閑話 その他の勇者達41
本陣に構える鬼人族総大将 青鬼の絶貴は、玄夢の勝利を遠巻きながら確認していた。
さらに自身の身にも敵が近づいているのを感じている。
シノビの極意を極めし者だけが名乗ることを許された名前、それが絶貴なのだ。
絶貴は初代絶貴と同等か、それ以上の才を持つと言われてきた。
しかし、戦争の無くなった時代では示す場所もない。
そのため噂や誇張だろうと思っている人がほとんどだった。
「来るか・・・」
絶貴は本陣の左右から迫ってくる大群の気配に気づいていた。
絶貴のある本陣を挟み込むように左右に一万ずつ迫ってきている。
オロチの上から戦場を見続けている少女に近づかせるわけにはいかない。
この戦いはすでに勝利しているのだ。
ここで絶貴、もしくは白雪のどちらかが討たれれば逆転負けになってしまう。
絶貴は地面に手を置く、それはシノビの極意に伝わる基本の構え、大地の地脈、龍脈を感じ取り、自身の属性に合わせて力を自然から貰い受ける。
絶貴が目を瞑り、力を想像すると六匹の龍が現われた。
それはシノビの極意の奥義と言われる技で、『龍従降臨』という。
初代は水と光の二頭を従えたと言うが、絶貴は六属性を全て従えている。
六頭の龍は三頭ずつ左右に分かれ、敵兵士に襲い掛かる。
一頭一頭の大きさがオロチに匹敵する大きさを持って兵士達を襲いかかる。
鬼人族は一騎当千の兵が多い。
その中で絶貴は最強なのだ。
一騎当千では収まらずない、万夫不当の言葉が当てはまる。
「物凄い力よの」
全身を赤い鎧で身を包み、黒い巨大馬に乗った重騎兵が絶貴に声をかけながら向かってくる。
「貴様が大将か」
「そうだ。我の名は赤鎧のベヒモス、バッポス様の忠実なる部下にしてルールイス王国最強の男だ」
「自身で最強を名乗るか」
「おう。我はどんな相手にも負けたことがない」
「ならば敗北をくれてやろう」
絶貴は両手を地面につく。
ベヒモスの周りに火の玉が出現し、一つが爆発すると誘爆して次々と爆発していく。
ベヒモスが立っていた場所は爆炎と煙で何も見えなくなった。
「あまり最強を語るものではないぞ」
絶貴は気配が消えたことを感じとり反対側の陣営を見る。
左右から攻めてきているのだ、もしかたら今のがダミーで反対側に大将が居てもおかしくはない。
「舐められたものだ。たったこれだけの火力で勝った気になられては困るな」
「ほう~気配は消えていたはずだが」
「そんなものどうでもよい。我は赤鎧のベヒモス、全てを蹂躙してくれるわ」
巨大な馬に乗ることで、ベヒモス自身がデカい体をしているのにさらに巨体になっていた。
絶貴は今の爆発で倒したと思っていたが、ベヒモスにはほとんど傷がない。
それは馬にも言えることだった、馬と人を覆うバリアみたいなものがベヒモスの周りに有るのだろうと考えた。
「ならば敬意を払って勝負してやる」
シノビ刀を抜いてベヒモスに肉薄する。
ベヒモスは右脇に構えた突撃用ランスを巧みに使い、絶貴の攻撃を捌いて反撃を繰り出してくる。
「なるほど良い鎧だな」
「わかるか。さすがは鬼人軍総大将」
「打撃や魔法だけでなく、果てはシノビの極意まで跳ね返すか」
「そうだ。我にはどんな攻撃も通じぬ。この鎧は我が触れている物全てを守る。悪を倒すために作られた破邪の鎧だ」
「そうか、貴様に攻撃は通らないか」
絶貴は相手の弱点を考える。
全身を顔すらも鎧の中に覆われていて、内部破壊もできない。
ならば答えは一つ。鎧以上の力で攻撃するのみ、絶貴は六頭の龍を呼び戻す。
赤鎧のベヒモスとの戦いのなか、自我を持って戦っていた龍達のお蔭で粗方の雑魚兵は倒すことができた。
「何をしても無駄だぞ」
赤鎧のベヒモスは自身の鎧に絶対の自信を持っているらしく、絶貴が何か仕掛けてくるのを待っている。
律儀な男だと内心笑ってしまう絶貴だが、待ってくれるならば有難い。
絶貴は地面に手をついて、力を集める。
どんどん体内に自然の力が溜まって行くのがわかる。
絶貴は六属性全て使えると知ったとき、もし全てを合わせたらどうなるのだろうかと常に考えていた。
そしてこれは、絶貴オリジナルで編み出した秘奥義。
六色の龍は、一頭の龍へと収縮されていく。
そして存分に自然の力を込められた。
レインボーの龍が降臨した。
「我の最強の技だ。受けてみよ」
そこには砂丘 修二が到達した最終奥義を、さらに進化させ、龍の形にした絶貴オリジナル技『絶対なる殺人者』(スレイヤー)を赤鎧のベヒモスへ放つ。
「我には効かぬ」
赤鎧のベヒモスは、その言葉を最後に消え去った。
赤い鎧を残して……
「スゴイ物だな。自身が護れるキャパシティを超えて、中の者は守れなくても(鎧自身)だけは守り切ったか。皮肉なものだな、鎧に見放される騎士というのは」
絶貴は赤鎧のベヒモスを撃破して、白雪に金剛がカブラギ皇国に着いたことを知らせるために走りだす。
戦争を終わらせるために・・・
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