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大悪党になります8

 アクの魔力残量は幾度の戦いを経て、無限近くまで高くなっている。

 そのため防御に徹していても魔力が尽きることはないのだが、広範囲で防御壁を作っていることで、攻撃に転じることができないでいた。

 さらに他の者にこの矢の雨の中を突き抜けて行けというのは、確実に最初に出た者に死ねと言っているようなものだ。

 アクは、誰にも死んでほしくはない。

そのため突撃の指示が出せないでいた。


「マスターよ。ここは誰かが向こうに攻め込まなければ埒があかんぞ」


 上陸からすでに三日が経過しており、アクの後ろで控えていて無傷とはいえ、獣人軍の兵士もアクの背中に戦いを望む者が増えてきていた。


「わかっている。しかし、この絶え間ない矢の中を進める者がいるはずないだろう」


「くっ、幾人かの犠牲を覚悟するしかあるまい。我が先頭に立とう」


 白扇もアクの考えが分かっているので、自らを犠牲にすることで状況を打開しようと考えた。


「ダメだ。白扇にこの矢を避ける力はない」


「ではマスター、どうするのだ」


「今考えているから・・・」


 アクが白扇に答えて戦場に視線を戻せば、眩い閃光が戦場を駆け巡っていた。

 人の壁を飛び越え、二色の閃光は矢を打ち出す兵士をなぎ倒していく。


「どうなっているんだ」


「わからぬ。だが我はあれを知っておる」


「知っている?あれはなんだ白扇」


「あれは獣王、銀狼族の光」


「銀狼族・・・ルーか!!!」


 アクは驚き、もう一度戦場に目を向ける。

銀色の輝きに目を凝らしてみれば、確かにそこにはいつも見つめてきた少女の銀の髪が揺れている。

 銀の閃光に続く、黒の閃光に目を向ければそこにはアンリの姿も見てとれた。

 二人にこんな能力があると知らなかった。

二人の活躍により戦場に一筋の光が射し込んだ。


「白扇、好機だ。突撃をかけるぞ」


「御意。突撃の準備だ皆の者ぉぉ!準備を致せ!」


 白扇の号令により、進軍が開始される。

アクも弱まった矢の雨に対して防護壁を張りながら前進を開始した。

 二色の閃光が戦場を一変させ、アクの魔法で人の壁をブラックホールに吸収する。

 さらに白扇達アース軍団が兵士に襲い掛かることで戦いは、三日目の夜にしてアク軍勝利にて終えることができた。


 敵の大部分は撤退したため、大きな被害を与えることはできなかったが、苦戦を強いられていた状況からの逆転だったためアクの心にも安堵の気持ちが生まれていた。

 さらに、同じ状況で戦っているであろうリバーサイド側に向けて、背部からの挟撃を仕掛けることになったが、その必要はなくなっていた。

 敵部隊が撤退したことで、リバーサイド側に攻撃を仕掛けていた者達が、挟撃を恐れて早々と撤退していたのだ。


 戦いを終えて改めて、港を拠点として活用することにした。

 矢の雨のせいで家屋は使い物にならないところも多くあったが、元々持参している天幕で応急処置をすれば使える家屋もいくつかあったので、怪我人には家屋を提供した。

 それ以外の者は天幕で寝泊りするように指示を出した。


「マスター」


 アクが指示を出し終えて、白扇との打ち合わせを終えたのを見計らって、ルーがアクの天幕に現れた。

伴としてアンリを連れている。


「ルーか、今日は助かった。ルーにあんな力があるとは知らなかったな」


「私も・・・知らなかった」


「どういうことだ?」


 アクはルーの答えに不思議に思い聞き返す。


「マスターアク、私から説明します」


 アンリがルーの代わりに一歩前に出る。

いつもの人を食ったような態度ではなく、真剣な表情にアクの方が緊張の面持ちになる。


「アンリ、どうしたんだ」


「いつもの私は仮の姿だとお考えください。本来の私は、ルー様の影を務める黒豹族最後の生き残りです」


「ルーの影。獣王の影ってことか」


 アクも獣人達の態度と白扇の言葉でルーの素性に気付いていた。

 だが、自分から言うまでは聴かないでおこうと決めていた。


「知っていらっしゃとたのですね。ならば話は早い。銀狼族がどうして獣王の一族と呼ばれているか、それは獣人として特別な能力を持っていたからに他なりません」


「特別な能力?」


「はい。人間が使う魔法や龍族が使う自然の力ではなく。獣人だけが使える人体強化方法、光鎧(コウガイ)といいます」


「光鎧、なるほどな。光の鎧か」


「はい」


 アンリは能力の説明を終えるとルーの後ろに下がる。


「マスター・・・」


 ルーが不安そうにアクの名前を呼ぶ。


「ルー、改めて礼を言う。力を隠さず使ってくれたことで、多くの兵を救うことができた」


「ううん。私はただ、マスターを救いたかっただけ」


「そうか。それでも助かった。だが、今度は力を使うときは相談してくれないか」


 ルーがアクの言葉に首を縦に振ろうとすると


「なぜですか」


 アンリが反応を返す。


「多分、獣王達が昔の人族に負けたのは、獣人達が獣王に頼り過ぎていたからじゃないかな。今は肩を並べて戦える奴らがいるんだ。ルーの力は確かに大きい、だが力を使うなら相談してほしい。俺ならばルーの力をもっと活かしてやれる。ルーに力を貸してほしい」


 アクはルーに向けて頭を下げる。

アクの言葉を聞いて、アンリは納得して後ろに下がり、ルーは自分がアクに必要にされていると感じた。

 そしてルーが一歩アクに近づく。


「マスター。私を使ってください。あなたのために戦いたい」


 胸の前で手を組み銀色の長い髪を輝かせて、ルーがアクの目を見上げる。


「ありがとう・・・」


 ルーのしぐさにドキリとさせられながら、アクが礼を述べる。

 空気を読んで、アンリはひっそりと天幕を後にする。

 アンリの行動にルーは気付いており、アンリの気配が消えるとルーはアクの胸に飛びこんだ。


「いいのか」


 アクは優しくルーを抱きしめて、耳元に囁く。

ルーは何も答えずに胸の中で首を縦に振る。


 アクはルーの肩を抱き、天幕の奥にあるベッドへと誘った・・・


いつも読んで頂きありがとうございます。

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