邪神になりました18
目の前の悲惨な光景に戦いを仕掛けた者達は息を呑む。
セントセルス神興国が誇る軍艦が、次々と爆炎を上げて沈んでいくのだ。
アクが放った黒い光は単なる魔法弾だったが、魔法弾と言うには恐ろしく、魔法レーザーと言った方がしっくりくる。
黒い光が包み込んだ場所はまるで世界が切り取られたように姿を変えていた。
半分になった船からは爆炎が起こり、空を飛んでいた鳥人や魔法師達が姿を消していた。
「これほどまでに・・・・」
自身の横を通り過ぎたことで、コウガはその恐ろしさを痛感する。
ルーがアクの腕にぶら下がらなければ、コウガは確実に死んでいた。
戦況をマズイと感じたサキュウが動く。
「慌てるな。俺達には精霊が付いている」
12枚の羽根を羽ばたかせ、サキュウがコウガの前に降り立ちアクと対峙する。
4人の勇者と二人の美少女によって抑えられたアクを見て、サキュウはどうすればいいのか考えていた。
「考えても仕方ないだろう。今はこいつを目覚めさせるのが先だ」
そんなサキュウの前に黄色い光を放つサントンが二本の剣を構える。
「王よ、態々王が出なくても私が行きます」
サントンに随分と過保護になったセントハルクがサントンと並び立つように剛槍を構える。
勇者達の行動を見守っていたバンガロウ&アース組が動き出した。
「まぁ二人でやればいいだろ。そうだ、ルールイスの姫さん。あとアスガルトの姫さん、あんたらは鬼人達と協力して、軍艦やらなんやらの救助に向かってくれ」
サントンはそれぞれの能力を考えて指示を出す。
リリーセリア・ミシェル・ルールイスはずっと引きこもっていた。
異世界から勇者を召喚することに反対し、そして魔王復活を阻止するために研究を続けてきた。
しかし、彼女の力では魔王を倒すことはできない。
彼女は研究を続ければ続けるほど、自分の力の無さを痛感し、彼女ができることは人を癒すことだけだとわかったのだった。
魔王との戦いはたくさんの犠牲者を出す。
それを癒す者になりたいと考えたのだ。
「女神の抱擁」
彼女は炎上する船の上を舞い、光の魔法を行使する。
苦しんでいた者は安らぎの表情になり、傷付き動けなかった者は痛みが無くなり自身の痛いところを何度も動かしている。
「次は私」
ドロップ・ドゥ・バロックは氷の魔女という異名を持つ。
その才能は素晴らしく、アスガルトの中でも類まれなる逸材と呼ばれていた。
ドロップは海を凍らせ、爆炎を上げる船を消火する。
アスガルトという国は荒野が続き、砂地が多い。
そのため水の魔法は貴重とされている。
さらに雪の降らないアスガルトで、雪を降らせることができるドロップは他国の聖女と変わらない扱いを受けてきた。
二人の王女がアクの作り出した地獄絵図を終わらせる。
氷によって足場ができたことで、鬼人三人衆は氷の上に降りて、シノビの極意で作り出した分身を走り回らせる。
一人では脱出出来ない者や、怪我が治っても意識を失った者を探して救出していく。
5人の活躍で悲惨な状況はある程度落ち着きを取り戻した。
それを確認したことで、サキュウやコウガの心にも余裕ができた。
二人が魔王と化したアクを見れば、4人の勇者は拘束を解きルーとヨナもアクから離れていた。
アクの前にはサントンとセントハルクがいる。
それまで天ばかり見ていたアクもサントンと目を合わせるようにサントンの顔を見ていた。
「バカ野郎が!魔王なんかになりやがって……苦しいなら苦しいって言ってくれればよ……そりゃ俺もお前に甘えてたぞ。でも俺達は友だろ?バカが」
サントンは仮面に隠させたアクの顔を見て悲しくなり、そしてその瞳に自分が映っていないことを悲しんだ。
「王様、危険です」
セントハルクはいつでもアクを突けるように剛槍を構えたままだ。
「黙ってろ」
サントンはセントハルクの言葉を遮る。
「今はアクと話してるんだ。なぁアク、もしお前がおかしくなっちまってるなら俺がお前を元に戻してやる。でもな、もし声が聴こえてるなら戻ってこいよ。お前と戦うとか俺は嫌だぜ」
サントンは剣を納め、アクに手を差し出す。
「もし俺の声が聴こえているなら手を取れ、アク」
サントンの表情は信頼する仲間に向ける者に間違いなかった。
周りの者達もサントンの手をアクが取ることを願った。
しかし、アクが取ったのはサントンの手ではなく、心臓だった・・・
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