邪神になりました3
サキュウはサントン王との話し合いを終えて、サントン王並びにバンガロウ王国に黒い光の柱の監視を頼んだ。
現在、海に面しており鈍足ではあるが、海が黒い光に吸収されつつあることは理解している。
それを止める手立てを探さなければならない。
一度暗黒大陸に戻り、各国の首脳や召喚された勇者達も集めなければならない。
この時期に彼らが召喚されたことには何かしらの意味があるとサキュウは考えていた。
「もう行かれるのか」
サキュウが王宮の廊下を歩いていると、長身の白扇が壁にもたれてサキュウに声をかけてきた。
「ええ、やらなければならないことが山ほどあります」
「本当にマスターが魔王なのか?」
「間違いないかと」
「そうか、ならば我々も動かなければならないだろうな」
「何をするつもりですか」
白扇の言葉にサキュウの目は鋭くなる。
このタイミングで動かれるのは得策とは言えない。
もう少し状況を整理して、最適な人員を集めてから当たるべきなのだ。
「お主の力がこの世界最強であろうと、我々には我々の役目というものがある。それを為すだけだ」
「あまり余計なことをするようでしたら・・・」
しばし白扇とサキュウはにらみ合ったが、白扇の方が視線を先に逸らした。
「マスターは世界を変えようとした。虐げられた獣人、亜人、龍人を救おうとした。そのための第一歩を成功させ、今、人と亜人が共に歩み町が作られている。それがいかにスゴイ偉業なのか、わからぬお主ではあるまい。何年か先の世で、人と亜人は隣同士の家に住み、普通に挨拶をする。それがいかにスゴイことか、夢を実現するのはすぐそこまできているのだ。我々にはマスターが必要なのだ。何があっても取り戻す」
白扇はサキュウに自身の想いを語り、背を向ける。
「もし邪魔するのであればたとえ貴様が最強であり、我が友、銀狼の友人であろうと容赦はせん」
その言葉を最後に白扇はサキュウの前から去って行った。
サキュウはもう一度アクという人物について考えた。
アクとはどんな人物なのか、どうしてここまで獣人や亜人を大切にしたのか、ただの魔法使いならばここまでしただろうか、もしかしたらまだ自分が知らない情報があるかもしれない。
サキュウは魔王城に戻り、情報集めに入ることにした。
ーーーーーーーーー
「とんでもないことになったものだな」
サントン王は綺麗に色づいた中庭を見つめて、部屋にいるセントハルクに話しかけた。
「アク殿が魔王だとして、王はどうされるおつもりですか?」
「どうとは、どういうことだ」
「大魔王殿の言うように殺すしかないとお考えですか」
「なぁセントハルク。アクはな、森で迷っていたんだよ」
いきなり昔話を始めたサントンに、セントハルクは困惑するが黙ってきくことにした。
「森で迷っていて、金もなくて俺達がいる盗賊団に入ってきた。歳は俺よりも上で戦闘はからっきしダメで、だけどいざ戦いになれば作戦を考え立案して、いつの間にか盗賊団の軍師に成っちまいやがった。しかも副頭の娘さんまでゲットするし、こいつは変わった奴だと思ったよ。でもあいつには驚かされてばかりだった。人を殺すことはビビりまくるくせに、戦闘に参加して魔法を使う。他の誰かが苦しむ姿を見るくらいならば、自分の作戦で人が傷つく位なら、自分が傷ついた方がいいだとよ」
いつの間にかサントン王の声には涙が混じっていた。
アクとサントン王は親友なのだ。
盗賊になり、メキメキと頭角を現してきたサントンと作戦を立案し成功させていくアク、二人がいれば何でもできると思った。
実際バンガロウ王を倒し、自分達の国を立ち上げ、連邦まで手中に収めるところまでいった。
それもこれも二人が力を合わせたからこそできたのだ。
「では、王はアク殿を助けるのですか」
「もしどうしてもアクの命を奪わなければならないのなら、その役目は俺の役目だ」
サントン王は腰に差した剣を抜いて、黒い光に向ける。
「誰にも渡さねぇ……助けられる可能性を最後まで探すが、もしもの時は・・・・・」
サントン王の覚悟を聞き終えて、セントハルクはサントン王の部屋を後にした。
セントハルクにとって、アクは軍師であり宰相でしかない。
そこまで思い入れはないが、バンガロウという国にとって必要な人間であるということは理解している。
だからこそ全力で調べて、アクを取り戻さなければならない。
「私の命を引き換えにしてでも・・・・」
セントハルクもまた新たな思いを胸に秘め、サントン王の手足となるべく動き出した。
いつも読んで頂きありがとうございます。




