大魔王になります20
砂丘 修二は守りたい者達のために戦うことを決意した。
この世界に来たとき、喜びと同時に絶望した。
剣と魔法の異世界に召喚される、それは小説や漫画で出てくる世界のように冒険がたくさんあり、危険はあるが楽しいところだと思っていた。
だが、現実は獣人と普人との戦争状態、普人側の王は野心に燃えて、獣人をただの獣としか見ることができない最低の王だった。
そんな王に出会い絶望した。
次に出会った鬼人の王は、情けなくも一生懸命な王だった。
民のために力を尽くし、最終的には化け物も人も異世界人すら受け入れる懐の深い王だった。
砂丘は彼のことが大好きだった。
大好きだからこそ、自分が居てはいけないと思った。
王は一人で考えて決断を下さなければならない。
それは他人に委ねてはいけないのだ。
そのため情けない王は本当に困ったとき、導いてくれる者に縋ってしまう。
だからこそ導いている者として、傍にいてはいけないのだと砂丘は思った。
この世界に生きる者を慈しむことができた。
最後に出会った王にならない男は、面白い男だった。
家族を大切して甘くて世話好きで何かと構ってくる男だった。
能力も魔力も砂丘が上だったが、初めて砂丘は男に負けているモノがあると思った。
男の周りには人が集まる。
誰もが男を信頼し、身を寄せたいと思う。
それは男の魅力であり、砂丘も男に魅せられた者として、男の家族を男自身を守りたいと思った。
人をまた好きになることができた。
三人の王に会い、砂丘は段々と異世界のことを好きになることができた。
出会いを思い返しながら、砂丘は魔王の前に立つ。
普通の者に砂丘を止めることはできない。
砂丘が動けば、それは最終決戦を意味する。
目の前には同じ日に召喚された女性がいる。
彼女の名前は黒金 飛鳥、初めて彼女を見た時、黒髪のよく似合う大和撫子だと砂丘は感じた。
しかし、目の前にいる人物は恐ろしくも妖艶な笑みを作り、砂丘を玉座から見下ろしている。
ここはレギンバラ城、謁見の間。
本来砂丘を召喚したレギンバラ王が座る場所に黒金 飛鳥が座っている。
「お前は黒金さんじゃないんだな」
「我の宿主のことか、彼女は我と一つになった。その名は我の名でもある」
「そうか、もう彼女の心もないんだな。それはよかった」
「よかった?」
「ああ、これで思う存分お前を殺すことができる」
「ほう。人間風情が我に戦いを挑むと言うのか、この魔王である我に」
「魔王か、お前がもっと早く存在してくれていたら、戦争なんか起きなかったのかもな。獣人も普人も手を取り合って打倒魔王を目指していたのかもな」
「お前は何を言っているのだ」
黒髪の美女が首を傾げる。
姿も声も彼女のまま、中身だけが魔王になっているのだ。
砂丘の中にすでに彼女への感情はないが、美しさは変わらない。
「お前にはわからないかもな」
「問答はもうよかろう。貴様は何をしにきたのだ」
魔王が砂丘に問いかける。
「そうだな。野暮なことはやめよう。お前を倒す」
砂丘は手を床につく。
それは砂丘の戦闘を始める構えであり、目を閉じて地脈を感じとる準備をする。
そして砂丘は地脈に願う。
砂丘が願えば、謁見の間は無数の針が砂丘を避けるように突き出される。
しかし、魔王の体を貫くことは叶わず、魔王の体に当たった物から砕けていく。
出続ける針の山を片手で操作し、もう一つの手で水蒸気を発生させる。
水蒸気は霧のようになり部屋を覆いつくして、さらに部屋の温度を急速に下げていく。
息の凍る温度の中で、魔王は笑っている。
「なかなか涼しくなってきたではないか、人間よ。面白い技を使いよる。何より多数の魔法を会得しておるとは器用な奴よ」
砂丘に笑いかけながら魔王は余裕の笑みで砂丘の一挙手一投足を見続けている。
「その割には堪えてなさそうだけどな」
「うむ。これぐらいならばたいしたことはない。我はどんな状況でも生きられるようにできているからな」
それは空気が無くても、溶岩の中でも生きて行けることを言っているのだ。
即ち魔王に攻撃を当てようと思うなら、それ以上の力を生み出さなければならない。
「化け物だな」
「人はそれを神と言うのだ。人間」
黒金の姿で笑う魔王に、砂丘は次の手立てを考える。
自身の持つ自然の力だけでは勝てない。
もちろん魔力だけでもダメだ。
ならばどうする、答えは一つしかない。
全て合わせればいい。
「何か思いついた顔だな。余興じゃ。やってみせよ」
魔王は退屈を紛らわせるために、砂丘が何か思いついたであろうことを実行せよと命令する。
魔王から見た砂丘は他愛のない存在だと思われている言動に、砂丘は闘志が湧いてくる。
砂丘は自身の内にある力を集約させていく。
さらに地脈・龍脈からエネルギーを借り受ける。
砂丘の手の中に七色に輝く、小さな球体が生み出された。
「それがお前の切り札か」
魔王は砂丘の両手の平の中で輝き続ける。
レインボーの玉を見て、それでも余裕な態度を変えようとはしない。
「これは俺が持ち得る最高の力だ。これもお前に効かないのであれば俺に打つ手はない」
「面白い。我は正面から受け止めてお前の切り札を破壊してやろう」
美しく黒髪の女性に宣言され、砂丘は七色に輝くエネルギーの固まりに、大地の力を注ぎこむ。
当初膨れ上がると思っていたエネルギーは力を吸い続けてどんどん小さくなり、ビー玉ぐらいの大きさになる。
「どうやらできたみたいだな」
魔王は光り輝くビー玉を見つめて砂丘に話しかける。
「ああ。魔王さんよ。正面から受けてくれるんだろ」
「もちろんじゃ。我に二言はない」
砂丘の手から離れたレインボービー玉は一直線に魔王の下へ向かう。
飛ばされた後も何の音もしないまま、魔王へと襲いかかる。
それは光の速さよりも何倍も速い魔力の固まり、黒金 飛鳥はそれを受けとめた・・・
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