邪神になりました4
暗い暗い闇の中、どうしてそこにいるのか、自分が誰なのか、何もわからない。
闇の中で漂っていることはわかる。
体は宙に浮いている。
寒さも暑さも何も感じない。
ただ暗い空間に自分は存在している。
「俺は誰なんだ」
疑問?
「ここはどこなんだ」
不安?
「俺は・・・」
言葉が浮かんでは消えていく。
何もわからない何も考えられない。
そのはずなのに、思考している自分がいる。
体は宙を漂うようにふらふらしていた。
自分の体が本当にそこにあるのかすらわからない。
だけど、脳だけは動き続けていた。
暗い・・・・どうして暗いことがわかるんだ?
自分の目は開いているのか、開いていても暗くて何も見えないのか?
寒くも暑くも感じない・・・・どうしてそれがわかるんだ。
自分の体もあるのかわからないのに、どうして寒さや暑さがわかるんだ?
誰・・・・誰とはなんだ、俺は何者なんだ。
不安・・・何を不安に感じることがある?何もわからないのに。
頭の中が動き続けて、段々と自身の意思が覚醒していく。
自分が誰かはわからない、ならば自分を探さなければならない。
そう思った瞬間、暗いと感じていた世界が明るく変わっていく。
何も感じないと思っていた体には、しっかりと手と足や体が存在している。
自分の体を確かめていたら、急に声をかけられた。
「おお~魔王様。魔王様がお目覚めになられたぞ」
布を腰に巻いただけの男が顔を上げて、大声を張り上げる。
他にも布で体を隠した者達が土下座をした状態で頭を下げている。
「ありがたやありがたや。これで我々も救われる」
大声を上げた男が頭を下げて、涙ながらに何度も礼を繰り返している。
なんだこいつらは俺は誰かもわからないというのに。
「お前達は誰だ。俺は誰なんだ」
魔王?魔王とはなんだ。
「魔王様、我々は滅びようとしております。どうか御救いください」
男の話を要約していく。
魔人族と呼ばれる人々が、普人族と呼ばれる者達によって滅ぼされようとしていた。
俺は魔人族の王であり、魔人族を導く存在だという。
魔人族と普人族の何が違うのかと問いかければ、魔人族は魔力を多く保有しており、見た目も角が生えていたり尻尾が生えている。
対して普人族は魔力が少なく、シッポも角もない。
そのかわり数が多く、武器をもって野蛮な種族だという。
「それがどうして滅びにつながるのだ」
男の話を聞いても滅びるとは思えない。
魔力が強いならば魔法を使って殲滅すればいい。
いくら数が多かろうと野蛮な者に負ける道理はないはずだ。
「奴らは知恵も回るのです。奇襲やだまし討ち、数を使って私達を罠にはめてくるのです」
つまりは野蛮ではなく、緻密に作戦を立てて追い詰められつつあるということか。
魔王は考える、自分は誰かもわからない、だというのに助けてくれと言われれば助けたくなる。
この気持ちは何なのかわからないが、やらなければならないと思う。
「わかった。では状況と人員、相手の詳細な情報を教えてくれ」
魔王はやる気になって先程から話している男に情報を求めた。
しかし、返ってきた言葉は耳を疑う者だった。
「状況とはなんですか?我々は滅びようとしています。人員?ここにいるのが全てですが。相手の詳細な情報とはどうしてそんなものが必要なのですか?魔王様ならば強大な魔力で敵をなぎ倒せるではないですか」
男には情報の大切さがなかった。
なにより、人員が目の前にいるだけ?
見たところ30人ぐらいしか魔人がいなかった。
「敵の数がわからなければ作戦がたてられないだろう。お前達は魔力に頼り過ぎて負けたのであろう。ならば変わらなければならない。相手の情報を集めて魔力を有効に使い相手を倒していかなければならない」
「はぁ・・・」
男は納得できないと言った顔で、首をかしげるばかりで動こうとしない。
周りにいる人々も同じようで、誰も行動にでない。
段々とイライラしてきた魔王が声を張り上げる。
「お前達はただ黙って滅びを待ちたいのか!言われたことがわからないなら質問してこい」
「では、魔王様が一人で戦って我々を救ってはくださらないのですか?」
男の質問に魔王は絶句する。
あまりにも他人任せな男の発言に怒りを通り越して言葉が出てこない。
「お前達はその間何をしているのだ」
「はい、魔王様の勝利を信じて祈っております」
男の真剣な顔を見て本気なのだと理解できた。
こいつらはダメだ、滅びても仕方ない。
「お前達は救う価値すらないのか!気概を見せよ。魔人ならばお前達にもプライドはあろう」
「ですが、我々は非力故、魔王様のような魔力もなければ、獣人達のような力もありません」
「もうよい。他の者達にも問う。我と共に戦う者はいないか?」
魔王の言葉に下を向く者達ばかりだった。
魔王は激昂したい気持ちを抑えて立ち上がる。
「ならば座して死を待つがよい」
魔王は敵について情報を集めるために自らで動き出す。
そこで見たものは絶望でしかなかった。
魔王達がいたのが、山に作られた洞窟の中であり、敵は山を覆うように数えきれないほどの数で蟻のように蠢いていた。
あれが全て敵だと認識したとき、後ろから頭を殴られる衝撃がもたらされる。
「魔王様、申し訳ありません。魔王様がお一人で戦うと言ってくださらないから我々は最後の手段をとるしかなくなりました」
魔王が最後に見たのは先程まで頭を下げていた男の顔だった。
いつも読んで頂きありがとうございます。




