邪神になりました28
皆さまにやっと報告できるまでになりました。
後数話で完結となります。
どうか最後までお付き合いください。
銀色の風が闇を晴らすべくアクの頬を撫でた。
それは心地よくもあり、懐かしいような気がした。
だがそれも一瞬で、目の前にはレインボーに光り輝く魔力をアクへと叩きこもうとしているヨナが、サーラに支えられて突っ込んできていた。
アクは一切の魔力を纏わず、抱きとめる様にサーラとヨナの二人を包み込む。
ヨナのレインボーが確かな衝撃をアクに与えたと同時にサーラとヨナの胸にも確かな衝撃が伝えられる。
アクの腕がヨナを貫き、反対の手でサーラの背中を貫いた。
「マスター、ごめんなさい」
ヨナは意識を失う前にアクへの謝罪を口にした。
それはアクを止められなかったことへ謝罪なのか、戦いを挑んだことへの謝罪なのか、アクにはわからない。
だが二人を貫いたことでアクには大きな変化が訪れた。
「こんな感情はいらないのにな」
アクの瞳から涙が零れ落ちた。
二人を手にかけたことで、アクが手に入れたものは愛と記憶だった。
腕の中で事切れる最愛の家族にアクは涙を流した。
ヨナから伝わってくる絶対的な愛情、それはアクを失ったことで悲しみになり、そしてアクに出会えたことでさらなる想いとなってヨナの中で渦巻いていた。
ヨナの無条件の愛がアクの中に流れ込み、暖かな気持ちが生まれてくる。
さらにアクとしての記憶が一気に流れ込んできた。
異世界から召喚され、戦争をしてサントンと国を作り、全てを飲み込んだ瞬間までアクの記憶が戻ってくる。
「マスター」
「ルー。心配をかけたな」
残ったルーはアクの変化に戸惑いつつも、しっかりと名前を呼んで返事をした。
「本当に本当にマスターなんですね」
ルーは感極まって口を塞ぎ嗚咽を抑える。
「ああ、俺は阿久井 重ことアクだ。心配をかけたな。でもまだやらなければならないことがあるんだ。二人のことを頼めるか」
竜化が解けたサーラとぐったりと項垂れているヨナをルーへと預ける。
記憶が戻ったアクによって二人は魔力が流し込まれ、息を吹き返していた。
「まだ安心できない。リリーセリアのところに連れて行ってやってくれ」
アクは記憶を失っていたときの記憶も有しており、リリーセリアがサントン達を救ってくれているのも理解していた。
「はい。すぐに戻ってきます」
ルーはアクが何かをしようとしているのがわかっているからこそ、傍にいたいと思った。
「頼んだ」
そんなアクも笑顔で応えた。
ルーの心はそれだけで満たされていく。
「はい!」
嬉々として降下していくルーを見送るアクは一人の人物を見つめた。
大魔王 砂丘 修二を・・・・
「貴様は誰だ」
アクは砂丘を見つめて初めて質問を投げかけた。
「そうか、まだ名乗っていなかったな。俺は元・土の勇者、現・大魔王 砂丘 修二だ」
「違うな。お前は砂丘何とかではない。嘘だと分かる名乗りはいらないぞ。」
「心外だな。確かに400年間、砂丘 修二として生きて来ているんだがな」
アクの問いを聞いて砂丘の口調が変わる。
いつも穏やかで落ち着いた話し方ではなく、どこか子供っぽく悪戯をした子供のような口調。
「生きてきたか、貴様は誰だ。砂丘ではないんだろう」
「そうだな。この名前を名乗るのも400年ぶりか、俺は元・火の勇者 天辰 雄姿だ」
それは嘗て砂丘 修二と共に暗黒龍ベルザルードと戦った勇者の名前であった。
そして神に選ばれた使徒として、砂丘の中に魔王を封印した者の名前なのだ。
「どうして砂丘などと名乗っている」
「その質問には答えられないな。態々死ぬ奴に話すこともないだろ。今回も俺の手でお前を殺すんだからな」
天辰は400年間、魔王の種を持った者をたくさん殺してきた。
100年に一度生まれる魔王の因子と言われているが、実際は何年かに一度魔王は復活していた。
