手くいくとはな。確かに根回しはしたけど、ここまで上手くいくとは思ってなかったな。俺って実はすごいんじゃね?」
「キュ?」
撫でられている手に力が籠められて、少し苦しそうに鳴いたマルーモが、非難するような目でアクを見る。
「あっ悪い悪い」
アクはマルーモを撫でる手を止めてベッドに寝そべる。マルーモもアクの足元で丸くなって眠りについていた。
「でも本当にこれからどうしようか。軍師役の俺が不安になってたらいけないけど、元々普通の営業マンよ、俺。盗賊したり商人したり、ここ最近は忙しいけど特別なことなんてできる人間じゃないのにな」
自問自答に耽っていると扉がノックされる。
コンコン
「アク、起きてる?」
エリスの声が聞こえてくる。
「開いてるよ」
扉を開いてエリスが入ってくる。
「そろそろ時間よ。準備できてるの?」
「大丈夫だ。すぐに行くよ」
眠っているマルーモを置いてアクは部屋を出る。クック村の子供達に勉強を教えに行くのだ。クック村を占拠して、アクが最初に取り組んだのは商売ではなく遊びだった。
占拠した一日目、村の子供を集めた。村には二十人ほどの子供がいて、五歳~十二歳まで男女二十人ほどがいた。その子供達と遊びまくった。
運動会のようにかけっこをしたり、かくれんぼをしたり、綱引きをしたり、警ドロなどアクが子供の時に覚ええた遊び方を教えて遊んだ。
途中からサントンやエリス、サントンについてきたロカも加わわり、若い村の衆も引き込み遊びをどんどん大きくした。
子供達を心配そうに見ていた親達も、アクが盗賊達の大人たちに言って酒や食べ物を配り、共に味わうように誘った。
親達も最初は警戒していたが、子供達の楽しそうな遊びや、盗賊達の陽気な振る舞いに、占拠された時の悲壮感が嘘のよう薄れていき、いつの間にか共に笑い合った。
村人を誰も殺していないことがここでも生きているのだろう。恨まれることなくすんなりと受け入れらたのだ。
そうやって笑っていると、盗賊団の面々も更に盛り上げようと、楽器を演奏したり、歌を歌ったり踊りだした。村全体が祭りのようににぎやかに楽しく笑い合う中で、諍いなどバカらしくなってくる。
いつの間にか、ゲオルグと村長が肩を組み酒を飲みかわし、アクの遊びは村全体を包み込んだ。
エリスはその時のことを思い出すたびに笑ってしまう。
「あれからみんな笑って挨拶ができるようになったわ」
「そうだな。何より子供達が他の遊びを教えてくれってせっついてくるようになった」
「そこにつけ込んで勉強を教えているから、アクは人が悪けどね」
「そうか?皆、楽しんでいるからいいだろ」
「そうだけど」
エリスは納得できないように首を傾げていたが、今の現状はエリスにとって好ましいものだった。ギスギスして上手くいかないと思っていた村人達の交流を、アクは一日で解決してしまったのだ。
二人が話をしながら広場に向かうと、そこには二十人の子供達が待っていた。
「アク先生だ」
一人の子供がアクに気付き、声を出す。
「起立!礼」
地面に座っていた子供たちが最年長のトムの声で、立ち上がりアクに一礼する。遊びを教えた次の日、子供達がアクの下に殺到した。
親達もアクなら問題ないと黙認するようになり、そこでアクは色々なことを子供達に教えようと思った。村に住んでいる子供達はろくな教育も受けていない。村全体でも字を書けるものは一割にも満たない。
「お前たち、よくできたな」
アクが色々教えることを決めて最初に教えたのが挨拶だった。子供たちは退屈そうに聞いていたが、挨拶をちゃんとしない奴には遊びも教えないと言われれば子供達はいうことを聞くしかなった。
アクが教える遊びは、子供達にとって新鮮で面白い物が多かった。子供達はほとんど村の手伝いの為、畑に出たり、遊んでも川遊びや木に登るのがほとんどで、ルールを作った遊びなどしたことがない。
アクが言うルールを守る遊びは、制限はあるがアクの説明は分かりやすく、とても楽しかった。
「今日は計算の遊びをする」
遊びと言う言葉に皆が反応して目を輝かせる。
「昨日話した数字は覚えたか?」
最前列に座る七歳のジェリーに話を振る。
「覚えたわ。簡単よ」
ジェリー自信満々に答えるが、二十人の中で一番数字を覚えるのが遅かった。それでもアクが根気よく絵で見せたり、数の歌を歌い、覚えやすいようにしてやっと覚えた。
「そうか。ジェリーが大丈夫なら大丈夫だな」
「どういう意味よ」
ジェリーがアクを睨むが、アクも他の子供達も笑い出す。
「ごめんごめん」
「ふん」
ジェリーは不機嫌になり頬を赤くするが、本気では怒っていない。照れ隠しのようなものなのだ。
「許してくれよな。じゃあ、遊ぶ方法を説明するぞ」
アクはトランプを自作で三組作った。エビスから貰い受けていた紙をエリスに手伝ってもらい、同じ形、同じ大きさに切り揃え、マークと数字を描いた簡単なものだ。
トランプの説明をして、七並べ、ババ抜き、神経衰弱などをして数字に慣れさせた。基本的にアクが算数を教え、エリスが言葉、サントンが戦い方を教えている。
後々子供達が成長したとき、教えたことがアク達にも、子供達にも役に立つと考えて、戦いの指導をサントンに頼んだのだ。
子供達と一通りトランプで遊んだ後、子供達はエリスに任せてアクは馬小屋の荷台の中に入った。
「首尾はどうだ?」
どこからともなくグラウスが現われ書簡を渡す。
「こちらに……」
「三日か、数は百か~まぁなんとかなるだろ。敵には悲惨な思いをしてもらう事になるけどな。ありがとう、グラウス。引き続き頼むよ」
「御免」
アクはグラウスからもたらされた情報を下に、王国の動きを掴んでいた。王国との開戦が三日後に迫っているという報告を聞いても、アクに焦りはなかった。
読んでいただきありがとうございます。
誤字・脱字で読みにくくなっていますが、いつもありがとうございます。




