閑話 その他の勇者達3
異世界に召喚された金剛 護、白雪 雫の二人は、毎日のように朝は城下に出て、夜は城にある図書館に籠っていた。
二人はどうにかして元の世界に帰る手立てはないかと探していたのだ。元の世界では金剛は不良でどうしようもない人間だと周りに言われてきた。 毎日を喧嘩に明け暮れ、何にイライラしているのかもわからなくなってきていたとき、白雪に出会った。白雪は、元の世界のある神社の娘で、巫女として働いていた。その日も金剛は喧嘩でケガをして、神社で一服しようと木に体を預けて座り込んだ。
「誰ですか?」
そこに神社の掃除をしていた白雪と鉢合わせしてしまった。
「・・・」
金剛は煙草を銜えたまま無言で白雪を睨んだ。
「あの~ここは神聖な場所なので煙草はダメです……」
語尾が小さくなっていったが、伝えることは伝えられたと金剛を見る。そんな白雪の態度に金剛は顔を真っ赤にしていた。
「どうかしましたか?」
小首を傾げる白雪は可愛らしく、巫女の衣装がよく似合っていた。
「いや……すまなかった」
金剛は元々悪い男ではない。目つきが悪いと言われ喧嘩を売られ、背が高いと言われ喧嘩を売られた。
殴られるのが嫌だったから、殴られる前に殴り返した。その内に、どんどん周りに敵が増えていき、いつのまにか一人で戦う泥沼に突入していた。
そんなときに巫女衣装の可愛らしい女の子に怒られた。金剛にとって新鮮なことだった。男は金剛を見て怯えるか、睨んでくる。女は金剛のことをバイ菌のように扱い近づこうともしない。遠巻きにグダグダ話す者ばかりだった。
しかし、目の前の少女は可愛らしい外見で、精いっぱい勇気を振り絞って金剛に煙草を吸うのを注意した。それは金剛にとって数年間味わったことのない感覚で、嬉しくもあり、忘れかけていた普通に接してくれる人だった。
「わかってくれればいいんです」
白雪が満面の笑みを作るので釣られて笑顔になる。
「ふふふ、笑うと可愛い顔をしてるんですね。あっごめんなさい。初対面の人に失礼でした」
白雪はまったく金剛を怖がらず、軽口で話しかけてきた。
「お前、俺が怖くないのか?」
「どうしてそんなことを聞くのかわかりませんが、あなたからは優しいオーラが出ていますよ」
白雪は如何にも不思議なことを聞かれたと、不思議そうな顔をする。そんな白雪に金剛の方が戸惑ってしまう。
「俺が優しそう?」
「ええ」
白雪が即答で返すので、二の句が継げない。
「お前は変わっているな……」
金剛も観念したのか、自然に笑顔になり、普通に笑いながら白雪と会話をした。
「私のどこが変わっているんですか?」
天然な彼女は、またも不思議な顔をする。白雪は幼い頃から人の心を感じることができた。だからこそ、金剛の外見に惑わされることなく、本質を見抜いただけなのだ。
その後、金剛は白雪の名前を聞くのに一時間かかった。
白雪と会った日から、金剛は喧嘩になりそうになったら逃げるようにした。喧嘩を売ってくる者は後を絶たなかったが、不思議と神社まで逃げ込むと誰も追ってはこなかった。
神社に入ると、いつも白雪が待っていてくれた。
「金剛君。また来たんですか。本当に神社がお好きなんですね」
「そうなのかもな」
白雪の笑顔が好きだ、白雪と話すのが好きだ、白雪が大好きだ。
「白雪、俺と付き合ってくれないか?」
白雪と出会って一年が立ち、同じ高校に合格することができた。喧嘩を辞めて、白雪と同じ高校に入るために物凄く勉強もした。
そして入学式の日、告白することができた。
「はい。嬉しいです!」
白雪は目に涙を溜めて、喜びを含んだ返事をくれる。金剛に会ったときから白雪も金剛に心惹かれていた。二人はここからスタートするはずだった。
異世界に召喚された日、二人はある約束をしていた。
「雫、疲れてないか?」
「大丈夫」
「絶対に帰ろうな……」
「うん。約束だもんね」
白雪は金剛といるときは普通に話しをする。しかし、心に悪意のある者を前にすると、白雪は何も話せなくなってしまう。