そのたびに天辰は時に民衆を扇動し、時に自らの手によって魔王の因子を持った者を殺してきた。
「害虫は殺さないとな」
先程までの冷静でカリスマ性に溢れた砂丘の面影はどこにもなかった。
あるのは狂った表情をした狂人 天辰のみだった。
「お前……人間じゃないな」
アクはそれでも冷静に分析するように天辰を見つめ続ける。
「それも心外だな。れっきとした人間に間違いないぜ。但し神によって強化され、神の力が使えるってだけだ。そうだな、信じられないなら見せてやるよ」
天辰は背中に生える12枚の羽根を最大限に広げ、白い光を放ち始める。
それは暖かく傷ついた者達を癒し、死んだと思っていた者を、沈んだ船を、壊れた海を、元通りにする。
「どうだ。これが再生の力だ」
アクが傷つけ、戦いの余波によって壊れたものが全て元通りになる。
「そうか。貴様が俺と対を為す者か」
「誰がお前と対をなすだって、バカなこといってんじゃねぇ。俺は俺だ。唯一神にして最高神、それが俺様再生の神だ」
アクは目を閉じる。
空高くアクをずっと見つめていた瞳はなくなっていた。
その代りそれと同じ気持ち悪さを目の前にいる天辰から感じるのだ。
「あ~あ、うっとしいのが出てきちゃったね。あいつしつこいよ」
目を閉じたことで今まで聞こえなかったベルザルードの声が聴こえてくる。
彼の正体もアクは破壊の神であると確信が持てていた。
「そうだな。こんな壊れた世界は終わらせなくてはいけない」
「そうだね。やっと君もわかってくれたんだね。じゃ行こうか全てを壊すために・・・」
ベルザルードの言葉にアクは目を開ける。
そこには天辰以外にもう一人いた。
それはアクと同じ時期に異世界から召喚され、もっとも勇者らしい少年だった。
正義感が強く、真面目で優しい少年は、しばらく会わないうちに精悍な顔になり勇者として他の者に力を託されるほど強く成長を遂げていた。
それを見た瞬間アクの脳裏に決着の仕方が浮かんだような気がした。
「天野 光賀だったな」
アクがコウガに話しかけたのは、異世界に来て初めてのことだった。
コウガは勇者の力を全て受け取り、アクと対峙しようと考えていた。
しかし、砂丘とアクの変貌ぶりに気付いて戸惑っていた。
「そうです」
戸惑いながらもアクの質問に何とか返事をする。
「お前に頼みがある」
アクの顔は真剣そのもので、コウガはアクの話を聞かなければならない。
天辰もアクが何を言うのか興味を持ったみたいで邪魔をしてこない。
「なんでしょうか」
「俺を殺してほしい。俺の中には破壊の神がいる。そいつは全てを壊そうと考えているんだ。だから全てを壊す前に俺を殺してほしい」
アクの瞳を見つめたコウガは返事に困っていた。
確かに自分はアクを殺そうとしていた。
だがそれはあくまでアクが世界に害を為す存在だと思っていたからだ。
だが今のアクに敵意はない。
何よりアクが破壊した者は全て元に戻っているのだ。
地上に意識を向ければ戦っていた英雄たちも息を吹き返したらしい。
国から集めた兵士たちも全て生き返り、誰も死んでいない。
アクさえ心変わりしてくれればアクを討つ必要はないのだ。
「どうした勇者よ。魔王を討つのはお前の仕事だろ」
コウガが迷っていると天辰がコウガの耳に囁きかける。
「真の勇者の聖剣は魔を討つためだけの物だけではない。お前の聖剣は神を斬れる」
天辰に囁かれながら、アクは真剣な顔でコウガを見る。
「わかりました。あなたを討ちます」
天辰はコウガの言葉に満足したのか、腕を組んでコウガの後ろに下がっていく。
コウガは聖剣を構え直し、アクに対峙する。
「どんなことが起きても必ず俺を討てよ」
「えっ」
アクはコウガに言葉をかけた瞬間姿を消した・・・・
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