邪神になりました29
おはようございます。
どうぞよろしくお願いします。
アクは自身の中にいる暗黒龍が悪い奴だと思えなかった。
悪戯好きで寂しがり屋で、木の上で寝ている姿は気持ちよくて、アクが困ったときはアドバイスをくれたり、ずっとそばにいてくれた。
異世界に召喚されたときからの親友なのだ。
他の奴が魔王だ、暗黒龍だと言ってもアクにはそう思えなかった。
アクを乗っ取るためアクの記憶を感情を消して、破壊衝動に任せて暴れ回ることもできたのにそれもしなかった。
全てアクの好きなように体を使わせてくれた。
コウガ達の前から姿を消したアクはもう一度目を閉じる。
「あれ、どうしたんだい?早くあいつらをやっつけないと」
「なぁ、聞いておきたいことがあるんだ」
「なんだい?あっ、今更代わって戦って~とかなしだよ。僕だって快適な生活を送っているんだ。ここに君が世界を破壊するのを見ている楽しみがあるんだからね」
「どうして、自分で破壊しないんだ」
「なんだそんなことかい。そうだね、なんだか疲れてしまったんだ。僕はずっと働いてきた。唯一の友達だった奴に裏切られてもずっと働いてきた」
暗黒龍ベルザルードはいつものおどけた調子ではなく、どこか遠くを見つめるように語り出した。
「同じことを繰り返すってしんどいことなんだよ。何度も何度も作られたものを只々壊していく。空虚で何もない世界にしていく。最初はそれが楽しくて仕事に励んでいたんだ。でもね、いつからか疲れてしまったんだ。何万何億回世界を壊したかわからない。いつの間にか楽しさが無くなっていて、裏切り者には彼を慕う者達が現われて僕を倒しに来る。僕は神だから死にはしないけど、仕事の邪魔をされると腹が立つよね。でもそれが楽しかった。誰かが僕を倒しに来る。なんてスリリングなことなんだろうか、なんてエキサイティングなことなんだろうか、彼と始めたゲームは何より楽しかった」
遠くを見つめていた瞳はまるで新しいオモチャを手に入れた子供のように輝きだした。
「だけど彼らの力どんどん強くなってきて神である僕に届きかけていた。僕も色々なことをしてきたよ。魔族を生み出したり獣人達を扇動して戦わせたり、だけど彼の眷属たちはどんどん力を付けて行くんだ。僕も彼に負けたくないからどんどん力を強めていった。それでも僕と相討つ者が出てきたときはびっくりしたな~あれは本当に楽しい戦いだった」
昔を思い出すベルザルードの記憶がアクにも流れ込んでくる。
そこには砂丘 修二という少年が全力で暗黒龍に挑む姿が映し出されていた。
「だけど、封印された戦い以降、僕も一度倒されたことで力を回復させるのに時間が必要だった。だけど力を付ける前に悉く彼の邪魔が入った。僕はゲームを楽しみたいだけなのに、彼は僕を恐れていたんだろうね」
寂しそうな顔になったベルザルードを見つめて、アクは二神の戯れに付き合わされていたのかと怒りや呆れを感じていた。
それでもベルザルードが何を想い何を考えていたのかやっと理解できた。
ベルザルードは子供なのだ。
「だからね、彼をびっくりさせようと思って僕は隠れたんだ君の中に、力をできるだけ抑えて彼にばれないように」
新しい遊びをしているようにベルザルードは語る。
きっとかくれんぼをしているような感覚なんだろう。
鬼である再生神にばれないようにするかくれんぼ。
「だけど隠れている間に見た君との生活は楽しかったな。今まで僕が誰かの中に入ると心が壊れてしまったり、悪いことをしたりする人ばっかりだったんだ。だけど僕が力を抑えているせいか君は色々なことを考え行動していった。僕は傍にいるだけでワクワクしたよ。いつの間にか彼のことを忘れるぐらい楽しい毎日だった」
アクと食べた魚やアクと見た景色、アクと共に肩を並べた戦場がベルザルードにとっては掛け替えのない思い出だった。
「だけど君の心も壊れかけていた」
アクはサーラから受け取った記憶で、自分が壊れてしまったことを理解していた。
あまりにも非人道的な行為を見て許せなくなった。
怒りが止まらず暴走してしまったのだ。
「でもね。僕は君を失いたくないから裏技を使ったんだ。君の心も記憶も奪ってしまえば君は壊れないんじゃないかって、奪った後に気付いたんだ。全てを奪ってしまえば君であり君でないんだって・・・」
どうしてベルザルードがアクに体を自由に使わせていたのか、どうして彼がアクの記憶を奪い、また取り戻させる手伝いをしたのか、その答えを知ることができた。
「ありがとう」
暗黒龍の姿ではなく、アモンだった頃の姿に戻ったベルザルードが上目遣いにアクを見ていた。
アクはベルザルードの傍により、頭を撫でてやる。
「怒ってないの?」
「ああ、お前は俺を助けてくれたんだ。怒るはずがないだろ」
アクの言葉と掌の感触にベルザルードは嬉しそうに笑顔を見せた。
「だけど、そろそろお前達のゲームも終わらせなければならないな」
「うん。僕も彼は必要ないや。アクや皆が居れば」
アクが目を開く。
目の前にはコウガではなく、天辰が立っている。
「砂丘さんそっちに行きました」
コウガの声が天辰とアクの耳に届く。
アクの決心した瞳を見て、天辰は言いしれぬ恐怖を感じた・・・・
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