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邪神になりました25

 コウガは勝ち目が無い戦いを続ける砂丘の背中に絶望を感じていた。

真の勇者として相応しい修行を積んだはずだった。

聖剣も使いこなせるようになった、強い仲間も手に入れた。

そのはずなのに、どうしてまた負けそうなんだろう。

 異世界に来て、真剣勝負にコウガは一度も勝ったことがない。

一度目の土の勇者金剛 護戦は引き分け、二度目のセントハルク戦は圧倒的な敗北、そして砂丘と出会い、真の勇者として力を身に着け、世界の命運をかけるためにやってきた三戦目は闇の勇者アクの前に手も足も出ない。


「どうすればいいんだ」


 コウガが狼狽えて頭を抱える。


「ははははは」


 コウガが頭を抱える横で、火鉢が笑い出した。


「どないしたんヒ~ちゃん」


 親友である風香も火鉢の奇行に訝しむような表情を浮かべて問いかける。

コウガや金剛は火鉢の行動に怪訝そうな顔をしている。


「いや、旦那様達の戦いを見ていて分かったことがあってね」

「わかったこと」

「ああ。どうして闇の勇者君はあそこまで強くなれたのかと、ずっと考えていたんだ」

「それは魔王の力を手に入れたからちゃうん」

「それはもちろんそうだろうが、果たしてそれだけだろうか。それならば精霊を手に入れた私達も強くなってもいいと思うんだ。特に旦那様の精霊ルシフェルは全魔法属性を使いこなすほどに強力なものだ。魔王に匹敵するんじゃないか、確かに旦那様自体も化け物だと思うほど強いけど魔王ほどではない。今だって私達が手も足も出ない闇の勇者君と戦えているのが化け物の証拠だ」

「あれは、修二さんが相手の予測して先読みしながら戦っているからできることやろ」

「そうだ。だがそれだけじゃない。旦那様は大技を封印して、小技で闇の勇者君を翻弄しているからだ。私達は闇の勇者君を倒そうと大技をぶつけて倒そうとしていた。だが闇の勇者君は私達が技を使えば使うほど強くなっているような気がしないか。そして他の者が倒される度に闇の勇者君の強さが増している気がする」

「ヒ~ちゃんいい加減に何がいいたいんか言うてよ」

「ああ、わかった。闇の勇者君は私達の力を吸収しているんじゃないか」

「吸収?」

「ああ、闇の勇者君は今まで多くの者達の力を吸収してきたんだろう。だからこそ魔王というカードを手に入れたことで急激な成長を遂げた。だがあまりの力の大きさに翻弄され暴走してしまっていたんじゃないか」

「していた?」

「ああ、今の彼は確かに強い。だが暴走しているようには見えない。冷静に旦那様の攻撃に対応しているように見える」

「そうなんかな?」


 火鉢は戦いを行ないながら、ずっとアクのことを分析していた。

どうすれば勝てるのか、戦闘狂である火鉢は常に砂丘に勝つための方法を考えていた。

それは妻として認めた後も変わらない。

 今はそれをアクに向けている。

そうすることで誰よりも早くアクの真実に気付いた。


「でもヒ~ちゃん。それがわかったからなんなん、どうしたら倒せるん」

「なぁ、フ~。どうして私達は五人もいるんだろうな」

「へっ、どういうこと?」


 火鉢の突然の質問に風香の頭が付いて行かない。


「なるほどな」


 風香が疑問に思っていると、金剛が代わりに火鉢の質問に相槌を打った。


「わかったのかい」

「ああ、俺達は五人いる。それは予備なんじゃないか」

「予備?」


 金剛の言葉に風香が疑問を口にする。


「ああ、俺達はどうして六人でこの世界に召喚されたんだ?あの時、もう一人あの事故現場にいたのにだ。それはルールイス王国が無差別にしたことだと思っていた。それが本当は魔王を倒すために決められていたことなんじゃないか。この世界の属性が六だというのと同じで、一人の勇者が魔王を倒せなくても六人も召喚すれば誰かが、魔王を倒す刃になるかもしれないってことだ。一人の真なる勇者を作り出すための予備だった」

