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間話 サントンの潜入

少し番外編です。


明日は第二章後半スタートさせます。

 アクの作戦を実行させるため、準備を終えたサントンは、ハッサンと供にクック村に向かった。グラウスにも村の近くまで一緒に行くかと聞いたが、任務が違うから別行動を取ると断られた。クック村には二人で向かうことになった。


「俺達は結局何をすりゃいいんだ?」

「ハッサン、ちゃんと聞いてなかったのか?アクが言ってただろ、俺達は冒険者ギルドに登録して、冒険者の任務をやりながら、ギルドメンバーに顔を覚えてもらうんだろ?」

「そんなことしてて何の意味があるんだ。俺達盗賊だろ?」

「知るか、頭の良い奴の考えが俺にわかるわけないだろ」


 サントンの方が少し年上になるので、ハッサンの兄貴分として色々質問に答えるため、珍しくサントンも頭を働かせる。


「それもそうか、俺も、お前も、考えるのはダメだからな」

「そういう事だ」


 ハッサンの侮辱にも笑顔で返すサントンは、適当に女性の話をしながらクック村に向かう。と言ってもアジトにいる年頃の女はエリスぐらいのもので、自然と話題はエリスの話になる。


「エリスはスゲ~美人になったよな」


 ハッサンがエリスの姿を想像しながら、顔を赤くする。アジトはほとんどが男ばかりなので、ハッサンは女性に免疫がほとんどない。そのためエリスの姿を思うだけで赤くなってしまう。


「確かに。俺の嫁になってくれないかな」

「なるわけないだろ。エリスの親父はダントさんだぞ」


 ハッサンの何気ない言葉に、サントンがゲンナリした顔をする。


「なんでだよ。俺は次期お頭候補だぞ」


 ゲオルグの息子と、ダントの娘、ハッサンにとって誇れるのはそれぐらいしかなかった。


「候補だろ?まだ決定じゃない」

「ほう~俺にケチをつけるってことか?」


 ハッサンの目が細くなり、背中に下げたバスタードソードに手をかける。


「アホか、それは俺達が決めることじゃなぇよ」

「まぁ、それもそうか」


 ハッサンは短気なところがあるが、悪い男ではない。サントンの言い分を聞いて納得したのか、すぐに剣から手を離す。


「そんな事よりクック村が見えてきたぞ。確認な、俺達はカシム村出身で冒険者になりたくてクック村に来た。わかってるか?」

「それぐらい大丈夫だ」

「お前が俺以上のバカじゃないことを祈るよ」


 サントンは自信満々なハッサンを見て心配になる。自分がしっかりしないといけないなと、サントンは頭を抱えたくなる。いつも陽気に笑っているサントンは、人一倍気遣いのできる男なのである。


「おい、お前たちどこの者だ?」


 ハッサンとバカな話をしていると、門番の若者に声をかけられた。


「カシム村のサントンだ。冒険者ギルドの登録をしにきた」

「冒険者か、なるほどな。それで、その恰好をしているのか」


 門番はサントンとハッサンの格好をマジマジと見つめる。サントンは上半身に鎖帷子を来て、背中に二本の剣を交差させて背負っており、さらに腰にも二本の剣を収めている。サントンは二刀流なので、剣を常に四本持っているのだ。


 ハッサンも上半身は鎖帷子を着ているが、体格が大きいので、門番が見上げる形になる。ハッサンはバスタードソードを背負っているだけだが、十分な威圧があった。


「最近では珍しいな。こんな田舎でギルドメンバーになってくれるのいないからな。何より村の住人が増えるのは嬉しいことだ。歓迎する」


 王都に比べれば警備はザルのようなものだ。自己紹介をしただけで通してくれる。


「頑張ってくれよ。俺の名前はダンだ、君達は強そうだから期待しているよ」


 ダンの声援を聞いて、早速ギルドに向かう。場所は先ほどのダンに聞いたので問題ない。


「チョロイもんだな」

「もう村の中だ。あまり迂闊なことは言うなよ」

「おっと、そうだな」


 サントンが目線を送らずに周囲の様子を覗うが、田舎の村に気配を殺して聞き耳を立てている者はいなかった。


「大丈夫だな。入るぞ」

「おう」


 ギルドは二階建ての造りになっていた。連れだってギルドの中に入ると、正面にカウンターがあり、右奥に階段、左奥は少し広がっていて酒場になっていた。


「何か御用ですか?」


 目の前のカウンターから赤毛を三つ編みにした女性が出てきた。彼女の顔にはそばかすがあり、笑うと可愛くなる。ギルドの制服なのか、メイドのようなエプロンをつけて、二つの山がこれでもかというぐらい自己主張をしていた。


