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閑話 その他の勇者達42

閑話は今日でおしまいです。


明日からは第九章を始めたいと思います。

 カブラギ城でランドとアヤメ姫の話し合いは最悪だった。


 アヤメ姫は土の勇者ということで必要以上にランドを毛嫌いして挑発した。

ランドは目的の相手がいないということで、会えないことにイラついていた。

 アヤメ姫にはランドは恐怖の対象として映り、本当に水の勇者に合わせてもいいのか不安だけが募っていった

 姫の雰囲気に家老達も緊張して、殺伐とした雰囲気が部屋中に充満していく。


 襖の前で伝令が声を張り上げる。


「緊急故申し訳ありません。敵軍がこちらに向かっていると報告が入りました。紫苑将軍に防衛をお願いしたく思います」


 伝令の声に殺伐とした雰囲気が、一気に戦場へと意識が変わる。


「姫様」


「わかっておる。紫苑行くがよい」


「はっ」


「戦争か、無駄なことをしてるな」


「貴様に何がわかる!」


 ランドの一言にアヤメ姫が激怒して声を荒げる。


「わからんよ。戦争をする奴の気持ちなんか、わかりたいとも思わない」


「白雪は・・・雫は!貴様のために戦争をしておるのだぞ」


 目にいっぱいの涙を溜めて、アヤメ姫がランドを睨み付ける。


「勝手だな。俺はそんなこと望んじゃいない」


「貴様は!!!もうよい。貴様が雫に会うこと我が許さぬ」


「ガキが」


 アヤメ姫の対応に苛立ちが最高に溜まったランドは、一言で吐き捨てると立ち上がる。

 ランドは殺気を撒き散らしながら立ち去って行く。

ランドに誰も声をかけることはできなかった。


「よろしいのですか、姫様」


「あんな者と雫を会わせたとうない」


「本当にそうでしょうか」


 紫苑は去りゆく背中を見つめて、ランドが本当にダメな奴なのだろうかと考えていた。

 紫苑も土の勇者だということで警戒していたが、ランドは文句も言わずにここまで黙ってついてきた。

 さらにランドを慕って二人の女性が付き従ってきているのだ。

ダメな男ならば人が付いてくるはずがない。

 慕われているということは、慕う何かがあの男にはあるということだ。


「もう行くがよい。国を頼んだぞ」


「はっ」


 紫苑はアヤメ姫に逆らうことはない、たとえアヤメ姫が間違っていようと。


 紫苑は城を抜けて国境を目指す。

紫苑の足ならば30分もあれば国境にたどり着ける。

 玄夢が幻術と漢方に精通しているのに対して、紫苑は肉体の強化に重点を置いて訓練をしてきた。

 他にもシノビの極意はもちろん使えるが、紫苑は肉体強化だけならば絶貴よりも上だと自負している。


 国境についた紫苑が見たのは、1万人の兵士の大群だった。


「なんだ、この間と同じではないか」


 紫苑はすでに一度、一万のルールイス兵を退けている。

またも同じように現れたので、バカな集団なのかと紫苑は呆れてしまう。

 紫苑はあまり考えるのが得意な方ではない。

敵が現れたならば戦う、それだけだ。


「紫苑将軍、どうされますか」


「皆は国に被害が出ないように防御に専念してくれ。私のシノビの極意は周りへの被害を抑える事が難しい。」


「わかりました。ではよろしくお願いします」


 紫苑と話していた鬼人は紫苑の下から離れていく。

紫苑は国に被害を出したくないのもあり、なるべく早く敵を倒そうと走り出す。

 ルールイス軍には紫の閃光が走ったように見えたことだろう。

紫苑は止まることをせず、走りながらルールイス兵の首を飛ばしていく。


「なんだ、何が起きているんだ?」


 兵の一人が招いた言葉は不安を募らせ、1万の兵に混乱が広がろうとしたとき、紫の閃光が急停止する。

 紫の閃光、紫苑は沼地に足を取られるように足が動かなくなる。


「なんだ」


「ふふふ、捕まえた。あなたが守護をしている鬼さんね」


