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商人になります3

  商人ギルドの中は豪華なホテル仕様になっており、正面に大きなエントランスとフロントが設置されていた。

 フロントで呼び鈴を鳴らそうとしたところで、フロントマンらしき男性が出てきた。


「どなた様ですか?」


 執事服を着た老人が現れる。落ち着いた物腰の老人は静かにアクを見つめていた。


「こちらが商人ギルドでよろしかったでしょうか」

「はい。そうでございます」

「登録をお願いしたいのですが?」

「かしこまりました。紹介状はお待ちですか?」


 エビスに持たされた二通の紹介状を執事に渡す。


「ではこちらのソファーでお待ちください。」


 執事に案内されて、フカフカのソファーに腰掛ける。


「なんだか凄いな」

「私も初めて中に入ったのですが、なんだかスゴイです」


 セシリアも感嘆とした声をあげ、視線は建物の中を何度も見渡していた。


「商人ギルドは他の建物と随分違うんだな」

「商人達の象徴のような物ですからね。たぶん見えなんでしょうね」

「象徴か・・・旗とかもあるのか?」

「もちろんありますよ」

「象徴と言われると旗を思い浮かべるな」

「そうなんですか?旗というか紋章だと思うんですが」

「紋章の概念はあんまりないな」


 現代に生まれたアクに家紋や紋章に触れる機会はあまりない、それならば国旗などの方がイメージしやすかった。


「お待たせ致しました」


 セシリアと話している内に時間が経っていたらしい。老人執事の後ろに子供がついてきていた。


「お主が商人になりたい者か?」

「えっ、はい」

「ふむ。私は商人ギルド、ギルドマスターのキララじゃ。よろしくな」


 軽そうにキララと名乗った少女は、金髪にゴスロリ衣装を着ていてかなり似合っていた。


「キララ様。アク殿が呆れておられます」

「うん?そうか、私はいつもこんな感じじゃがな」

「だからいつもちゃんとしてくださいと言っておるではないですか……ハァ~」

「じぃは、うるさい!!!」


 老人と幼女の痴話喧嘩が始まりそうになり、頭の中の驚きから解放されて冷静になれた。


「そろそろいいか?」


 幼女と老人のやりとりを止めて声をかける。


「うん、なんじゃ」

「いや、だから、商人ギルド登録をしに来たんだが」

「おうおう、そうだったな。む~お主変わっておるのぅ」

「なっなにがだ」

「私はな、人を見る目があるのじゃよ」


 自信満々に胸を張る、可愛い生き物だ。ペッタンコの胸を突きだして、幼女がふんぞり返る。


「俺は記憶喪失なんだ。だから何の事かはわからん」

「うむ。そんな感じは受けんが、お主自身が言うならそうなのだろう」


 キララは鋭く目を細め、ニヤリと笑う。


「商人の件だが、一つ質問をしたい」

「なんだ」

「お前は何のために商人になる」


 キララの質問の意味を考える。本心を聞いているのか?それとも何か意味が込められているのか?わからない?だが、今は本心を答える。


「自分の可能性を試したい」

「可能性?」

「ああ、俺には魔法の力がある。それを利用して、さらに、自分の中にある残った知識を活かして、どこまで生きていけるか試したい」


 現代の知識がどこまで使えるのか、それも試してみたい。


「うむ……お主は面白いな」

「そうか?」

「ああ。商人ギルドメンバーなることを認める。歓迎するよ、良き友よ」

「良き友よ?」

「ああ、私達商人ギルドの挨拶だ。仲間にしか使わない」

「そういうことか。これから世話になる、良き友よ」


 アクはキララの言動をすぐに受け入れ、商人ギルドメンバーになった。


「うむ。これで契約成立じゃ。後はじぃがカードを渡すから少し待て、その間にお主のことを話せ」

「俺のこと?俺は記憶喪失だぞ」

「もう良いよ。我に嘘は通じぬ」


 キララは意地の悪い笑みでアクに話を促す。


「はぁ~どういう原理か教えろ。そうすれば話してやる」

「うむ、簡単なことだ。私は光の魔法使いなのじゃ。私の前で嘘を吐けば、私は嘘だと感じることができる」

「魔法か?」

「そうだ」


 魔法はなんでもありだな、しかし、知らない知識で見破られたなら知らないと言い張っても意味がないだろう。最悪ギルドメンバーとして認めないと言われても困ってしまう。


「……なら、仕方ないな。俺はこの世界の住人じゃない」

「うむ、今の言葉で推測するなら、ルールイス王国で勇者召喚が成功したという話が出回っていたな……お主が勇者か?」


 さすがは商人ギルド、ギルドマスターならば情報を持っていてもおかしくはないが、こんな辺境まで情報が届いていることにアクはやはり驚いてしまう。そしてその情報からすぐに推測してしまうキララの実力にも驚かされる。


