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大悪党になります5

 アクが天幕から出て行った。

天幕に残ったダンとハッサンは溜息をついた。


「おいおい、どうしたお前ら」


 二人の様子にドイルが質問を投げかける。


「お前は驚かないのか、アクの言った言葉を」


「まぁ俺も驚いたけど、宰相殿ならそれくらいやってのけるだろ。死神の名前は伊達じゃないってことだろ」


「やるやらないの問題か、俺達がやってるのは戦争だぞ。アクが言ったことはありえない」


 ハッサンはあくまでアクの意見を受け入れられなかった。

アクが出した作戦とは敵方にアクと白扇が二人で乗り込み、敵方の大将を説得するというものだった。

 宰相であるアクはバンガロウ王国にとって王の次に他国から狙われている人物なのだ。

 それをワザワザ敵の真っただ中に送るなどできるはずがない。


「とにかく総大将はオレだ。今回はアクの作戦に頼らずに相手を倒せばいいだけの話だ。作戦はダン、お前に頼むぞ」


 ハッサンの中でリバーサイドの悪夢が蘇る。

アクに言われて行った作戦だったのだが、本当にあれでよかったのだかずっと疑問に思っていた。

 だからこそアクの作戦を受け入れるわけにはいかなかった。

何より総司令として任命されたからには、自身の力を他の者に示したいと思っていた。


「はっ」


 ダンは頭を下げる。

しかし、ダンは頭の中でアクに指摘されたことを考える。

 考えれば考えるほど、自分の作戦に自信が持てなくなってきていた。

ダンはハッサンの副官として働くことで、兵法から軍略などを学んだ。

 しかし実戦を重ねるごとに、アクの奇抜な軍略に度肝を抜かれ、自分の未熟さを思い知らされて来ていた。

 そして直接アクと初めて軍議を共にした。

アクから受けたのは辛辣な反対意見ばかりで、ダンの思考を迷走させていた。


「大丈夫か?」


 そんなダンの肩をドイルが叩く。


「はい。すいません、今は一人にしていただけますか」


 ハッサンに断りを入れてダンが天幕を後にする。

ダンは自身の天幕に戻り、地図と睨み合いを始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


アース連合軍 本陣の天幕にて


「おお。マスター、戻られたか」


 アクが本陣の天幕に入ると白扇がアクを待っていた。


「白扇か、何か用か」


「会談の方はどうでしたか、我らの出陣はありそうですかな」


「出した案は通らなかった。もしかしたら獣人連合の出番があるかもな」


「ほう。あの作戦を断るとはよほど自身の策に自信の有る者か、保身しか考えられぬバカですかな」


「両方だろう。自信もあるが国の宰相を敵陣のど真ん中に単騎で乗り込ませる不安があるのだろう」


「くくく。マスターを普通の人間と考えている時点で間違いな考え方ですな」


「俺は普通の人間だ」


「何を仰る。我々竜人に生身で勝てる人間など存在しませぬ。あなたは間違いなく化け物ですじゃ」


「失礼だな。だが今は化け物の力がいる。だからそれでいい」


 アクは話は終わったと天幕の奥に自身のベッドを用意している部屋に入って行った。

 護衛を務めている7人の少女達にはそれぞれ役目を与えているので、傍には一人しかいない。


「隊長。おかえりなさい」


 アクのベッドで気持ちよさそうに寝ているヨナだ。

彼女はアクの傍を離れるのを拒否したため、仕方なく護衛を任せている。


「ヨナ、一緒に寝ないからな。今日は疲れたんだ、ベッドを空けてくれ」


「嫌。」


「おい。じゃ俺はどこで寝るんだ」


「ここで寝ればいい」


「だ・か・ら~俺は一人で寝たいんだわかるか」


「わからない。私と寝た方が気持ちいい。二人の方が暖かいし私柔らかいよ」


 ヨナはローブの下は肌着しかつけていない。

二年の月日は確実に少女を女性に変えている。

出会ったころよりも成長して女性らしい体が見え隠れする。

 アクはエリスに操を立てているので手は出していないが、いつ自分の気が変わるかわからないので、極力触れ合わないようにしているのだ。


「とにかく、今日はゆっくりしたいんだ。頼むよ」


 裾を上げて肌着を見せていたヨナもローブを下して立ち上がる。


「仕方ない。今日は休ませてあげる。でも次は一緒に寝ること」


「はいはい、護衛頼むな」


 行軍続きであまり休めていないアクはベットに入るなりすぐに眠りについた。

アクは護衛を務めている7人の少女と白扇が居れば大丈夫だろうと安心して眠りについた。

 夜が更けて朝を迎える少し前、アクは天幕の中に気配を感じて目を覚ました。


「誰だ」


 ここには味方しかいないとわかっていても警戒して質問を投げかける。


 バサリと服の落ちる音がした。


「隊長。私がしてあげる」


 声の調子でヨナだと判断できたアクは息を吐き、すぐに息を飲み込む。

ヨナは一糸纏わぬ姿でそこにいた。

 白い肌は女性らしい膨らみがあり、白い髪同様の白いものが股の間から見えている。

 魔族特有の赤い目が妖艶さを醸し出し、いつもの眠そうな雰囲気は無くなっていた。

 ヨナの視線はハッキリとアクを捉えている。


「どういうことだ。俺が受け入れないことはわかっているだろ」


 アクは少し冷たくヨナを突き放すように口調を荒げる。

ここで甘い顔をすれば付け込まれると判断してのことだった。


「エリスママが言ってた」


「エリスが?」


 アクはエリスの名前が出て一瞬警戒を緩める。

ヨナは何も着ないままアクに近付き、ベットの前で膝を折る。


「エリナママは言った。アクはこれから過酷な道を生きて行く。その時に誰かに甘えたい、辛いと感じたとき、あなた達の誰かがアクを癒してあげてほしい。私が本当はしたいけど、私はあの人が帰るべき家を守らなくちゃいけない。だからあなた達の誰かがあの人を支えてあげて」


 エリナなら言いそうな言葉だと、アクはヨナの言葉を疑わなかった。

自分が旅立つことを応援してくれている最愛の女性、アクはエリナの優しさと7人へ言った言葉の意味に困惑しながら思案してしまう。


「それでどうしてヨナは裸なんだ」


「私は隊長の欲望を肉体的に癒す役目」


「それはいらん」


「そんなこと言わないで。私も考えたの、どうすれば役に立つのか」


 ヨナは華奢だが、白く美しい体をアクにもたれさせる。

白く細い指がアクの股間に伸びようとして、アクに腕を掴まれる。


「ヨナ、すまない。お前の気持ちはありがたいと思う。でも今はその気になれないんだ」


 アクはハッキリとヨナを拒絶する。

それは話を聞いて、さらにヨナの気持ちを理解したうえでの言葉だった。


「今は?」


 アクの言葉にヨナが反応する。


「ああ。これからはわからない。だけど今はない」


 アクの言葉にヨナは恥ずかしくなる。

拒絶されながらも、それでも可能性があると聞いた嬉しさと、自身が裸でいることへの恥ずかしさがヨナの心を埋め尽くした。

 ヨナはアクのローブを引き寄せる。


「恥ずかしい・・・」


 大きいアクのローブで体も顔も全てを包み隠す。

アクはそんなヨナの頭を撫でてやる。


「ローブはやるから、今日は寝ろ」


 アクはベッドを少し空けてヨナを隣で寝かせる。

日が昇り始めていたが、もう少しだけ寝る時間はある。

 ヨナは嬉しそうにアクの黒いローブを纏い、アクの匂いに包まれて眠りについた。



いつも読んで頂きありがとうございます。

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