邪神になりました5
次に気が付いた時、大勢の人を見下ろしていた。
見下ろしてはいるが、手足は縛られ張りつけにされているのがわかった。
この状況はなんだ、俺は王なんだろどうしてこんな目に遭わなければならない。
張りつけられた足元には薪が何本も置かれており、あとは火を放つだけの状態だと理解できる。
「矢を放てぇ!」
号令と同時に何本かの火の矢が放たれ、薪が燃え上がり始めた。
「許さぬ、許さぬぞ」
どんどんと心の中から込み上がってくる言葉を自分の意志とは関係なく吐き出す。
「裏切り者は許さぬ。この世界を許さぬ。我は魔王、世界を滅ぼすものなり、覚えておくがいい我の魂は未来永劫お前達を呪い続け、お前達を全て滅ぼすまで死にはしない」
呪いの言葉を吐きながら、魔王は炎に包まれる。
魔力を使おうにも封印が施されているのか上手くいかない。
ただただ呪いの言葉を吐き続けることしかできない。
魔王は言葉を吐き続けて、その身が朽ち果てるまで世界を呪った。
ーーーーーーー
またも暗い暗い闇の中、先ほどまで自身が護る民に裏切られ、火あぶりにされていたことを鮮明に覚えているのに、体には熱さも痛みも感じない。
「これは幻覚なのか?それにしては生々しい光景だった」
漂いながら先程の光景を思い出し、嫌な気分へと変わっていく。
頭を振って気持ちを切り替えようとするが、火あぶりにされた光景が頭から離れない。
忘れられない、裏切られた事実が。
「これは本当に俺の記憶なのか?」
疑問に思ったことを口にする。
記憶?本当にこれが思い出、考え込んでいるとまたも暗闇は明るくなり手足にはっきりとした感覚が戻ってくる。
「ママ?どうしたの?」
「イヤ~こないで化け物」
不意に出てきた言葉に驚きながら、先ほどと同じで体の感覚はあるが、思考が自分とは別のもののように感じる。
先程は質問をしようと思えばできたのに、今度はそれすらも許されない。
視点は自分だというのに、心は別の誰かの者を借りているようだ。
そしてその感覚では手に何かをもっている。
視線を向けた先には人の頭らしき物を持っていた。
頭らしき物を自身の視線の高さまで持ち上げてみると頭は男の頭だった。
「あ、あなた~!!!」
ママと言った相手があなたと叫ぶ人物は、父親だろうか?
自分が見ている世界では子供が親を殺したのだろうか?
「ママ?どうしたの」
またも不思議そうな声で自分自身が話し出す。
すると怯えた母親が座り込んだ状態のまま逃げ出していった。
「誰か!誰か来て!化け物よ化け物がいるの。」
化け物?化け物とは誰のこと?
自分が首を傾げている、すると母親の呼びかけに応えるように数人の大人達が家へと入ってくる。
自分を見つめる大人達の目は驚きと恐怖で歪み、終いには武器を持って襲い掛かってくるのだ。
逃げた必死に逃げた、それでも大人達の足の方が速くて、すぐに捕まえられる。
なんでどうして?私を追いかけるの?
自分の思考が頭の中に流れてくる。
自分は八歳になったばかりの少女だった。
少女の父親は毎日酒に酔い少女と母親に暴力を振るい続けた。
少女は母親を護るために、目覚めてしまったのだ、相手を倒す力に。
力は簡単に父親を吹き飛ばし、その父親の首をいとも簡単に引きちぎったのだ。
おぞましい光景を作り出した張本人は母親を助けるため必死だった。
だからこそ悪いことをしたと思っていなかった。
その日の内に少女は母親以外の村人全てを殺し尽くした。
それから少女は殺されるまで人を殺し続けた。
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暗闇に戻り考える。
最初とは違う記憶、それでも自分の記憶だと理解できるようになってきていた。
自身の記憶を見るために、光が訪れるのを待った。
「お主が闇の勇者か?」
それはどこかで聞いたようなセリフ、だが何も思い出せない。
闇の勇者だと言われた少女は、戦争に放り込まれる。
亜人と普人。
それは見た目が違うだけで虐げられた者たちが反旗を翻した革命だった。
劣勢だった普人達は異世界から勇者を召喚し、亜人達を討伐させた。
少女はその中でも多くの亜人を葬ることになる。
少女は狂っていた。
人を殺すことに快感を覚え多くの力を求めた。
いつしか少女は闇の勇者ではなく魔王と呼ばれるようになり、他にも召喚されていた勇者達によって殺されてしまう。
闇に戻り考える。
次々に見せられた記憶、それは少女であったり魔人であったり老人であったり、一瞬で終わったり一生を過ごしたり様々だった。
一つだけ共通しているのは、狂ったときに力は現われてさらに狂わせる。
闇の勇者になった後、何度か人は変わったが、そのたびに出てくるようになった一人の男がいた。
彼は誰だろうか、彼ならば自分の疑問に答えてくれるかもしれない。
俺は何者なんだ・・・・・。
いつも読んで頂きありがとうございます。




