閑話 その他の勇者達 45
閑話は今日で終わりです。
大悪党になりますの最後を書いていきます。
あまりにも圧倒的な存在が暗闇の中に現れた。
いつからそこにいたのだろうか、テリーには砂丘の気配を感じることはできなかった。
騎士となり、幾多の実戦を潜り抜け幾多の強者と戦った経験から自分は強いと思っていた。
実際にテリーは強かった。
神降ろしに成功し、神を宿す身となってからは普通の者では相手にできないほどの力を手に入れた。
それがどうだ、テリーは死を予感した。
そしてそれを受け入れざるを得ない状況に追い込まれていた。
「だ、誰なんだ」
後ろから発せられた殺気にテリーは振り返ることができない。
目の前に二人の敵がいることは分かるが、それどころではない。
テリーは極度のストレスを浴びせ続けられ、喉は渇き水分を欲している。
それでも動くことはできない。
「そうビビるな、聖騎士君。何も殺そうと言うんじゃない。少し質問に答えてくれればいい」
声の調子は若い男のように聞こえるが、調子など関係ない。
相手はテリーが神を降ろして戦っても到底勝てないと思わせる力量を持っているのだ。
殺されないと言うならば、逆らう道理はない。
テリーは持っていた剣を地面に投げ捨て、膝を地に突く。
「何が聞きたい。俺の知っていることならば何でも答えよう。我々聖騎士に嘘を吐く者などいない」
テリーなりの最後の抵抗だった。
聖騎士としてのプライド、それを護るために嘘を吐かないと言う。
「まぁどっちでもいいよ。俺には嘘は通じない」
「そうか」
「それでだ、聖女とはどんな女だ」
「聖女様だと、どんな女とはどういう意味だ?」
「そのまんまだ。お前から見て聖女という女はどんな風に見える」
「・・・私個人の感想でいいのか、聖女様はいつも虚空を見ておられる。見えない先を見ているような気がして」
テリーは聖女の顔を思い浮かべて、いつも思っていたことを言葉にする。
聖女は誰にでも優しく、妖艶な姿は理想の女性を連想させる。
子供達からは姉や母のような存在とし慕われ、男性達からは理想の恋人、女性達からは憧れの存在として崇められている。
理想を全てを集約した存在、それが聖女なのだ。
しかし、一番身近で聖女を守り続けてきたテリーには、聖女の目線はいつも焦点が合っていないように感じていた。
「なるほどな。理想の女性それが聖女様か、だがそんな理想を体現している政治は虚空を見つめるか、本当の聖女の姿はどっちなんだろうな」
砂丘はテリーの話を聞いて、闇の中に溶け込んでいく。
テリーが砂丘の気配がなくなったことを確認してホッと息を吐く。
いつの間にか目の前にいた美少女二人の気配も無くなっていた。
テリーは背中に流れる冷や汗を感じながら呆然とすることしかできなかった。
深い闇は続く。
二人の少女、月が雲に隠れ明かり一つない闇を一つの影を追いかけて進んでいく。
彼女達が追いつけるギリギリの速度で進む影は、目的地である大聖堂にある聖女の間を目指した。
本来であれば女人以外入ることを許されない神聖な場所である。
一度だけ例外として、光の勇者であるコウガがケガの治療のために滞在したことはあるが、それ以外で男性が入るのは本当に初めての事のはずだった。
月も隠れる闇の中、男子禁制の神聖な場所に男が入り込んでいるなど誰が思おうか、ましてやテリーほどの達人が気付くことしかできない三人組を、訓練もされていない女官では気付くことができるはずもない。
「ここが聖女の部屋だ」
「ホンマに入るん?」
火鉢が扉の前に立ち、風香が扉を開けようとする火鉢に問いかける。
「ここまで来たのだ。後は旦那様が探している答えを知りたいじゃないか」
「ヒ~ちゃんは強い奴と闘いたいだけやろ。もう」
実際、火鉢は楽しみにしていた。
大魔王である砂丘が倒しても倒しても復活してくる敵とはどんな相手なのか、聖女がそんな化け物なのか楽しみだった。
「まぁいいじゃないか。答えはこの先にある」
二人は会話を止めて扉に手をかける。
本来であれば眠りにつき静けさだけが満たしているはずの部屋は、ベッドの軋む音で満たされていた。
扉を開けるまでは気付かなかったわずかな音は、扉を開けてみればその音しか聞こえてこない。
「誰じゃ!わらわの邪魔をするのは」
妖艶・美女・聖女いったい今の彼女に似合う言葉はなんだろうか、裸になり全身を汗が伝う。
顔には張り付いた髪の毛が長い時間をかけて、行為に及んでいることを伝えてくる。
侵入者の存在に気付きながらも、腰の動きを止めない女性のことをなんと呼べばいいだろう。
「おい、変態。聞きたいことがある」
暗闇から姿を見せずに砂丘が声をかける。
「ほう~わらわを変態と呼ぶか!いいぞ、いい!!!もっと罵るがいい。わらわの快感が増すばかりじゃ」
狂ったように腰を振り続ける聖女に砂丘は嫌悪感しか浮かばなかった。
そしてベッドの上で、声も上げずに只々女に腰を振られている相手にも嫌悪した。
それと同時に疑問に思った。
どうして相手は何も反応しないのか。
「ちっ!本物の変態だな。そんなことよりも聞きたいことがある。魔王ベルザルードの種をどこにやった」
砂丘の言葉に先ほどから振り続けていた腰を停止させる。
「どこでその言葉を知った?」
「我は監視者、大魔王サキュウだ」
「なるほど、お主がサキュウか、悲しき元勇者殿か。ふふふはっはははは、まぁ悲しき勇者はここにもおるがな」
裸のまま聖女は立ち上がる。
そして、ベッドの上に寝かされているコウガに月明かりが差し込む。
コウガの体はやせ細り、目は虚ろで何も捉えていない。
口からは涎を垂れ流し、生きているのが不思議なほど人としての尊厳を失っていた。
「残念ね。ここにあるのは魔王ベルザルードの種ではないわ。ここにあるのは、かつて世界を救った英雄アポロン、いえ、光の勇者、エレオノール・シルビアの魂だけよ」
「エレオノールの魂だと?」
「そう、私は英雄と一つになる。私は光の勇者の器を手に入れた。そして光の勇者の器を使い、英雄の魂を召喚して宿す事にも成功した。後はその力を私が手に入れるだけ、私は聖女であり英雄になるのよ」
聖女と呼ばれた女は狂っていた。
狂って狂って、自身を美化しすぎたのだ。
「無駄足だったか」
聖女の凶行は世界にしてみれば、異形な出来事だった。
しかし砂丘にとってはどうでもいいことなのだ。
「この男の最後はみじめだな」
「ええ、なんだか粋がっていたけどこんなもんやねんね」
火鉢と風香はコウガが同じときに召喚された者だと気付いた。
それこそ二人には関係ないことなので、どうでもいいことだった。
聖女の狂人っぷりを目の当たりすることになったが、砂丘は目的が空振りしたことを不思議に思った。
確かに感じていたのだ。
自分は魔王の存在を、なのに魔王の種ではなかった。
しかし、砂丘は見誤っていたのだ。
魔王もまた考える、何度も倒され封印され時を無為に過ごした。
そうすることで、魔王は一つの結論に至った。
自信を精霊として、誰かに寄生させ内部から乗っ取ればいいのだと・・・・
砂丘が空振りを理解し、疑問を募らせていると世界が揺れる。
世界を揺るがす地震が起きたのだ。
そして、南の方角に黒い光の柱が立ち上がった・・・
いつも読んで頂きありがとうございます。




