表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
208/213

邪神になります30

 突然目の前に現れたアクに天辰はたじろいだ。

神として人として勇者として大魔王として天辰は多くの時を生きてきた。

 自身の眷属を栄えさせるため、自身を崇め奉らせるため、破壊神が邪魔だった。

だからこそ何度も何度も殺してきた。


「また邪魔をするのか、この邪神めが」


 天辰が叫んでもベルザルードを理解したアクは力を使うことを躊躇わない。

天辰の腕を掴み引き寄せようとする。

 天辰も抵抗しようと身を引くが、掴まれた腕が千切れて激痛が体を走り抜ける。

追い打ちをかけるため、のた打ち回る天辰の胸に穴を開ける。

 それでも死なない天辰にアクはブラックホールを発生させる。

ブラックホールはそれ自体に意志があるように、只の渦としてではなく、黒い竜の形をかたどった。

天辰を包み込むように黒い竜が天辰を飲み込んでいく。


「お前は存在しちゃいけない」


 ブラックホールが天辰を飲み込んでいく。

圧倒的だった大魔王の面影などなく、悲壮感に包まれた天辰の顔を冷たい眼差しで見つめたアクはブラックホールの中でもがく天辰を吸収していく。

 それはアクの中で混じり合い一つになっていく感覚。

 ふと違和感を感じなかったことにアクが疑問を覚えなかった。

 コウガが聖剣を構えてアクの前にきていた。


「よくも、よくも砂丘さんを」


 アクと天辰の一瞬の攻防に間に合わなかったコウガが聖剣をアクに振り下ろす。


「お前が皆を殺したんだ。お前がいなければこんな戦い起こらなかったのに」


 コウガが闇雲に聖剣を振り回してくる。

そこに剣術と呼ばれる技法はなく、まるで棒を振るう子供のようだった。

アクはブラックホールを閉じて、コウガの頬を張る。


「駄々を捏ねるな。お前は最後まで残った勇者なんだろう。ならば勇者らしくしたらどうだ」


 アクの冷たい視線に変わりはない。

だが、なぜか言葉には暖かみがあるように感じた。

その声を聴いたお陰か、コウガの気持ちは落ち着いてきた。


「それにもっと辺りを見渡してみたらどうだ。お前には余裕が無さ過ぎる」


 アクに言われてコウガは恐る恐る地上である海を見る。

そこには大破したはずの船が沈み、氷の上で怪我や死体を処理している地獄絵図が広がっているはずだった。


「えっ、どうして」


 コウガが見たものは、凍った海でも沈みゆく船でもなかった。


「ガンバレ勇者、世界の命運はお前にかかっているぞ!」

「勇者様、魔王を倒してください!」


 沈みそうにない船から多くの兵士がコウガに声援を送っていた。

凍った海も、アクの魔法によって空いた大きな穴も存在しなかった。


「何をした」

「お前は見ていなかったのか、あいつが何をしたのか」


 コウガは勇者達の戦いに嫌気がさして目を瞑っていた。

その間に全てが元通りになっていたのだ。

 それは再生の神の所業であり、アクがこの戦いで行ったことが全て無かったことにされていたのだ。

但し、アクが取り戻した記憶や感情はそのままに。


「あいつとは誰のことだ」

「お前は本当に最初から最後まで空気の読めないむかつく奴だ」


 アクは共に異世界から召喚された少年を見て、苦笑いを浮かべる。

最初からコウガのことが気に入らなかった。

 イケメンで王国でも優遇されていて、年下のくせにリーダーシップをとり、正義感が強くて優しいコウガが大嫌いだった。


「なっ?君にむかつくと言われる筋合いはない」


 まるで子供の喧嘩のような返答をするコウガにアクは息を吐く。


「そろそろ時間が無さそうだな」


 アクとコウガを囲むように多くの影が浮かんできた。

コウガもそれに気づいて辺りに視線を向ければ、見慣れた顔がそこにいた。

 その中から背中に二本、腰に二本の剣を差した男が前に出る。


「よう。久しぶりに見る顔だな兄弟」

「そうだな。お前の顔を見るのは随分久しぶりな気がするよ」

「戻ったんだな」

「ああ、戻って早々に行かなくちゃいけないけどな」

「そうか、もう戻っては来れないのか」

「どうだろうな。俺も何が起こるかわからないからな」

「お前でも読めないことがあるのか」

「もちろんだ。世界は謎に包まれているだろ。それに俺は勇者にはならないからな」

「そうだな。お前はあくまで俺の軍師だ」


 サントンはアクに笑いかけて、手を差し出す。

それは別れと再会を約束する握手であり、友のためにサントンができる最後の約束だった。

 サントンの剣がアクを貫く、それでもアクは倒れることはない。

邪神の体となったアクに最早サントンの剣では止めはさせない。

だが二人にとってそれは儀式みたいなものだった。


「必ず戻れよ」


 サントンが剣を引き抜き、アクに背を向ける。


「マスター」


 サントンの代わりに三人の女性がアクの前にやってきた。

姿は大人になってもアクにとって可愛い三人に変わりはない。


「ルー、エリスに謝っておいてくれ」


 ルーは言葉を失い、アクの言葉に涙が止まらなくなる。

ルー、サーラ・ヨナと順番に頭と頬を撫でる。

 三人に優しく笑いかけて頷いた。

ヨナは首を何度も横に振り、何かを拒むようにアクの手から離れようとしない。

そんなヨナをサーラが優しく抱きしめて、アクから引き離す。 

 ルーはアクが望んでいることを理解している。

だからこそ自身のしなくてはいけないことをするために、銀色に光り輝きアクを照らしだす。


 白扇とセントハルクには、視線だけで挨拶を済ませる。


「おい、くそ勇者。約束を果たせよ」


 コウガに視線を向けて、アクが催促する。

自分の気持ちに整理をつけることができず、状況にもついていたけないコウガは呆然としている。


「何をしているのだ。男の門出を見送ってやらぬか」

「ホンマ。ダメ男やねコウガ君」

「何をしたらいいか見てればわかるだろうが。空気読めないおぼっちゃんだぜ」

「護、そんなこと言ったらだめだよ」


 コウガの背中を押すように4人の勇者が言葉をかける。

四人の言葉でやっと意識を覚醒させたコウガがアクを見る。

アクは銀色の光に包まれ、その身を晒している。


「コウガ様、この世界を頼みます」


 リリーセリアもドロップも紫苑も絶貴も玄武も、コウガの行動を待っている。

全員が何をすればいいのかわかっていた。


 視線がコウガとアクに集まる。


「僕はあなたが嫌いです!大人ぶって先を見透かした言い方ばかりして、もっとはっきり何をすればいいか言ってくれればいいのに」


 視線に耐えられなくなったのかコウガが叫び出す。


「俺もお前が嫌いだ。自身の正義感を振りかざして、いつも自分が一番正しいと思っているところに反吐が出る」


 コウガに付き合うようにアクもコウガを罵る。


「でも本当の勇者は僕ではないです」


「あっ?」

「あなたが本当の勇者だ」


 コウガは聖剣をアクの胸に突き刺した。

神殺しの聖剣を二神を宿したアクに突き刺した。

 

「よくやった。お前が勇者だ」


 コウガの頭を撫でてやり、アクは意識を手放した。

いつも読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