閑話 その他の勇者達 44
砂丘 修二は黒いコートに白いマフラーを着けて、セントセルス神興国の街で買い物を楽しんでいた。
大魔王と呼ばれているが、砂丘の見た目は普通の人間と変わりないのだ。
たまにこうして街に出て買い物をすることもある。
しかし、今回は目的をもってセントセルスにきている。
「旦那様、今日は何を作ってくれるのだ」
買い物を一人で行こうとしたところ、どうしても付いて行くと言うので神代 火鉢を共に連れてきている。
火鉢は砂丘とお揃いの黒いコートに身を包み、頭から白いスカーフを巻いている。
セントセルス国内では女性は頭からスカーフを巻くのが常識なので、辺りには火鉢と同じような格好の女性をよく見かける。
昔話をしてから火鉢は砂丘にベッタリになった。
砂丘も美人な火鉢に甘えられて悪い気はしない。
風香が膨れて拗ねている姿も面白かったりする。
その後ろでアンジェリカが火鉢を睨む時があるのは見なかったことにしておこう。
「今日はセントセルスでしか手に入らない香辛料が手に入ったからな、カレーを作ってやろう」
「ほう~カレーとは珍しいものだな。異世界に来てからは食べたことがない」
「まぁ香辛料が珍しいからな。セントセルスも元は勇者が作った国だからな、こういう食事に関することに力を入れているのはありがたいことだ」
砂丘は今晩の献立について考えを巡らせながら笑みを作る。
「本当に旦那様は料理が好きだな。」
「そうだな、食べるのは生きている楽しみだな。何より作っている時が楽しい。それに今は作った料理を食べてくれるお前達がいるからな。食べてくれて感想もくれるんだ、楽しいさ」
「ふふふ、私も戦うのは好きだ。倒せない相手を倒したときの喜びは何とも言えない、それと同じだな」
「まぁそうかな?お前は本当に戦うことが好きだな」
「ああ、好きだ。でも戦っても勝てない旦那様はもっと好きだ」
「ありがとよ。まぁ物騒なことに変わりないけどな」
「そんなことはないぞ。私は狂犬のように誰にでも襲いかかったりはしない」
「はいはい、そうだな」
砂丘は火鉢とイチャつきながら、ある人物の監視をしていた。
その人物は砂丘がセントセルスについたとき、精霊付きだと気付いたので尾行することにしたのだが、監視する間に相手の素性もわかってきた。
砂丘が尾行している相手、現聖騎士団最高戦力・聖騎士団筆頭騎士・聖騎士テリー・ハンソンその人である。
彼は休暇の最中らしく、街内を普通に歩いている。
「オバサン、今日は果物はあるかい?」
「これはこれはテリー様、うちには良い物が揃っていますよ」
「じゃこの洋ナシをもらおうかな、この辺では珍しいからね」
「そうですね。南の島国から取り寄せた物ですが、最近はあちらも内戦状態でなかなか手に入らないんですよ」
「そうなんですか」
聖騎士テリーが洋ナシを買っていく姿を見つめる。
砂丘はテリーが聖騎士筆頭騎士だと知っていたわけではないが、セントセルス神興国のことを知るのに妥当な人物だと調べていく内に思えてきた。
「なぁ旦那様、今度はどこにいくのだ」
「普通に買い物を楽しむさ、風香やアンさんにもお見上げを買わないとな」
「む~まぁ風香も旦那様の妻なのだ、仕方ないな」
少し火鉢がむくれたが、自己完結して笑い出した。
「まぁ今日はもうそろそろ切り上げだけどな」
去って行くテリーを追いかけようとはしなかった。
相手が有名人なため、どこにいるのかすぐに分かるのだ。
拠点として、用意している家とカレーの材料を持って帰路につく。
「ただいま~」
砂丘と火鉢が家の中に入るとすぐにアンジェが迎えに出て来てくれる。
「おかえりなさいませ」
メイド服に身を包んだアンジェはきびきびと二人を迎え入れ、特に砂丘を丁寧に世話していく。
「何か成果はありましたか」
「ああ、今晩もう一度出掛けて来るよ」
砂丘はアンジェに優しく笑いかけ共に台所に移動する。
ご飯の用意に取り掛かる。
カレーをじっくりと煮込みながら、夜が更けていくのを鼻歌まじりに待った。
辺りは漆黒の闇が覆い尽くす真夜中、セントセルス神聖国の夜は早く訪れる。
街全体が夕暮れと共に静かになり、街灯など置いていないので月明かりだけが闇夜を照らしている。
「そろそろいくか」
「準備万端やで」
「こっちもOKだ」
火鉢と風香が砂丘に返事をする。
二人はそれぞれ、赤いレオタードスーツと緑のレオタードスーツを着込んで準備万端だと意気込んでいる。
泥棒に入るならこれだろと砂丘が用意した物だ。
二人のプロポーションをくっきり浮き出している姿はかなりエロい。
特に爆乳の持ち主である風香の体は見ているだけで凶器だと言えるだろう。
砂丘も先ほどから風香をチラチラと見てしまう。
火鉢は出るところはでて、引き締まるところは引き締まっているのだが、風香の胸元には砂丘も釘付けになってしまう。
「触ってもええよ」
砂丘の視線に気づいている風香はポーズを決めて、砂丘を誘惑してくる。
「今は目で堪能させてもらうことにするよ。そろそろ行こう」
砂丘は照れ隠しに顔を逸らし出発を告げる。
今回の目的地はテリー・ハンソン邸への訪問だった。
昼間に尋ねてもいいが、できれば誰にも見られたくないと思ったのでこんな真夜中を選択した。
三人にかかれば真夜中であろうと、昼間とたいした違いはないので何の問題もない。
テリーが眠る寝室の扉を開けると、そこには剣を持ったテリーが待ち構えていた。
「何者だ?」
流石は筆頭騎士、真夜中に侵入した二人の人物の気配に気づいて待ち構えていたのだ。
「ばれてもうたか」
風香が気の抜ける調子で、言葉を漏らすがテリーの警戒は解けない。
目の前の女性二人の気配しかないのだ、しかし自分のカンが警報をなり続けている。
「今晩は」
それはいつ現れたのかテリーにはわからない。
闇の中で突然、喉元にナイフを突きつけられているような感じを受けた。
部屋の中に響いた声はテリーを圧倒するには十分な殺気が込められていた。
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