閑話 その他の勇者達4
楽しんで頂ければ幸いです。
白雪 雫がいなくなってから二日が経っていた。王様が手を尽くしても手がかりがなく、途方に暮れていた王国側にやっと知らせが届いた。
「王様、水の勇者様の行方が「どこじゃ!」わかり」
王様は、少しやつれた様子で伝令の報告にかぶり気味に声をかける。
「それが・・・「早くせい!」」
「カブラギ皇国です」
要件をだけを求める王様に伝令は短く国の名前を口にする。
「なっ!カブラギじゃと、なぜカブラギが水の勇者様を誘拐するのじゃ?」
「それはまだ推測の域をでませんが、どうやら水の勇者様の称号にある巫女というものに、カブラギ皇国にとって意味のあるものだそうです」
「巫女?巫女とはなんじゃ」
「我々で言うところの聖女様のようなモノだそうです」
「聖女様じゃと?」
「はい」
「それはマズイ、カブラギは今まで聖女不在で他国との交流を避け続けて鎖国状態にあった。それが聖女が降臨したということはカブラギ皇国の侵略が始まるぞ」
大臣が伝令を下がらせて、王様に質問を投げかける。
「このことは土の勇者様には?」
「知らせるしかないわな……隠していたことがばれれば、それこそこの国が滅ぼされかねん」
「わかりました。お連れしてまいります」
大臣が指示を出し、土の勇者と光の勇者を呼びに行った。
もし、土の勇者 金剛 護が暴れた際、止められるのは最早光の勇者たる天野 光賀しかいないのだ。
もう一人止めることができる者はいるが、未だ部屋から出ずに、沈黙を守っているので頼ることはできない。
「呼んだか、王様」
ここ数日で金剛の態度は変化した。いつも優しげに白雪を見守っていた好青年はいなくなり、粗暴で短気、目つきの悪い不良がそこにいた。金剛の殺気に王様も大臣もたじろぐ。
「よくぞ来てくれた。土の勇者よ。水の勇者の行方がわかったのじゃ」
「どこだ」
鋭い目つきで怒鳴るでもなく冷たい声で金剛が言葉を発する。あまりにも強い殺気に全員が息をのむ。
「カブラギ皇国じゃ。カブラギ皇国が水の勇者様を誘拐したのじゃ」
王様はカブラギ皇国に責任を押し付けるために、誘拐という言葉を使った。
「何のために?」
「それはまだわかっておらぬ。しかし、水の勇者はカブラギ皇国におる」
「そうか、王様感謝する」
金剛は放っていた殺気を抑え、素直に王様に頭を下げた。これには居合わせた全ての者が口を開いて驚いた。金剛の態度があまりにも素直なことが、この男は唯、白雪という少女を心配していただけに過ぎないのだと理解させられる。
たとえ協力してくれたものが、敵だと認識した後でも素直に礼が言えるそういう人物なのだ。
「俺はカブラギ皇国に行く。どんな手を使ってでもだ」
「まっ、待たれよ」
王様は金剛の言葉に辛うじて反応して答える。すると先ほどまでの素直な少年の殺気が、またも膨れ上がる。
「邪魔するのか?」
「そんなことはせん。ただ無謀に突っ込むよりも正当な手段で向かわれよ」
「どういう意味だ?」
「我が国からの使者として赴かれれば無用な争いはおきぬ、勇者殿も争いがしたいわけではあるまい?」
殺気を放っている勇者が、戦い望んでいないのだろうか?問いかけた王様に対して、他の者たちは王様の言葉は場違いに思えた。
しかし、王様は先ほどの素直な勇者の態度に、もしや彼は話せばわかってもらえるかもしれないと言う期待があった。
「我々も水の勇者殿には戻ってきてほしい。何より我らが苦労して召喚したのだ。協力は惜しまん」
王様も話すうちに熱が籠ってきたのか、殺気を放つ金剛に迫る勢いで話をする。
「王様、俺はあんたを誤解していたかもしれない」
金剛が王様の話を聞いて頭を下げる。
「王様。あんたの申し出、ありがたく受けさせてもらう」
「そ、そうか」
本当に素直な金剛に王様も毒気が抜かれる。
「土の勇者よ。我は今までお主の事をちゃんと見てはいなかった。本当にすまない。今、我はお主へ協力をしたいと心から思う。今からでも我を許してくれるか?」
「許すも何も、俺は元々あんたらのことなんて何とも思ってないぞ。雫が警戒していたから俺も警戒していただけだしな」
金剛の言葉に王様の方が怪訝な顔をする。
「水の勇者様が?」
「ああ、雫は人の心が読めるからな」
「人の心が読めるじゃと?」
「そうだぜ、だから雫が言うんだ。ここの連中は悪意に満ちて、危険な人が多いってな。だけどそんなことなかったな」
「そうじゃ、危険な者などおらんよ」
王様は冷や汗を流しながら答える。まさか、水の勇者にそんな能力があったなど考えもしなかった。むしろカブラギ皇国が誘拐してくれてよかったかもしれないと内心思ってしまった。
「それで使者として、いつカブラギ皇国に行ける?」
「手紙を出して使者を送る旨を伝えるので、三日ほど待ってほしい」
「わかった。よろしく頼む」
金剛はもう一度頭を下げて、謁見の間を後にする。
「何とも読めん奴じゃな」
王様が苦笑をして去っていく金剛の背中に呟くと、大臣達も微笑ましい者を見たと互いに笑い合った。
「邪魔だな。あいつ……」
この場で一人だけ、金剛が去っていく背中に対してぼそりと言葉を口にした者がいるなど誰も気づかなかった。
読んで頂きありがとうございます。




