商人になります1
第二章 スタートです。
暇つぶしになればと思います。
阿久井 重ことアクが作戦を話すと、三人は唖然とした顔をしていた。
「お前本当に記憶喪失か?記憶を失う前は軍師かなんかだったのか」
ゲオルグは本当にたまげたという感じで驚いた顔をする。
「これぐらいなら少し考えれば誰でも思いつきますよ」
ゲオルグの素直な感想に、アクは照れながら謙遜する。
「そんなことねぇよ。俺なら絶対思いつかない自信があるぜ」
サントンが自信満々に親指を立ててガッツポーズを決める。
「お前は……そんなことに自信を持つなよ」
アクは呆れてしまうが、サントンがいるだけで真剣な雰囲気が台無しだった。
「確かに成功すればこちらに被害はない。しかし、本当にできるか?」
「任せてもらえれば」
ダントの質問に、アクは自信満々な顔を作る。下っ端が作戦を話すのだ。自信が無いとは言えない。
「ゲオルグ、どうする?」
ダントは、最終的に決定するのはゲオルグだと意見を求めた。
「俺は面白いからいいと思うぜ」
ゲオルグの一言で、アクの作戦が実行されることが決まった。
「アク、お前の好きにしろ。時間はどれくらいかかるんだ」
「一週間いただけますか」
「わかった。それまでに必要なことはあるか」
「人を借りたいです」
「わかった。ハッサンと、サントンと、それにグラウスを付けよう」
「俺もか。よろしくな」
その日の襲撃は中止となり、ゲオルグとダントの許可を取って、アクは次の日の朝から作戦に取りかかることになった。
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朝を迎えてアクは、サントンを起こして、ハッサンとグラウスを呼んでもらった。ハッサンはゲオルグの息子で、筋骨隆々な肉体に、身長も190cmは超える大男だった。但し、腕っぷしはあるがサントンと同じであまり頭は良くないようだ。
グラウスはダントの息子で、細見だが身長は180cmとこちらも高身長だった。ハッサンと対照的に魔法使いで、腕っぷしよりも頭を使うことを得意としている。
「サントンとハッサンにはクック村の冒険者ギルドに登録してきてほしい。サントンは元々カシム村出身だったな」
「おう、そうだぜ」
「二人はカシム村から冒険者になりたくて、クック村に来たことにしてくれ。そして建物の場所やギルド、村長の家の場所を覚えてほしい」
二人が頷く。
「グラウスには情報収集を手伝ってもらいたい。俺が王都にいって準備してくるから、クック村の門の開いている時間と出入りする人数を森に隠れて監視しながら数えてくれ」
「心得た」
ハッサンとグラウスはサントンより二つ下で、今年18になる。二人とも次期幹部候補として、ゲオルグとダントが育ててきた。
そのため両極端な二人が上手くいくのか不安もあったため、今回の作戦に携わらせて成長を期待したいのかもしれない。
細やかな指示を出してそれぞれの準備もあるので解散する。三人はすぐに準備に取り掛かるため、それぞれの小屋に戻っていった。アクは三人と別れた後、昨日の岩場に来ていた。盗賊団に必要なのは情報だ。アクは情報を集めるため、王都へ向けて転移の魔法を使った。
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王都近くの茂みに転移して、アクは早速に門へ向かって歩き出した。王都の門番は、この間来たときに対応してくれた兵士と同じだったので、顔を覚えていてくれた。
「おう、この間来たやつじゃないなか。金の用意はできたのか?」
「はい。銅貨一枚ですね」
「そうだ」
財布からお金を出すふりをして、財布の中にアイテムボックスを作りだし『銅貨一枚リリース』と念じる。銅貨の感触が手の平に感じれたので、握り閉めて兵士に差し出す。
「おお、ちゃんと稼いできたのか。じゃ、こっちの書類に名前と出身地を書いてくれ」
「はい」
名前をアク、出身をカシム村として書いた。
「よし、大丈夫だな。ようこそ王都バンガロウへ」
兵士は少し芝居がかった声で歓迎の言葉を述べてくれた。
「ありがとうございます」
アクがお礼を言って頭を下げると、兵士は少し照れた感じで鼻の頭を掻く。
「何かあったら言えよ。俺の名前はグルー、金は貸してやれないけど相談なら聞くぞ」
「アクです。本当にありがとうございます」
「おう、気を付けてな」
「はい」
グルーと別れてメインストリートを歩くが、エビスの店がどこだかわからない。仕方ないなと誰もいない路地に入り、周りに人の気配がないことを確認して、ブラックホールの中から『エビスの娘』リリースと念じる。すると一人の少女がアクの前に現れた。
「えっ!!!」
エビスのときと違い、悲鳴を上げなかった。何が起きたのか分からないという感じで唖然としている。
「おい、娘。話せるか?」
「えっ?」
驚きすぎて俺の存在にも気づいていなかったらしい。
「俺の名前はアク。お前を盗賊から救ってきた魔法使いだ。ここは王都バンガロウの路地の一角だ。わかるか?」
「あっはい」
娘はわかったような、わからないような不思議そうな顔をしている。
「とにかく今はお前をエビスの下に連れて行く。エビスの店の場所はわかるか?」
「……メインストリートに出れば」
今だに冷静とは言えないが、呆けるのは大分マシになった。
「じゃあ、ついてこい」
来た道を戻り、メインストリートに出る。路地裏なので孤児や貧民が溢れているかと思ったが、姿は見えなかった。ここでもアクはこの国の事について情報を集めるようにしていた。
「こっちです」
メインストリートに出たことで、やっと落ち着きがでてきたのか、店に案内してくれた。
「ここです」
娘に案内されてきた店は、メインストリートの中でも一際大きな建物だった。現代ならデパートといってもいいのではないだろうか。
「父に会われるのでしたら、こちらになります」
娘の案内で店の裏に回って裏扉から入る。
「セシリアお嬢様!!!」
一人の使用人らしい男が声を上げると店の中から男達が出てきた。
「「「セシリアお嬢様だって!!!本当か?」」」
ガヤガヤとうるさいことだとアクが思っていると、見覚えのある小太りの男が男達を割って出てきた。
「本当にセシリアが帰ってきたのか」
使用人の声を聞いて駆けつけてきたエビスは汗だくで、娘の姿を見るなり膝を突いた。
「おお!!!本当に、本当に、セシリアか!!!」
「はい。お父様」
セシリアと呼ばれた娘の目にも涙があふれ出していた。
「よくぞ、よくぞ無事で戻った」
「はい、本当に。そうだお父様、こちらの方が私を助けてくださいました」
セシリアにやっと紹介してもらえたことで、アクは溜息を吐きたくなる。セシリアの声に一斉に男達の視線が集まったのだ。
「あなたはアク様」
「お父様、知っていらっしゃるんですか」
「ああ。私もこの方に助けていただいたんだ」
感動するのはいいが、巻き込まないでほしい。
「そんなことはいい。エビス。約束を覚えているか」
「もちろんです。娘をセシリアを助けていただいたご恩は、いかようにでもお返しいたします」
エビスが頭を下げると使用人達も一斉に頭を下げた。セシリアがどれだけ大切にされているかがよくわかる。このノリについていけないアクはうんざりしていたが・・・
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