大魔王になります21
魔王の前にはレインボーに輝くビー玉の程の大きさをした魔力の固まりが魔王を滅ぼすために迫っている。
砂丘 修二にとって今できる最大の攻撃を繰り出した。
それは砂丘が持つ、全ての魔力と自然のエネルギーを込めた一撃であり、これが相手に効かなければ砂丘に打つ手はない。
魔王は魔力の固まりを正面から受け止める。
それは魔王としての矜持、誰にも負けてはならない絶対者として、どんな攻撃も破壊する。
魔王は迫りくるレインボービー玉を破壊するため、自身の力を全て両手に集結させる。
今までのような余裕は魔王にはない。
魔王も確かに絶対的な力を持ってはいるが、体は最強ではない。
魔王にとってそれだけが弱点といえる。
「いくぞ、人の勇者よ」
すでに黒金の声かどうかもわからない。
魔王は全力を込めて、レインボーの固まりを受け止める。
魔力の固まりは魔王と触れ合った瞬間激しく光り出す。
二つの強大な力がぶつかり合い、城は崩壊していく。
レギンバラ王国が存在していた北の大地は荒れ果てた草も生えない本当の死地になった。
崩壊する城の中で、光が止むにつれて魔王の輪郭が現れ始める。
砂丘は倒し切れなかったと意識を失いそうな体を奮い立たせる。
そして砂丘が見た先にいる魔王は、ボロボロだった。
砂丘の全てを込めた一撃は、魔王の両手を吹き飛ばし、心の臓にぶち当たり胸に大きな風穴を開けている。
なぜ立っていられるのかわからないほどに大きな傷を受けても魔王は立っていた。
「化け物め・・・」
砂丘は魔王と戦うために、力を振り絞る。
魔力はすでに空っぽで、体力もシノビの極意を極限まで引き出すために使い切った。
残っているのは精々、気力と生命力ぐらいのものだ。
それでも砂丘は初めて槍を取る。
今まで武器らしい武器も使ってこなかったが、砂丘が自信の武器として選んだのは槍だった。
槍で体を支えて、何とか立ち上がり構えを取る。
格闘術だけでも異世界人トップを誇る砂丘に疲れていようと隙など無い。
「くくく、人の勇者よ。そんな物で我に傷をつけられると思うのか」
幽鬼かゾンビのような姿になっても笑い続ける魔王に、砂丘は一瞬恐怖を感じた。
しかし、自分が戦わなければこの魔王は世界を本当に滅ぼしてしまう。
「やってみなければわからない」
砂丘は感覚を研ぎ澄ませる。
今まで傷らしい傷を魔王に与えることができなかった。
しかし、魔王は今、五体満足とは言えない体になっているのだ。
今なら魔王の防御力を突破できるかもしれない。
「人の勇者よ。何故お前はそれほとの力が有りながら我を倒そうとする。その力があれば世界も手に入られようものを」
「興味ないな。俺はこの異世界が好きなんだよ。初めて召喚されたとき、戦争とかしてて絶望したさ。だけどな、異世界にしかいない種族の奴に会って、人でも良い奴に会った。それでやっぱ異世界っていいなって思ったんだよ。勇者がいて魔王がいて、冒険があってダンジョンやモンスターがいて、それらすべてが揃ってるこの世界がやっぱ好きなんだよ」
砂丘は初めて胸の内を話した。
それが意味のない相手であろうと問われたなら自分の気持ちを言いたかった。
誰でもよかった。
本当の気持ちをぶちまけたかった。
「ならば、どうするのだ。我はお前が好きだと言う世界を壊そうとする魔王だ」
「本当はお前を生かして勇者が倒してくれればいいけど、そんな都合のいい話なんてないよな。きっと今回の勇者は俺なんだ」
「そうだ。お前が言う絵空事の主人公にお前自身が選ばれたのであろう」
魔王は皮肉を込めて砂丘に笑いかけた。
砂丘は魔王の言葉を聞いているようで、頭では違うことを考えていた。
「勇者の務めを果たすよ」
砂丘は槍の先端に力を込める。
すると先端が光り出す、それは魔力が尽きた砂丘にできる本当に最後の奥の手。
「まだ魔力を残していたか」
「これは魔力じゃねぇよ。生命力だ」
「生命力だと・・・貴様死ぬつもりか」
魔王は砂丘の狙いを悟り、額に汗を流す。
「勇者ならば、勇者の務めを果たさないとな。魔王さんよ、お前は俺が倒す」
土の勇者、砂丘 修二は、レギンバラ王国にとって、もっとも勇者らしくない行動を取っていた勇者だった。
しかし、現在もっとも勇者らしく戦う砂丘を誰もが言うだろう。
真なる勇者と・・・
砂丘は光を帯びた槍の先端を魔王の頭部目がけて突き入れる。
魔王も逃げようとするが、両手を失い、胸に穴が開いてはまともに動くことは叶わない、砂丘の攻撃を受けそうになる。
「舐めるなよ」
魔王は口を大きく開く。
普通の人間ならば顎が外れてしまうほど、ありえない大きさまで開いた口の中からエネルギーの固まりが放たれる。
それは、瀕死の人間から放たれる攻撃とは思えないほどの一撃で、砂丘の体を飲み込んでいく
「勇者よ、我の勝ちだ」
魔王の宣言を聞きながら砂丘は本当に意識を失う。
誰かの温かい腕に抱かれながら・・・
いつも読んで頂きありがとうございます。