「おい、サントン……あれは女神か?」

「アホか、受付をしてくれるただの女性だ」


 ハッサンの目は完全にハートになっている。サントンも、ハッサンの気持ちがわからないではないなと思い、目線はついつい二つの山に行ってしまう。


「あの~用事がないなら邪魔なんですが」


 二人の視線に気付いていた受付の女性は、慣れた様子で帰れと告げてくる。


「ああ、すまない。ギルド登録がしたいんだ」


 サントンが彼女の声に反応して目的を告げる。


「そうだったんですか、ありがとうございます。辺境で冒険者になろうという人が少なくて、困っていたんです。私は冒険者ギルドで受付をしています、ロカといいます」

「ロカさん、じっ、自分にまかせてください!」


 突然大きな声を出したハッサンにサントンもロカもビックリする。


「は、はぁ~」

「こいつのことはほうっておいていいから、どうすればいい?」

「こちらの紙に名前と出身をお願いします。字は書けますか?」

「いや、すまない。代筆してくれるか?」

「はい、では名前と出身をお願いします」


 サントンが名前と出身を告げて、先ほどの失態でまた固まってしまったハッサンの代わりに名前と出身を告げる。


「はい。お二人とも登録完了です。こちらがギルドカードになります。最初は登録、カード発行は無料ですが、カードを失くすと再発行に銀貨三枚かかりますのでお気を付けてください。あとギルドにはランクがあります。最初に試験を受けて合格すれば、Cランクからスタートできますが受けますか?」


 ギルドのランクは5段階になっている。D、C、B、A、S となる。


 試験を受ければ一人前に戦える者として登録できる。


「試験はどんな内容だい?」

「試験は実技だけです。冒険者に必要なのは強さですから」

「そうか、じゃ受けようかな」

「そうですか、では一旦外に出て裏に回ってもらえますか?」

「了解」


 サントンが歩き出すが、ハッサンが固まったまま動かないので尻を蹴り上げる。


「イッテ~、てめ~何しやがる」


 痛みで我を取り戻したハッサンはサントンに詰め寄る。


「バカが、気がついたか?じゃ行くぞ」


 サントンは相手をしないでスタスタ外に出ていく。


「おい、待てよ」


 ハッサンも状況を理解したのか、慌ててサントンの後に続く。裏に行くと小さいオッサンと、ロカが待っていた。


「こちらがギルドマスターです」

「ギルドマスターのゲイザーじゃ」


 小さいオッサンは本当に小さい。身長はサントンの半分ぐらい、顔の大きさだけは、サントンと同じぐらいなので顔がデカく見える。


「おぬし、ワシのことを小さいと思ったじゃろ?」

「思った」

「素直な奴じゃな……」

「それが取り柄だ」


 親指を立ててポーズを決める。


「うむ。おぬしの試験はワシを捕まえることでどうじゃ?」

「え~、なんで俺がオッサンを捕まえないといけないんだよ」

「おぬし本当に失礼な奴じゃな」

「そうか?正直なだけだぞ」

「しかし、これは試験じゃ。いくぞ」


 ゲイザーはそういとケツを出して、おしりぺんぺんとか言いながらアカンベーとしてくる。


「はぁ~仕方ないか~」


 サントンは呆れて、大きなため息を吐いてから剣をハッサンに渡す。


「持っててくれ」

「おう」

「おぬし如きがワシを捕まえられると思うなよ」


 ゲイザーは小さい体を駆使して逃げ回る。サントンはただ歩いているように見えて、少しずつ距離を縮めていく。


「なんじゃ歩くだけか、そんなことじゃ日が暮れてもワシを捕まえれんぞ」


 ゲイザーはオッサンの割に元気にハシャギ回る。サントンは右にスペースを空けて、そちらに殺気を飛ばす。


「そんなに左によりよって、右はワナじゃろ。そんなことでワシを捕まえられるのか?」


 ゲイザーが右に突っ込んでくるので、サントンは襟首を捕まえる。


「ハァ~オッサン、口だけ過ぎだろ」

「なっなんでじゃ。なんでワシは捕まっとるんじゃ」

「はいはい、終わり終わり」

「そこまでです」


 ロカの声で終了を告げれる。


「スゴイです!!!マスターはAランク冒険者なんですよ。クック村では一番のスゴ腕なのに」

「確かに小僧はなかなかのものじゃ。ワシを捕まえるなど普通のギルドメンバーではできんからな」


 サントンは呆れてものも言えない。ロカがサントンにスゴイスゴイと詰め寄るので、それを見ていたハッサンは剣をサントンに投げつける。ハッサンの顔はやる気満々でゲイザーに近づく。


「俺は何の試験だ」

「ふむ、おぬしは力が強そうじゃ、ワシと力比べでもするか」


 そういうとゲイザーが両手を伸ばしてきた。ハッサンはゲイザーの両手を合わせて握る。二人が力を入れると地面にヒビが入る。


「バカ力だな」

「でも、マスターとここまで力比べができる人も驚きです」

「魔法か?」

「はい、マスターは土の魔法使いで、肉体強化魔法を得意としているんです」

「なるほどな」


 ゲイザーの自信は魔法にあるのかと、サントンは納得した。


「サントンさんはどうやってマスターを捕まえたんですか、魔法ですか?」

「俺は魔法は使えないよ」

「じゃ、どうやって?」

「逃がさない様にしただけだよ。そんなことより、そろそろ決着がついたみたいだ」


 サントンの言葉通り、二人は二メートルぐらいまで開いた穴の中から出てきた。


「うむ、あそこまでワシと対等に競えるものは初めてじゃ。そなたも合格じゃ」

「当たり前だ」


 穴から出た二人は、力を認めあったように握手をしていた。


「これで試験は終わりだな」

「はい」

「よし、じゃ飲みにいくか」

「はい」


 サントンに連れられてロカがついていくので、ハッサンが慌ててその後を追う。ゲイザーもやれやれと言う感じで頭をかきながら後に続く。

読んで頂きありがとうございます。

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