邪神になりました20
ルーはアクの表情をずっと見ていた。
サントンの心臓を抉り出した後、アクは確かに泣いていた。
でも、それがどんな意味を持つのか自分にはわからない。
もしかしたらアクの心は残っているのかもしれない。
ならば、どうすればアクの心が戻ってくるのか・・・・
「どうかしたの?」
ルーが考え込んでいるとヨナとサーラが傍に立っていた。
セントハルクと白扇がアクと戦いだし、勇者達が力を溜めているので、三人は見守る形になっているのだ。
「うん。相談があるの」
ルーはヨナとサーラにサントンの心臓を抉った後のアクの様子について話した。
それを聞いてサーラは頭を掻き、ヨナは嬉しそうな表情をしていた。
「そいつは厄介だね。旦那様の心があるなら親友であるサントンを王を討ったことは相当ショックだろうし、もしあったとしてもサントン王を討ったことで無くなっちまったかもしれないね」
サーラの言葉にルーは考え込み、ヨナはまたも悲壮な顔になる。
サーラが言うようにサントン王を討ったことで、何かを吹っ切った可能性はある。
でも、ルーはまだアクが心を残している方に賭けたいと思った。
「今はご主人様が、心が残っている方に賭けてみない?」
考えをまとめたルーが、二人に宣言する。
「まぁルーがそういうなら私に反対はないよ」
「賛成」
サーラは仕方ないな~と頭を掻き、ヨナは嬉しそうに笑顔になった。
三人の話が終わってアクの方を見れば、さらに悲惨な状況が生まれていた。
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セントハルクは自分の無力を嘆きたくなってきた。
自分はこんなにも弱かっただろうか、アクとはこんなにも強かったのだろうか。
セントハルクの攻撃は確実に当たっている。
だが、アクへのダメージと聞かれれば正直ダメージらしいダメージを与えられていないとわかっている。
何か手は無いかと精霊の力を高めてみたり、一点を狙って攻撃を仕掛けているが成果が出ていない。
「小技では効かぬのなら大技を当てるしかないぞ」
焦りを感じていたセントハルクに白扇が声をかける。
白扇もセントハルクを援護するために小技を繰り出していたためアクにダメージが無いことを理解していた。
「わかっている。だが、溜めを作る時間がない」
セントハルクの言葉を聞いて、白扇は真上へと体を向ける。
「どうした。どうして高く飛び上がるんだ」
「気付いておらんのか、勇者共が何やら力を溜めていたのを。奴らがお主を囮にしたようにこちらの溜めを作るために今度は奴らに力を使ってもらえればよい」
白扇に言われて辺りを見れば、確かに七つの光が力を発していた。
自分は怒りに駆られて周りが見えていなかったと、セントハルクは状況を理解した。
ならば勇者達が戦っている間に自分もとっておきの技を使おうと白扇にさらに上空に飛んでもらう。
セントハルクと白扇が、上空高くに上がったのを見てサキュウが動く。
サキュウは溜めていた力を解放する。
そうすることで七色に輝くオーラがサキュウを輝かせる。
サキュウと同じように力を解放した勇者達が、それぞれの色のオーラに輝きだす。
「ここからが本番だ」
サキュウがゆっくりと剣を携えて、アクへと迫る。
アクは何かを考えているような素振りだったが、サキュウが迫ってくることで初めて腕以外の場所が動いた。
瞼を閉じたのだ。
アクが瞼を閉じた一瞬でサキュウは魔剣を、コウガは聖剣を、火鉢や風香もそれぞれの武器を振り下ろす。
護と雫は最大の魔法を放ち、それぞれが放てる最高の攻撃を繰り出した。
しかし、どの攻撃もアクに届くことはなかった。
アクが目を開いたとき、その手には一つの心臓が握られていた。
「か、かえせ」
テリー・ハンソン、彼は何が起こったかわからなかった。
それぞれの勇者が力を解放し攻撃に転じるなか、魔法を放とうと力を溜めていた。
全員が攻撃に出た瞬間、胸を貫かれていたのだ。
「ご主人様」
ルーの絶叫が木霊する戦場で、テリーが落下していく。
先程と同じように心臓を投げ捨て、まるで自身の体を確認するように何度も掌を開いたり閉じたりしている。
「なるほど、やっぱり力を解放するために生贄が必要か」
今まで沈黙を守ってきたアクが初めて喋った。
そして今までどこを見ているのかわからなかった瞳は、初めて光を宿した。
「貴様等には我の力を解放するための生贄になってもらうぞ」
アクは勇者達を見つめて言い放つ。
その瞳は獰猛で、ルーが知っているアクの瞳ではなかった。
いつも読んで頂きありがとうござます。