「そうだ」

「なるほどな、だから違和感があるのか。して、お主は何の勇者様じゃ?」

「何とはなんだ」

「隠さんでもいい。勇者が六人いることはわかっておる。現在ルールイス王国に三人しか滞在してないことも知っておるしな」


 キララの情報にアクの方が驚いてしまう。ここに来てから驚かされてばかりだ。


「三人だけ?」

「うん?なんじゃ、それはお主は知らなんだか、これは逆に情報を与えてしもうたのう」

「そんなことより三人とはどういう事だ?」


 キララは少し考える素振りを見せる。


「情報は武器じゃ、お主の知りたいことに答えよう。その代わり私の知りたいことに答えてほしい」

「一問一答か、いいぜ」

「よかろう。じゃまずはお主からの質問だったな。現在闇の勇者が行方不明、火の勇者、風の勇者は北の暗黒大陸を目指しておる。まぁこれである程度はお主の正体もわかったがな」


 キララの勝ち誇った顔とは別に、アクは気になるキーワードがあった。


「暗黒大陸?」

「質問は一つじゃ。今度は私じゃな」

「もう一度最初の質問をする。どうして商人になりたい」


 今度は先ほどの質問と違い、意味についてだろう。


「俺は元の世界の知識を持っている。だから商人ならそれを活用できると思った」

「なるほど、嘘はないようじゃ」

「次は俺だ。今のバンガロウ王国をどう思う?」

「漠然とした質問な上に、まったく話が変わるなのぅ。まぁいいじゃろう。面白くないの一言じゃな」


 キララは本当につまらなさそうに吐き捨てた。


「お待たせ致しました。カードのご用意が出来ました」

「じぃ、早いぞ。今度は私からの質問のタイミングだったのに」

「それは申し訳ございませんでした」


 執事は全く申し訳なく思ってない顔で頭を下げた。


「まぁ、よい。アクよ、いや、闇の勇者のお主は面白いのぅ。また来てくれ」

「ああ、俺も楽しかったよ」


 キララに握手を求められて握手を返す。ギルドを出るとセシリアがむくれていた。


「どうかしたか?」

「記憶喪失は嘘なのですね」

「ああ、聞いていただろ。俺は異世界人だ。だからこの世界の知識はない。記憶喪失にしておけば都合がよかったんだ」

「これからもそうするつもりですか?」

「ああ、勇者になんかなりたくないしな。記憶喪失のアクとして生きていきたい」


 キララにばれたことでどこか吹っ切れていた。改めて今のアクが気に入っていると思えた。


「わかりました。私も他言は致しません」

「助かるよ」

「そのかわり一緒に甘味処に行きましょう」

「はっ?」

「デートしてくださいと言っているんですよ」


 その後は、セシリアに連れまわされ、甘い物をおごらさせられ、洋服を買っては荷物持ちに使われた。こういうのは久しぶりで楽しかった。


「今日はありがとうございました」


 セシリアに得意の満面の笑みでお礼を言われると照れてしまう。


「どういたしまして」

「私、結婚するんです。伯爵様で、うちの商店のお得意様です、すっごく優しくてイケメンだし、まだ二十二歳なんですよ。凄くシャイな方で、私にプロポーズするときも顔を真っ赤にしていたんです」

「よかったじゃないか」


 アクは思ったことをそのまま口にする。


「アクさんってズルいですね」

「そうか?」

「はい。どうして私を助けちゃったんですか」

「どういう意味だ」


 アクが困った顔をしていると、不意にセシリアが近づいてきて頬に柔らかい感触がした。


「アクさんにもっと早く出会いたかったです。悪漢から救ってくれて、わけのわからない私を家まで送ってくれて、謎が多い人だと思っていたら異世界人で、どうしてこんなにもドキドキさせられるんでしょうね」

「さぁな」


 セシリアの告白を優しげな眼差しで見つめるアク、アクも若い時に年上の相手に憧れたことがあった。妹みたいなセシリアは、そういう年なのだろう。


「やっぱりズルいです。私の初めてのキスだったのに平然として」


 セシリアはむくれてしまうが、本気で怒っていないことがわかっている。


「アクさん、大好きです。私にとって初恋だと思います」

「そうか……ありがとう」

「ふふふ、本当にズルいんだから、でも言えてよかったです。一緒にいて楽しくて本当に結婚が嫌になりそうだったから、スッキリしました。これで心置きなくお嫁にいけます」

「よかったな」

「はい」


 返事をしたセシリアは笑顔だが、目には涙が溜まっていた、アクは鈍感ではない。セシリアが案内を申し込んできたときから、もしかしたら好意を寄せられているかもぐらいには考えていた。


「連れ去ればよかったと思わせるぐらい、いい女になりますね」

「ああ」


 セシリアが泣き止むまで彼女に胸を貸してやる。泣き止んでも目の腫れは収まらないまま、エビスの商店に帰っていった。

読んでいただきありがとうございます。

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