「何者だ、貴様は?」


「ふふふ、私のことが知りたい?良いわよ。教えてあげる。私は魔法剣士隊隊長 紫杖のサリエルよ。あなたを殺す者として名前ぐらいは名乗ってあげる」


「貴様が私を殺すだと?できるものか」


 紫苑はサリエルの言葉を鼻で笑う。


「どうかしらね。私の魔法であなたを捕まえているのだけど」


「こんなもの」


 紫苑が足に力を入れて泥沼から這い出ようとするが、もがけばもがくほど泥沼にはまっていく。


「どうしたの?そのままじゃあなたは国も守れないわよ」


 サリエルは魔力を集中させて、泥沼にハマる紫苑目がけて魔法を唱える。

それは紫苑を石化させる呪文、魔法剣士隊隊長 紫杖のサリエルは土の魔法を得意としている。

 紫苑の属性は水なので、土の魔法との相性は最悪だった。


「ほ~らどうするの。鬼人さんは抵抗もできないのかしら?」


 紫苑は悔しさで打ち震えていた。

自身の能力に絶対の自信を持っている分、サリエルのような魔法であろうと対抗できると思っていた。


「もう終わりかしら」


 首まで石化してきた紫苑にサリエルが勝ちを確信する。


「邪魔だ」


 サリエルは突然かけられた言葉を理解できなかった。

そして突然、そう突然・・・現れた男に気付けなかった自分に驚いていた。

 この男は何者だ、疑問を覚えるよりも早くサリエルの意識は刈り取られる。

すでに一万の兵に戦える者はいない。

 紫苑とサリエルが戦っているうちにある一人の男が全てを蹴散らせた。


 そのことを知る前にサリエルの命は消え失せた・・・


「どうして貴殿がここに」


 サリエルが死んだことで、泥沼も石化も解除された。


「会いたい者に会いにいくだけだ」


「雫様に会われるというのですか」


 紫苑は驚き、そしてランドの前に出る。


「退け」


「行かせるわけにはいきません」


「お前では相手にならない」


「バカにするな。我もカブラギの将、姫様の思いを優先する」


「もう少し話ができる奴かと思ったがな」


 ランドの言葉に紫苑の背筋には冷や汗が流れている。

紫苑は身体能力ならば負けないと思っていた。

 スピードも攻撃力も全て勝っていると、ランドは地面に手を突く。

それはシノビの極意の基本の型、一瞬紫苑は修業時代を思い出す。

 そしてどうして彼がシノビの極意の型を知っているのかと・・・だが、考えている時間はなかった。

 ランドの体を覆うように土層が集まり巨大な鎧と化す。

モンスターなどで見るゴーレムとは比較にならないほど、洗練された巨大な土の鎧、見る者が見れば、ロボットという言葉が浮かんだことだろう。


 オロチよりも大きな土の鎧はランドを包み込み紫苑を見下ろす。


「まだやるかい」


 土層の中から聞こえるランドの声に、怖気づいていた紫苑は自分が何をしようとしていたのかを思い出す。


「はぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁ!!!!」」」」


 紫苑は自分を奮い立たせるために奇声を上げてランドに挑みかかった。

紫苑の攻撃は確かに普通の兵士の何百倍もあるだろうが、ランドには一撃も通ることはなかった。


「アリスいるんだろ」


 戦いが終わり、横たわる紫苑を見下ろしてランドがアリスの名前を呼ぶ。


「うん。その人どうするの」


「城まで連れて行ってやってくれないか」


「ランドはどうするの?」


「俺は、会いに行ってくる」


「大丈夫?ついて行かなくても」


「ああ。一人で行かせてほしい」


「・・・わかった。気を付けてね」


 アリスは心配したが、ランドの意思を尊重した。


 ランドは歩き始める。


 記憶を取り戻すために、そして唯一残る記憶の女性か確かめるために・・・


いつも読んで頂きありがとうございます。

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