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閑話 その他の勇者達 43

今日から三話閑話を挟みます

 戦場は最終局面に入ろうとしていた。

劣勢に思えるルールイス王国だが、未だに多人数を残しており余力を残している。

 カブラギ皇国に至っては善戦している割に、兵達の疲労は蓄積されすでに限界を迎えつつあった。

 

「そうか、ケルベロスもベヒモスもサリエルも負けたか」


 バッポスの下に報告に来た兵士は怒鳴られると思っていた。

兵士の想いとは逆に、バッポスは静かな物言いで戦場を見つめ続けた。

兵士は戦場を見つめるバッポスから不気味さを感じた。


「下がってよいぞ」


「はっ」


 バッポスは戦場を見つめる。

昼夜問わず行われていた敵からの攻撃は行われなくなっている。

 中央に展開されていた幻惑は未だに存在しているが、複雑さは無くなり突破できる兵士も現れてきている。

 

「あとはあの馬鹿デカい蛇を倒せばチェックメイトだ」


 バッポスは砂嵐が吹き荒れる先に見える巨大な怪物、オロチを見つめていた。

 強襲部隊・重装騎馬隊・魔法剣士隊はバッポスにとって虎の子だった。

しかし、それも敵を弱らせるための駒に過ぎない。


「終わらせよう」


 ルールイス王国から更なる増援が届いたのだ。

バッポスは最終決戦へ向けて最後の命令を発動する。


「全軍突撃!!!」


ーーーーーーーーーーー


 白雪は何日寝ていないのかわからないほど、疲労が蓄積し意識は朦朧としていた。

 それでもこの戦争を仕掛けた者として、最後まで戦いを見守らなければならない。

 そしてその先にいるあの人に会わなければならない。


「敵が増えましたね」


 オロチが白雪に話しかけるが白雪から返事はない。

増援され全軍で突撃してくる敵の軍勢を見つめる白雪も戦いの終わりが近いことを悟っていた。


 敵の勢いは凄まじく、玄夢の足止めでは止めきれない数になっている。

絶貴もこちらに向かっているようが、敵の勢いに塞き止められこちらに来れずにいる。

 オロチの周りに敵が近づきつつあった。


「マスター、戦闘に入ります」


 遠距離攻撃に徹していたオロチも近距離攻撃に切り替えて体を回転させる。

七つの頭が魔法を放ち、尻尾によって打撃を与える。

 白雪にも戦闘の振動が伝わってくるが、白雪は微動だにしない。


 互いの戦力が総力をあげてぶつかり合う。


 鬼人達がシノビの力を使い天変地異を起こせば、ルールイス人達が魔法と数の力で押し返す。

 しかし、明確な差が出来始めていた。

 

 数はそれ即ち暴力である!


 鬼人達の技は凄かった。

善戦を続け、敵を圧倒し続けていた。

 量より質、その言葉を体現していたことだろう。

ルールイス王国にとっても、ここまでの損害を被るとは考えもしなかった。


 それでも決着がつきつつある。


 鬼人がまた一人倒れ、どんどんその数を減らしていく。

今や立っているのは数えるほどになり、その中にいる絶貴も最強足らんとした力を見せつつも傷付き血を流していた。


「もう、終わらせなければなりません」


 白雪もわかっている。

この戦いは自分が終わらせなければならない。

 彼の弔いで始めた戦い。

それを自分の都合で始めて、鬼人達を犠牲にしたのだ。


 白雪は初めから考えていたことがある。

本当はルールイス本国まで攻め入り、城にたどり着いてから行おうと思っていた。

 自身の全魔力を使って国一つを凍らせる。

 彼と自分を引き裂いた最悪の異世界、彼を奪った人々、そして自分達を召喚した者達への復讐を果たす予定だった。


「皆・・・ありがとう」


 戦いの初めから沈黙を貫いていた白雪が魔力を解放する。

ずっと溜め続けていた魔力は青い雪となって降り始める。


「うん?なんだ?」


 一人の兵士が青い雪に触れる。

触れた瞬間、兵士の体は凍り始め、全身を凍りつかせる。


「うっうわ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」


 凍った兵士を近くで見ていた者達が悲鳴を上げ始めるが時はすで遅し、次々と凍り始める兵士達、それはルールイス側だけにとどまらず、倒れた鬼人の体にも降り注ぎ凍りつかせていく。


「白雪殿、早まってはいけない」


 絶貴は白雪が起こした魔法を見て、驚愕した。

それと同時にこれほどの大規模な魔法がいくら勇者の力だと言っても白雪の命を削ることになると気づいていた。

 混乱する兵士達をかき分けて、絶貴が白雪に近づこうと走り出す。

絶貴よりも早くオロチを駆け上がる人影があった。


「あれは」


 絶貴が気付いた時には遅かった。


「終わりだ」


 白雪は祈るようなポーズでオロチの上にいたのだが、その胸をレイピアが貫いた。

 バッポスが戦場を駆け抜け、兵士達の間を縫い、白雪を討つためにやってきていたのだ。


「私はまだ・・・」


 白雪が発動した魔法は未だ降り続いているが、白雪は意識を失いオロチから落下していった。

 それを見下ろすバッポス。

白雪が落ちていく様をオロチはすでに力尽き意識を失っていたため守ることができなかった。


 白雪は戦争を始めた報いを受けたのだ。

これでやっと彼の下に行けると目を閉じた。


 あとは地面に叩きつけられ、自分は惨めな屍を晒すはずだった・・・


 温かい腕に抱きとめられるまでは・・・


「やっと会えたな雫」


 それはずっと会いたかった人、そして失ってしまったと思った人の腕の中だった。


「護~会いたかったよ~」


 涙が止まらない。

やっと会えたのにさよならなんて、彼の腕の中に抱かれているのに自分の胸には大きな穴が開いてしまっている。


「俺に任せろ」


 護と呼ばれた少年は、自身の魔力を彼女へと注ぎ込む。

どうしてそんなことができるのか、どうしてそれをしようと思ったのか、少年にはわからない。

 それでもそれをしなくてはいけないのだと確信を持っていた。

そして、彼女に開いた胸の傷は見る見る内にふさがっていく。


「もう安心だな」


 少年は優しく白雪をオロチにもたれさせるように寝かせて、ずっと二人を見下ろしていた人物に視線を向ける。

 視線を向けられた相手は、驚愕の表情で固まっていた。

バッポスの頭の中では混乱が起きていた。

 死んだはずの土の勇者が現れ、殺したはずの水の勇者を救ったのだ。

有り得ないことが目の前で繰り広げられていた。


「あんたを殺すよ。爺さん」


 土の勇者は一切の躊躇もなく、殺気を撒き散らした。

バッポスに向けて放たれた殺気は、その戦場にいるすべての者の動きを止めさせた。

 そして向けれた張本人であるバッポスは言葉を失い硬直した。

殺気だけで彼は自分が死ぬ光景を15回も想像したのだ。

 彼が16回目の死に直面した時には、首と胴は本当に切り離されていた。


 ルールイス王国総大将バッポスが死んだのだ・・・ 



いつも読んで頂きありがとうございます。

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