商人になります6
半日ほど山道から街道を走り、日が陰り始める時間にクック村付近まで到着した。エリスと共に馬車に乗り、交代で荷台の中で服装を商人の様相に着替えた。
馬車には食料と調味料を乗せて、クック村にきた行商人として村に入る準備は完了していた。
「本当にばれない?」
エリスが不安そうに聞いてくる。
「そのために三人に先に調査をしてもらっているだろ。クック村に入る前にグラウスに落ち合おうから」
「兄さんに?」
「ああ、グラウスには村に出入りしている者と、門の開閉時間を調査してもらっているんだ」
エリスは俺の言葉に頷く。
「適任かもしれないわね。兄さんの魔法って地味だから、陽炎って言うんだけど隠密行動には最適よ」
「エリスはグラウスの魔法を知っているのか?」
「ええ、昔はかくれんぼに良く使っていたもの、誰も兄さんを見つけられなくて大変だったのよ」
「それは嫌だな」
魔法をかくれんぼに使うなよ。
「でしょ。昔から兄さんはカブラギ皇国のシノビに憧れていたから、言葉使いも変だし変わり者なの」
「シノビって、そんなのいるのか?」
「有名よ。でも実際に見た人はいないけど」
「ますますカブラギ皇国に興味が湧いてきたよ」
日本に似ているようだが、時代は随分と古そうだ。
「元の世界に似てるから?」
「そうだ」
エリスにはクック村に向かいながら、元の世界について話していた。好奇心旺盛なエリスは、アクの話がたのしいのか、興味津々といった感じだ。
「あっ!あれがクック村よ」
街道を南に走ればクック村が見えてくる。待ち合わせをしたのは、門の手前にある森なので、森の中で馬車を止めて、10分ぐらい待つとグラウスの方から現れた。
「ニンニン。軍師殿お待ち申しておりました」
「きたか。それで軍師殿ってなんだ?」
「作戦を立案し命令を出すものです」
「いや、それはわかるが。何で俺が軍師なんだ?」
グラウスは変わり者だと思って居たが、ここまで変だとは思っていなかった。
「作戦を立案して、お頭達から直々に任務を任されました。さらに我ら三人に命令を出しておられるからです。今までは父上が軍師かと思いましたが、軍師殿の作戦を聞いて、これこそ軍師の作戦だと思いました」
「あ~もういいや。首尾は?」
「詳細はこちらに」
紙に三日間の開閉時間、出入りの人数、出入りした人の性別や風貌までかかれていた。
「スゴイな。次は商人の使用人として一緒に潜入してもらうが大丈夫か?」
「シノビにできぬことはありませんね」
「そうか」
グラウスの自身はどこから来るのかわからないが、本人が大丈夫だと言うのだから、大丈夫なんだろう。
「兄さん。相変わらずしゃべりかた変よ。それで潜入できるの?」
「なっ!妹よ。どうしてお前がここにいる」
グラウスには珍しく驚きのあまり、声を大きく上げる。
「アクさんにお願いしてついてきたのよ」
「軍師殿、これは?」
「まぁいろいろあったんだ。納得してくれ」
「軍師殿が言われるのであれば……承知しました」
グラウスはしぶしぶと言った感じで納得してくれた。グラウスを馬車の荷台に乗せ、クック村の門に向かう。
「すみません。行商で来ました。アクと申します」
アクは商人ギルドでもらったギルドカードを提示する。
「確かに。そちらの女性は?」
「使用人です。後ろにも使用人がいます」
「そうか、では品物を確認したい」
門番の若者は、名前をダンと言い警備隊長をしている。品物を見せるためにアクは荷台の後ろにまわる。
「グラウス、開けてくれるか」
「はっ」
声をかけると、馬車にかかった天幕を開いてグラウスが出てくる。
「こちらが品物になります」
柔和な笑顔を作り、品物の方に手を差し出す。
「一月ぐらいの行商が行えるだけの品物を揃えております。メインは調味料と香辛料になります」
「ほう、これは助かる。一月ほど前から行商人が来なくなっていたから本当に助かるよ」
「私共も永住地を探して色々旅をしておりますので、お約束はできませんが」
「そんなことは気にしないでくれ。今回はあんたらが来てくれて村が助かる。それで十分だよ」
ダンは心から嬉しそうに歓迎してくれた。親切に宿の場所も教えてくれたので、その日は宿に向かい、その途中でサントンの姿を見かけるが、目線だけを合わせて声をかけずにすれ違う。
打ち合わせ通り、サントンの潜入を確認して、作戦の最終段階に入ったことだけお互いに理解する。
宿はシングルを二部屋とった。グラウスは荷物番として、荷台で寝泊りしてもらう。これはグラウスの希望なので突っぱねる必要もない。
アクが自分の部屋に入ると、エリスがついてきた。そのままベッドの正面にある椅子に腰かける。
「どうかしたのか?明日から商人として商売だからな。今日は早く休んでおいた方がいいぞ」
「そろそろ作戦の詳細を教えてくれない?」
「昨日話しただろ。四人で潜入して二人は場所の確認、二人は外部からの潜入の手引きをするんだ」
「それは聴いたわ。本当にそれだけ?それだけでクック村が落ちるの?」
「案外中から崩れればもろいもんだよ」
アクはあくまで詳細は伝えないでおこうと思っていた。多少は黒い部分もある、それをエリスに話す必要はないのだ。
「そんなことより明日は売り子になってもらうからな、頼んだぞ看板娘。夜も更けてくるのに男の部屋にいるのは感心しないぞ。それとも二人きりで寝たかったか?」
「もう知らないから」
エリスは顔を赤くして怒って出て行った。
アクは作戦についてもう一度考えるため目を瞑り考えに耽る。
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エリスはイライラしていた。アクも自分だけをのけ者にするのか、私が女だから子供だから、そんな理由で納得できるはずがない。
エリスの中で、アクを見返すためにはどうすればいいかと言う思いで頭がいっぱいになりつつあった。
それは他の者に認められたいという思いよりも強いものだったが、エリスの中で違いはわかっていなかった。
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