「そうだ。旦那様のときも六人が召喚され一人が魔王に他の五人が勇者になった。それから100年おきに勇者が召喚されたが、そのたびに六人の勇者が召喚されている。それは一体の強力な魔王を倒すために数で対抗しようとしたとも考えられる。だが、もう一つ。私達六人はもしかしたらたった一人の勇者の力を分けた存在なのではないか?ならば一つに戻って、力を吸収し合えばどうなるんだろうな」


 火鉢の言葉に白雪が息を呑む。

火鉢が言っていることは、アクのように仲間を犠牲にしてその力を吸収するということだ。

そんなことができるのだろうか。


「光の勇者君どう思う」


 火鉢の仮説を金剛が話して、風香と白雪が反応を示した。

そこで火鉢はコウガに視線を向ける。

そうすることで自然と四人の視線がコウガへと集まる。


「どう思うとはどういうことですか」

「君は話を聞いていなかったのか、私達は力を一つにまとめる必要があるんじゃないかという話だ」


 火鉢の言っていることは分かる。

金剛が話した予備と言う意味も理解できた。

でも本当にそれができるのか・・・・・


「本当にそんなことが・・・・」


 コウガは火鉢の言ったことは仮説に過ぎないと言いたかった。

だが、アクの圧倒的な強さ、そして同じように召喚されたアクに劣る五人の存在、魔王を倒す本当の勇者はアクだったのではないか、その構図が、コウガには火鉢の言葉が正しいように思えた。


「ならば試してみればいい」


 火鉢が言葉を言い終わる前にレイピアを白雪の心臓に突き刺す。


「えっ?」

「なっ!」


 白雪は自身の胸に刺さったレイピアに驚き、金剛は火鉢の奇行に判断が遅れたことに驚愕した。


「そういうことなんや」


 火鉢のレイピアが白雪の胸から抜かれる。

白雪の顔から血の気が引いて飛行していた体が落下していく。


「雫!!!」


 金剛が白雪を抱きとめようと動いた瞬間、風香の薙刀が金剛の首を薙ぐ。

しかし、金剛の体は元々土の精霊ロボによって全身鎧と化すコーティングをされている。

 風香の刃を弾き返し、金剛の放った鋼の刃が風香の豊満な胸を貫く。


「うっ」


 風香はうめき声をあげて、火鉢を確認する。

風香の視線に火鉢は応えない。

 火鉢は自身の体に起きた変化に驚き両手を握りしめていたのだ。


「ヒ~ちゃん、後は頼んだで」


 最期のときまで風香はマイペースに落ちて行った。


「やはり仮説は合っていたみたいだな。力が溢れてくる。私達だけが特別なのか。それとも闇の勇者君が特別なのか」


 火鉢は自身の体に起きた変化を確かめる。

先程までアクとサキュウの戦いに、ハッキリ言ってついていけなかった。

だが、今はサキュウが遅くすら見える。

 アクの圧倒的なまでの力には追いつかないが、それでも自身の力がアクに近づいていると実感できる。


「貴様、よくも雫を」


 リリーセリアの下に白雪を届けた金剛がその身を殺気を纏わせ、火鉢と対峙する。


「ほう……戦場に戻ってきたか。てっきり彼女に付きっきりでいるから殺しに行かなければならないかと思ったぞ」


 火鉢は金剛を見て笑っている。

親友である風香を討たれ、仲間として共に戦っていた白雪を手にかけたというのに、その表情はむしろ高揚しかなかった。


「俺には貴様も魔に落ちたように見えるがな」

「そんなことはない。私は元々こういう性格だよ。それに君もフ~を討ったことで実感しているんじゃないか」


 火鉢は自身に感じた変化を金剛も感じていると思っていた。


「こんな力ならいらなかったがな」

「なら私がもらおう」


 火鉢が金剛にレイピアを振り下ろす。

風香のときのように弾かれると判断した金剛はそのまま突っ込むが、火鉢のレイピアは金剛の肩を貫く。

金剛が前に出たことで、胸を逸らすことができた。


「なっ!」

「何を驚くことがある。私を風香と同じだとでも思ったのか」


 火鉢は金剛の反応を楽しそうに見つめる。

金剛との戦闘を楽しむ火鉢の顔は恍惚とした表情をしていた。


 金剛と火鉢の剣と魔法がぶつかり合う。


 コウガは二人の行動に呆然としていたが、ある決心をして目を瞑り手を合わせる・・・・・



いつも読んで頂きありがとうございます。

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