閑話 その他の勇者達6
ルールイス王国からカブラギ皇国の国境を越えてすぐに村がある。黒牙村と呼ばれる村の宿の中に、二人の男と少女がいた。二人の男は黒い忍者装束を着ていたが、今は着替えて籠持ちの格好になっている。
「手荒な真似をして申し訳ない」
青い肌の色、額に一本の角が生えた男が少女に頭を下げる。鬼に攫われた少女の名前は、白雪 雫、水の勇者として召喚された者だ。
「もう少し穏便に済ませたかったのだが、我らは鎖国して長く。他の国との交流が少ないため、速やかな行動をとるためにはこうするより他になかった」
青鬼を前にしても白雪に怯えた様子はなかった。召還されてすぐは、土の勇者、金剛 護に隠れていた雫だが、それは悪意ある人間が近くにいたからだ。
しかし、青鬼達に対して怯えはない。白雪には特殊な力があり、相手の心が見えるのだ。読むのとは違い。何を考えているかはわからないが、相手が悪い人間か良い人間かは判断できる。
ルールイス王国の人間はほとんどが薄暗く、悪意が見えていた。それに対して、目の前にいる青鬼達は見た目こそ怖いが、心は穏やかで一緒にいると安心する。どこか金剛に似ている雰囲気をもっていた。
「大丈夫ですよ。部屋に入ってきた時は驚きましたが、ここまであなた達は私に一切危害を加えていません」
「そう言っていただけると助かる」
青鬼は本当に申し訳なさそうに、もう一度頭を下げる。
「それよりあなたのお名前を教えていただけませんか?」
「まだ名乗っておりませんでしたな。これは失礼しました。アクア様」
「アクア様?」
「水の巫女様のことを皆、アクア様と呼びます」
「私が水の巫女?」
「お隠しにならなくてもよろしいですよ。アクア様のステータスはすでに入手しておりますので」
青鬼は間違いないと大きく頷く。
「そうなのですね…」
「話が逸れてしまいました。我らの名前でしたな。我が絶貴、無言で控えておりますのが、玄夢に御座います」
「絶貴さんと玄夢さんですね。私は白雪 雫と申します」
「これはご丁寧にありがとうございます。ですが、我ら下々の者をさん付けで呼ばれてはなりません。どうぞ呼び捨ててくださいませ」
「絶貴さんの方が年上なので、そんなことはできません」
白雪はニッコリと笑いながら、瞳には引かないという意思が込められていた。しばし睨み合っていたが、絶貴が溜息を吐く。
「ハァ~わかりました。さん付けでかまいません」
「もちろんです」
「アクア様は頑固なのですな」
「あと私、アクア様じゃありません。雫です。雫と呼んでください」
「いえ、それは・・・」
絶貴が否定しようとするが、白雪が無言の笑顔で睨みつける。
「わかりました。雫様」
「様は「それは譲りません」」
雫が言葉を発そうとする前に、絶貴がそれだけは譲らないと言葉を被せる。
「……わかりました」
納得してない顔をしているが、しぶしぶ雫も譲ることにした。
「今晩はここに泊まります。明日には我らが城に招待します」
「わかりました。今日はゆっくり休ませていただきます」
「では我らは隣で休みますので、これで」
二人が扉の向こう入るのを確認して、白雪は窓に近づく。
「あまり窓には近づかないでいただけますか?」
先ほどまで無言でいた玄夢が窓の外にいた。
「玄夢さんはそんな声をしてらしたんですね」
「あまり困らせないでほしい」
玄夢はしゃべらないのではなく、説明を絶貴にまかしていただけらしい。
「玄夢さんが雫と呼んでくれたら離れます」
「雫様、これでいいか?」
「まぁ、いいでしょう」
あっさりと雫様と呼んだが、顔では困った顔をしていたので雫としては満足だ。絶貴と同じく温かみを感じるので、雫としては接しやすい。玄夢は黒い肌に角が一本と、絶貴の色違い?の顔は絶貴よりもスリムな印象を受ける。
「我らはあなたが安心できるように、中には入らない。だが、逃げないようには見張らせてもらう。我らにも休みを与える気があるなら、逃げようなどとは考えないでほしい」
玄夢はそういうと窓から姿を消して見えなくなった。
「やっぱりニンジャさんなのでしょうか?」
時代劇などで出てくる、忍者の動きに似ている二人のことを考えつつ、宿の部屋を見渡す。泊まっている部屋も和式なので畳が敷いてある。カブラギ皇国は元の世界である、日本にとても似ているのだろう。
しかし時代が少し古い、それこそ元の世界の歴史で侍がいた時代に近い、白雪はそんなことを考えながら布団に入った。
家が神社な白雪には布団は慣れた寝具などで、心地よく眠りにつけた。異世界にきて、白雪がゆっくりと眠れた最初の夜になった。
黒鬼は屋根の上で、青鬼は廊下で寝ていたのだが、白雪には関係ない。案外、一番神経の図太い女性なのかもしれない。
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