大悪党になります10
本当に久しぶりになってしまいすいません。
ハッサン率いるバンガロウ・シーサイド連合は上陸後、敵との交戦らしい交戦をせぬままへーゲル城に到着しようとしていた。
「上手く行き過ぎじゃないかここまで」
目の前に見えるへーゲル城を見て、ハッサンの隣で馬に跨るダンに話しかけた。
「はい。正直拍子抜けですね。連合一の大国がこんなにもあっさりとしていていいのでしょうか」
「うむ。アク達とはまだ連絡が取れないのか」
「はい。向こうにいくつか伝令は出しているのですが、誰も帰ってきておりません」
「はぁ~不可解なことが多すぎるな」
「どうされますか。明日には、へーゲル城に攻撃を仕掛けることができると思いますが」
「今は時間がほしい。物見を向かわせて、帰って来ないなら城攻めを開始するしかないな」
「ならば進軍でよろしいのですね」
「おう」
明け方と共に進軍を開始することになったハッサン・シーサイド連合は天幕を敷いて夜明けを待った。
だが彼らが朝を迎える前に大量の集団により夜襲を受けることとなった。
「戦況はどうなっている。ダン」
黒い大剣を手にしたハッサンが、なんとかダンと合流を果たし状況を聞く。
「申し訳ありません。突然のことゆえ敵の数すらわかりません。しかし食料庫及び持参のテントに火がついてしまい、ほとんどどこも火の海です」
「くそっ、どうなっているんだ」
「とにかく今は逃げることが先決だと判断します。相手の追撃も考えて半分で逃走し、もう半分はここで指揮を執るしかありません」
「誰が殿の指揮を執るというのだ」
「そんなもの決まっています。あなたは総大将です、逃げねばなりません。シーサイドの兵と合流し逃げて下さい。ここは私が受け持ちます」
「ダン、お前何を言っているんだ。お前が居なくなっては、軍の作戦は誰が考える。残るのならば俺が残る」
「ふざけないでください。今はあなたの冗談に付き合っている余裕はないのですよ。総大将のあなたが討たれては我々の負けです」
ダンのあまりの剣幕にハッサンは押し黙る。
「近衛隊、何としてもハッサン様をお守りしろ」
ハッサンとダンが直々に鍛えた秘蔵の集団に声をかける。
彼等は常にハッサンのテント近くにいるため集まるのも早い。
「ダン様」
一人の兵士が前に出る。
彼はエイリルと言い、近衛隊隊長をまかせている。
「エイリル、これからはお前がハッサン様をお助けするのだ」
「はっ。」
ハッサンはダンの決意を理解してやっと重い腰を上げた。
「すまない」
「何を仰られますか、ここまで私は幸せでしたよ。あなたの戦友として友として」
ダンはその言葉を最後にハッサンから視線を外して、兵士達に声を張り上げる。
「参謀長ダンが命じる。敵の足を何としても止めるのだ。我々はこんなところで負けるわけにはいかない」
ダンは大声で叫び続けた。
暗闇の中、そしてテントに火が付き炎の中叫び続けた。
叫び続けているのだ、敵が意識を向けないわけはなく、むしろダンは囮になるように叫び続けたのだ。
ハッサンを逃がすために、陽動になり得ると知ってダンが行った最後の行動だった。
ダンは何本の槍や矢を受けても倒れはしなかった。
木にもたれ掛り、それでも声だけは張り上げ続けた。
「参謀長ダンはここにいるぞ。皆の者、一人でも多くの敵を道連れにするのだ」
参謀長ダンの奮闘により、完全に奇襲を受けた夜襲にもかかわらず。
死者数300人重傷者数200人軽傷者数500人と被害は最小に抑えられた。
5000という数の中でこの数は奇跡的な人数だったことだろう。
それほど敵の夜襲は完璧であり、ハッサン達は全滅してもおかしくなかった。
ハッサンはシーサイド王と合流を果たし、港街まで後退を余儀なくされることとなった。
それも逃走途中も敵の執拗な追撃を受け続け、兵達の疲労が限界に達そうとしていたからである。
「どうするのだハッサンよ。このまま退却するのか」
ハッサンとシーサイド王、さらにそれぞれの側近が座っている二人の後ろに立っている。
「港まで戻ります。食料はアクの言う通り多めに持ってきています。港まで戻れば食糧難は改善します」
「そうか、まずは無事に港にたどり着かねばならぬな」
この後、ハッサンとシーサイド王の逃走劇は熾烈を極め、港町に着いた頃には5000人の半数まで減っていた。
そして戦える兵となれば1000にも満たない者だけとなっていた。
「ハッサン、これではもう」
ハッサンの横でシーサイド王は項垂れ疲れ切っていた。
ハッサンは兵達を見渡し退却を決断する。
「皆の者聞け!!!今回我は退却を決断した。ここまでよくぞ戦ってくれた。すまない。我らの負けだ」
ハッサンの言葉を聞いて疲れ切った兵達はさらに肩を落とし、それでも故郷に帰ることを夢見て船へと乗り込んだ。
ハッサンはへーゲル島より離れながら、ダンとアクのことを考えた。
ダンの最期を思い浮かべ悔しさが込み上げてくる。
そしてアク達とは未だに連絡が取れていない。
だが負傷した兵士達を抱えたハッサンに、アクの下へ訪れる余裕はなかった。
こうしてアク達は挟撃作戦の中、少数で孤立させられることとなった・・・
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