大悪党になります12
アクの予想は的中することになった。
相手は1万の軍勢を闇に紛れ込ませて夜襲をかけてきた。
しかし、獣人に軍配が上がることになる。
夜目が利き、最初から警戒をしていれば夜襲するだけ間抜けだと言えるだろう。
やってきた襲撃者達は、アク達軍団を只の人々だと判断していた。
さらにハッサン達を打ち負かしたことで勢いもあった。
二日間姿を見せなかったのは、ハッサン達を打ち負かした兵をアク達にぶつけるために呼び戻していたためだ。
「夜襲だ!敵が現われたぞ」
アク達は二つの罠を仕掛けておいた。
一つは身を隠した獣人達の存在だ。
彼等は身を隠して、敵が自陣に入り込むのを待っていた。
入り込む数がどれくらいなのか隠れた兵はいないかなど、情報を掴む役目と敵が逃げ出したときや交戦に入ったときの隠し玉に使うつもりで伏せていた。
彼らを指揮しているのは赤猿族 族長ケルイだ。
ケルイは隠密行動にも慣れており、身軽な体を駆使して木の上から攻撃を行なうことができる。
もう一つの罠は、兵士に交代制で休みを取らせていたことだ。
そのため常に武装を解除することなく、戦える兵士を用意できたことが相手を迎え撃つのに迅速な対応が取れた。
天幕を襲い兵糧に火を放つのがセオリーである夜襲を想定していたため、天幕は少なくし民家を利用して兵士達を休ませた。
敵には油断している素振りを見せるため軽く酒を飲むことも兵士達に許した。
アクの策がハマり、天幕を襲おうとした兵士は武装した亜人達に返り討ちに遭い、兵糧を狙った兵士はアクや龍人族達に悉く消されるか倒されていく。
それに気づいて逃げた者はケルイ率いる獣人族によって奇襲を食らい倒されていった。
こちらにも多少の被害が出たが、死人は出なかった。
「圧勝ですなマスター」
白扇が「がはははは」と高笑いをしながらアクの天幕に入ってきた。
ケルイは偵察にいってくれているので、報告に来るのはもう少しかかる。
「ああ、これで夜襲はなくなるだろう。何より前回はあまり相手に被害を出すことはできなかったが、今回はかなりの痛手を負わせることができた。かなりいい収穫を得られたな」
「うむ、次はどんな策を採ってくるやら、卑劣な奴らを返り討ちにしてやりましょうぞ」
「いや、次は俺達が攻める番だ。城が見えてきたしな」
アクは城のある方角を見つめて、早期の決着を望んでいた。
卑劣極まりないへーゲル王を早く殺したい衝動を抑えるのが必死であった。
ーーーーー
へーゲル王の下に二つの報告が届いていた。
先に届いた報告では敵に夜襲をかけて成功し、攻めて来ていたバンガロウ軍の半分を撃退して退却まで追いこんだというものだった。
ただ、その三日後に届いた報告は正反対の報告だった。
もう一つの部隊に夜襲をかけたが返り討ちに遭い、ほとんど全滅に追い込まれたというものだった。
夜襲を仕掛けるために訓練された兵士を使ってしまったのが痛い。
民などいくらでも犠牲にしてもかまわないとへーゲル王は思っているが、兵士を育てるのには苦労がいる。
「この無能が!どうして夜襲をして返り討ちに遭う奴がいる!相手は寄せ集め集団であろう。我が兵が負けることなど有り得ぬ」
「申し訳ありません」
報告に来た兵士は怯えきり、ただただ平伏することしかできなかった。
「もうよい、夜襲が警戒されているのであれば次の作戦をとる。何より敵も傍まできていよう。ならば手段など選んでおれんわ。例の物を用意しろ」
へーゲル王がそう告げるが、兵士達は動こうとしない。
「どうした、早く用意に行かぬか」
「ですが、あれは最後手段だと」
「そうだ、無能なお前達が失敗するから幼子を犠牲にしなくてはいけなくなってしまった」
「どうか我々にもう一度チャンスを頂けないでしょうか」
「ならん。すでに我が城を護る兵が少なくなっておる。兵士をこれ以上使うことはできん」
「そ、そんな」
「なんだお前は王の命令が聞けぬのか?」
「ぐっ、いえわかりました。用意したします」
「わかればよい、下がれ」
立ち上がった兵士達は今にも血の涙を流しそうなほど悔しそうに眼を充血させていた。
「口ばかりで役に立たぬ者達共だ」
「まったくですな。子供などまた産めば良いものを」
エーゲル王の発言に宰相が同意を示す。
エーゲル王が命令した作戦はあまりにも残酷な作戦だった。
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