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大悪党になります6

アクが目覚めると横に裸のヨナがいた。

アクのローブを抱きしめて、寝ているので毛布を掛けてやる。

優しい眼差しで、アクがヨナの頭を撫でてから起き上がる。

外の空気を吸うために天幕から外に出る。


戦いが始まる・・・


人同士が、土地を価値を思想をぶつけ合う戦いが始まろうとしている。

アクは気付いていない。

自分が異世界に召喚された時に感じた喜びを忘れかけていることに、自分が覇道を歩もうとしていることに、気付いているのかもしれないが、すでに彼の思考は異世界に取り込まれていた。


「マスター」


アクが天幕の外に軍から離れた場所に出て朝の風に当たっていると、背中越しにルーがアクの名前を呼んだ。

初めて会った時よりも心も体も成長した少女は、紛れも無く獣王の遺伝子を受け継いでいることがわかる銀髪を腰まで伸ばしていた。

少女が女性に変わろうとしているほんの一瞬の間、銀色の髪は朝日に照らされて輝きを放っている。


「どうした」


「ヨナのこと抱いたの?」


「いや、抱いてはいない。だがこれからの自分の保証はできないと答えたよ」


「そう。もし、私がヨナと同じことをしたらどうする?」


「ルーが・・・」


アクが少し驚いた顔でルーを見る。

ルーの表情は切なく、涙を溜めて何かを耐えるような顔をしている。

アクは彼女の真剣な表情を初めて見るのかもしれない。

出会ってからの彼女は飄々としていたり、やる気のない印象ばかりだった。

いつも他の者と距離をとり、アクにも一定以上は心を開こうとはしなかった。

だが、彼女は一歩を踏み出そうとしている。

アクはしばしの沈黙の後、言葉を探す。


「もしルーが俺に好意を抱いていてくれるならば嬉しいと思う」


アクは言葉を考えた上で、素直に伝えることにした。


「それは私が望めば受け入れてくれるってこと?」


ルーは縋りつくような目でアクを見る。


「ああ。俺はルーを受け入れるよ」


アクは即答でルーに言葉を返す。

ルーはアクの言葉を聞いて、涙を流す。

ルーは成長するにつれて、不安を抱えていた。

自分の居場所がどんどんなくなっていくような、ここにいていいのかわからないと・・・

必要とされているそれだけでルーは一つの居場所を得られたような気がした。

そんなルーをアクはゆっくりと近づいて優しく抱きしめる。


「お前も俺の大切な人だよ」


アクはルーが泣き止むまで抱きしめ続けた。


ーーーーーーーーーー


ハッサンはシーサイドを訪れた。

ダンが考えた作戦は至極単純なものだった。

シーサイドの軍勢とバンガロウの合同軍が本隊を務め、大将はハッサン、副将はシーサイド王、軍師はダンが務める。

別働隊としてドイル、アク、リバーサイド王が各別働隊の指揮を執る。


「本当にこれでよかったのでしょうか」


ダンの作戦は本隊が正面から乗り込み、別働隊に包囲するように侵入してもらい、敵を各個撃破していくという基本的な策を取ることにしたのだ。

相手の方が数が多くいるため、補給を絶ち援軍が無い状態で相手を包囲するための作戦ではあるのだが、アクが指摘した、少ない数で攻撃側をするときの奇策が全く含まれていないものだった。


「相手も援軍がないとわかれば降伏するしかあるまい。俺達は間違ってはいない」


ハッサンはこれまでの経験した戦いで、アクが補給を奪ったり、相手の意表をつくような作戦を取ってきたことは知っている

だが、いつもそこにはサントンやアクなどを要所を抑える奇策が間に含まれていた。

ハッサンの中に奇策が無いわけではない。

サントンのように敵陣深く潜りこんで、敵の大将を倒してしまうとか、アクのように魔法の力で一発逆転するなど考えた。

しかし、現実感に欠けているのだ。

本当にそれを自分が実行して成功すると思えなかった。


「ハッサン将軍、島が見えてきました」


「ああ、俺達の戦いが始まるな」


「はい。でも本当に宰相殿に意見を求めなくてよかったのですか」


「意見は・・・求めた」


「えっ。宰相殿はなんと」


「ダンの作戦で構わないって言ったんだ」


「本当にそれだけですか」


「・・・いや、市民、女、子供、老人を決して傷つけないことが条件だとよ」


「市民?なんですか、民を傷つけないっていうのは当たり前のことではないんですか」


「レベルが違う」


「レベル?」


「ああ、アクの要求は戦いをしない者は等しく無傷で保護しろってことだ。略奪する兵士を完全に抑えてむしろ守れってことだ」


「そんなこと当たり前です」


ダンはアクの望んだことが、当たり前過ぎてどうしてそんなことを条件にするのかすらわからなかった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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