邪神になりました14
サキュウが黒い光の柱が有った場所に着いた時には、獣人も龍人も全て居なくなっていた。
そこにいたのは黒いローブを身に纏い、目元だけを隠した仮面をつけた男だった。
「貴様がやったかのか」
サキュウは遠目ではあるが、ここに龍人達がいたことを見ていた。
そして次々とアクによって落とされていく姿も見ていたのだ。
「・・・・・」
アクは何も答えなかった。
只々空を仰ぎ動こうとしない。
黒い光の柱が消えたことで、海が吸収されることは無くなったが、黒い光の柱が有った場所はぽっかりと穴が開いたように海の水が穴へ流れ落ちていた。
サキュウは解放されたアクを見て、どうすればいいのか迷っていた。
今までの魔王はよくしゃべる奴が多かった。
何よりその破壊衝動によって破壊と殺戮を繰り返してきた。
じっとしている今ならばやれるかもしれない。
サキュウの頭の中で、頭がフル回転していた。
だが、漏らした僅かな殺気にアクが反応する。
白扇のときと同じようにいきなり、サキュウの前に現れて胸を抉りにくる。
サキュウも考え事をしていて対処が遅れてしまったが、一緒に飛んできていたルーがサキュウを突き飛ばす。
「今は、逃げましょう」
ルーは砂丘を突き飛ばした勢いのまま、海へと落下していった。
アクは追っては来ない。
只々空の上で天を覗うように見つめていた。
ルーの行動で冷静になれたサキュウは、白扇達が落ちた場所に転移を発動させ探索を発動する。
探索を使えばたとえ海に落ちても見つけることができる。
獣人・龍人の居場所を見つけ、ルーと共に全員を転移させる。
最後までアクは動こうとはしなかった。
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サキュウはアクから逃れるため、無我夢中で転移をした。
転移した先は大魔王城だった。
アクからもっとも遠く、自身が知る中で一番安全な場所を選んでいた。
「旦那様?」
サキュウ達が転移してきたことで、大魔王城で待機していた火鉢、風香、アンジェリカがサキュウの前にいた。
三人はルーとフェアリータウンに向かう前に大魔王城に戻っているようにと伝えておいた。
エルファルトは光の勇者 コウガの師匠としてルールイス王国に帰還している。
「火鉢か・・・すまない。この者達の治療を頼めるか」
「はい」
サキュウの教えにより、火鉢や風香は簡単な治療魔法を使うことができる。
獣人達は落下した衝撃によって気を失っているだけだったので、簡単な処置をして寝かせておくことにした。
白扇だけは深手を負っているので、サキュウが直接治療に当たる。
ルーは火鉢たちの手伝いをしていたが、一通り獣人達の世話を終えると、アクがいるであろう空を見つめていた。
「終わったか・・・・」
サキュウが白扇の治療を終えて、椅子に腰かける。
火鉢たちは早々に処置を終えていたので、先に椅子に座っていた。
残るの看病はアンジェリカに任せている。
傷口からの熱などで魘されるだろうが、こればかり体を治療する上で仕方がないことなので、耐えてもらうしかない。
「旦那様、何があったのだ」
火鉢はここまで疲労しているサキュウを見たことがない。
サキュウはいつも余裕があり、戦闘をしていても息を切らしたことがない。
それのサキュウが息も絶え絶えで、治療を終えたぐらいでここまで疲労するだろうか。
火鉢の中でそんなことはありえないと思った。
「俺の考えは間違っていたのかもしれない」
サキュウは何かを思い出したのか、顔面が蒼白となり手で顔を覆う。
「ホンマに何があったん」
「今回の魔王は別格だ。今まで俺が見てきた魔王はおしゃべり好きで、どこか危うくそれでも対処できないほどではなかった。だが、今回の魔王は他者を意にも介さない。圧倒的な戦闘力と存在感を放っていた」
サキュウがここまで疲労するほどと言うことに、風香は黙って息を呑んだ。
「ほう~旦那様をもってしてもそこまで言わしめる相手か」
風香と対照的に火鉢は嬉々としていた。
「お前はわかっているのか、相手は・・・・本当の化け物だ」
「わかっているとも旦那様、それでも私達はやらなければならないのだろう。どこかに手段があるはずだ。絶望するよりも楽しんだ方がいいではないか」
火鉢はどこまでいっても火鉢であった。
そんな火鉢にサキュウは唖然とした後、笑い出した。
「はははっははっはは、確かに火鉢の言う通りだ。俺は何をビビっていたのだろうな」
最後の方は自嘲であったが、先程までの落ち込んだ雰囲気はなかった。
そこには何かを振り切ったサキュウがいた。
「すでに魔王は解き放たれた。各国に召集をかけてくれ。最終決戦だ」
サキュウは火鉢のお蔭で気持ちを立て直し、アクとの戦闘をすることを決心した。
人類とアクとの戦いが始まろうとしていた。
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