大魔王になります 終
第八章の最後です。
魔王は唖然とする。
自身も満身創痍になりながらも勇者との死闘に勝ち、止めを刺すだけだったはずなのに、目の前には新たに四人の人間が現われたのだ。
「無茶をする男だ」
力を使い果たし、魔王の最後の一撃により全身の80パーセントを焼かれた砂丘を抱えて、エレオノール・シルビアが優しく微笑む。
「エレア、早くしてよ」
木場 クリスティンが少し砂丘に嫉妬心を燃やしながら、エレオノール・シルビアを催促する。
「私の愛称を呼んでいいのは私が惚れた者だけだ。クリスは呼んではダメだ」
愛称を呼ばれたことに怒るが、木場の名前を愛称で返すあたり上手くいっている二人である。
「はいはい、そんなことより本当に早くしないと死んじゃうよ」
「わかっている。この男には生きてもらわねばならない」
エレオノール・シルビアが砂丘に口づけをする。
それはエレオノール・シルビア最大の魔法、エレオノール・シルビア自身の魔力を 相手に流し込むことで、体内から回復を図る究極回復魔法なのだ。
「これですぐに死ぬことはないだろう」
今にも呼吸が止まりそうだった砂丘の呼吸が、少し落ち着きを取り戻す。
「だけどまだ、ダメなんですよね?」
「ああ。すでに彼は生死の淵に立っている。そういう者を戻す回復魔法はない」
「なら最後の方法を取るしかないですね」
水の勇者 時東 椿は魔王が現われたことで、自分達がいかに愚かで砂丘がいかに大人だったかを知った。
時東の夫であり、鬼人族の王 鏑木 絶貴に助力を借りて、ここまでたどり着いた。
レギンバラの兵達は数も多く、砂丘でもない限り一人で突破できるものではない。
それを鏑木率いる鬼人達が抑えてくれているのだ。
「そうだな」
4人はこの場で事の成り行きを見守っていた一人に振り向く。
「やっとか、我を放っておいて余裕だな」
魔王は呆れたような顔で4人を見返す。
魔王は自己治癒で胸の穴を塞ぎ終えていた。
荒かった息も落ち着き、声をかける。
「別に余裕があるわけではない。我らは知っているだけだ。自分達が成さなければならないことを」
魔王の言葉にエレオノール・シルビアは砂丘を寝かせて、立ち上がりながら答える。
「成さねばならぬこと?」
「おうよ。俺達は神様ってやつに集められたんだよ。本当の勇者を救うためにな」
今まで黙っていた天辰 雄姿が一歩前に出る。
全員の中で一番の年上であり、本来、人の好い彼は兄貴分と言われる存在になりえた。
しかし、規格外な砂丘の行動、惚れた女を手にできなかった焦りが彼の道を外させた。
だが、彼はここにいる。
誰よりも雄々しく全員の兄貴分として、赤い鎧に身を包み魔王の前に出る。
「神様だと?」
「おう。お前との戦いで力を使い果たした神さんはここにはこられない。だが、召喚された俺達が神さんに代わってお前を封印する」
「封印だと!!!」
魔王が声を張り上げる。
魔王は4人と戦っても勝てる自信があった。
4人の攻撃をいくら合わせても先ほどの勇者に遠く及ばない。
しかし、封印はまた別なのだ。
彼ら4人の力を合わせれば、何年か魔王を封印することは可能なのだ。
ただそれは本当に何年かで問題を先延ばしにしたに過ぎない。
「そうだ。俺達はある方法でお前を封印する」
「天辰、良いのか話して」
木場が慌てて、魔王に話している天辰を止める。
「いいだろ。どうせ失敗がない方法だ」
「そうだけど、万が一があるかもしれないだろ」
「クリス、もういい。馬鹿は放っておけ。今はやることをやるだけだ」
「エレアがいいならいいけど」
木場はエレオノール・シルビアに窘められて、天辰の肩から手を離す。
「馬鹿とはなんだよ」
天辰がエレオノール・シルビアに詰め寄ろうとするが、逆に時東が一歩前に出る。
「いきます」
誰の話も聞かずに時東が全てを凍りつかせる。
それは時間も空間も全てを止める魔法、その中で動くことができるのは、神からアイテムを受け取った3人だけ、時東の仕事は全魔力を使い時を止めることだ。
その後は3人の勇者に託される。
「いきなりかよ、おい」
「いくぞ」
「ああ」
天辰が一人慌てるなか、エレオノール・シルビアと木場 クリスティンが声を掛け合って走り出す。
二人は時の止まった魔王の傍により、魔力を共鳴させる。
すると魔王と黒金の体が二重に分かれていく。
慌てて天辰が自身の剣を抜き放つ。
それは神から授かった聖剣で、この世で一つしかない魔を封じる剣。
使えるのは砂丘ではなく、天辰一人だけだ。
天辰は二つに分かれた黒金と魔王を切り裂き、二人に分ける。
魔王に実体がなくなり、木場とエレアが全魔力を使って実体のない魔王を砂丘へと送り込む。
魔王と砂丘が重なり合うが、魔王が抵抗するように分裂しようとする。
二つの影を天辰が全魔力を込めた聖剣で突き刺す。
「俺達の全てをお前にくれてやるよ」
天辰は笑っていた。
天辰にだけもう一つ仕事が残っている。
それは、自身の生命力を砂丘に注ぎ込むことだ。
他の勇者は知らない。
火の勇者たる彼だけが、神に望まれた仕事、それは魔王と共に砂丘の中に入り、砂丘と協力して魔王を封印すること、自己犠牲など自分にはあり得なかった天辰だったが、神の望みを受け入れた。
彼もまた自分が間違っていたことに気づいていた・・・
いつか自分の間違いを正したいと思っていた。
その機会を神から得られるのだ、喜んで天辰は身を捧げる決意をした。
聖剣と共に天辰は砂丘の中に入っていく。
魔王ベルザルードは封印される筈だった。
しかし、ベルザルードは封印が完了する寸前に一つの種を世界に残した。
自身の力だけを封印した種が芽吹くその時まで、種はどこにあるのかわからない。
砂丘は眠っている間に魔王の封印の器とされ、さらに一つの枷を負わされる。
それは崩壊して誰も住めなくなったレギンバラ王国の地に住み、魔族を生み出し見守ることだった。
砂丘 修二はこうして大魔王になった・・・
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