「雫は俺が護るから」
「うん。ごめんね。ありがとう」
金剛の言葉に、白雪は嬉しそうに頷いた。金剛は白雪が感じた王様や王女様の悪意を理解して二人のことを疑った。白雪の判断を信じ、異世界に来てから誰も信じられなくなった。
信じられるのは互いだけ、それが二人にとって共通の認識だった。
「なんとしても帰らないとな」
決意を新たにして、二人は与えられた自分の部屋に帰った。この世界にきて、金剛と白雪は常に一緒にいる。しかし、絶対に別れるときがある。それが、トイレとお風呂、そして寝る部屋だけは分けるようにしていた。
それは金剛の古風なところで、結婚するまでは一緒に寝泊りをしないと決めているからだった。与えられた6つの部屋の住人は、もう3人がいなくなっていることは知っていた。
それでも自分達に関係なかった。白雪が居れば、金剛は何も気にしないでいられた。
その日の夜までは・・・
「キャーーー!!!」
金剛と白雪の部屋は隣同士になっていて窓を開ければ声も聞こえてくる。夜中で金剛が眠りについているとき、夢の中で白雪の悲鳴が聞こえた。飛び起きるが、実際に白雪の声はなかった。胸騒ぎがして、夜中にもかかわらず白雪の部屋を訪ねた。
「雫、起きてるか!」
ドンドン
起こすつもりで強めに扉を叩くが、しばらく経っても返事が帰ってこない。胸騒ぎが収まらない金剛は、意を決して魔法で鍵を開けた。
本来なら夜中に女性の部屋に入るのを躊躇う金剛だが、嫌な予感の方がその時は勝っていた。
「雫?」
部屋の中に白雪は居なかった。ベッドに触れれば、先ほどまで雫が寝ていたことがわかる。まだ温もりが残っている。
「護るっていったのに。なんだよこれは!」
金剛の中で夢は確信に変わった。そして自分が白雪を守れなかった事実が、本来の暴力的な彼を呼び起こした。
「誰だ!!!誰が雫を!!!」
朝が明けきる前の暗闇の中、金剛の声は城中に響いた。その声に気付いて真っ先にやってきのは、天野だった。彼は同じフロアの部屋に寝泊まりしているので金剛の声に一番早く気付いたのだ。
さらに響き続ける金剛の声に、使用人達も何事かと騒ぎを聞きつけて集まってくる。
「何があったのか?」
天野の言葉に金剛が振り返る。
「何かあったのかだと!白雪がいなくなったんだ。王をここへ呼べ。聞きたいことがある」
金剛が飛ばす殺気によって、使用人達の中には気絶する者が出始める。
「わかった。わかったから殺気を抑えてくれないか……使用人さんには、強すぎるんだ」
「すまない」
天野の言葉に、金剛も少し落ち着きを取り戻した。
「誰かすぐに王様を呼んできてくれ」
天野が意識を保つ使用人に、王様を呼びに行かすため声をかける。しかし、その必要はなかった。王様も金剛の叫びを聞きつけ、駆けつけていた。
「何事じゃ?」
「王様」
王様は数人の護衛を連れてやってきていた。王様の後ろにはバッポスや、フフリア王女の姿も見える。
「王よ。聞きたいことがある」
王様の姿が見えると、金剛が白雪の部屋から出てきた。先ほどよりも幾分マシだが、殺気を発していた。殺気に反応して、警戒した近衛騎士と天野が王様と金剛の間に入る。
「なんじゃ?」
王様は、いつもの柔和な顔を作る余裕もなく金剛に向き合う。
「雫をどこにやった?」
「雫とは水の勇者様のことか?」
「そうだ」
「水の勇者様に何かあったのか?」
「とぼけるな!お前が雫を攫ったんだろ」
「待て、待ってくれ」
金剛の剣幕に王様も事の重大さを悟った。そして金剛の怒りを納めるために頭をフル回転させる。
「我は水の勇者様がどこにいったかなど知らぬ。だが早急に調べさせるゆえ待ってくれ」
金剛の今にも飛び掛かりそうな殺気を受けて、王様は地面に手を付き懇願した。
「……わかった。一日待とう」
「すまぬ」
王様はすぐに使用人や騎士に命じて白雪の捜索を開始した。王の間に戻った王様は、一つの思いを抱える。どうして今回の勇者達は規格外なほど力が強いのか……。
近衛を倒した火の勇者。
精霊と契約して姿を消した闇の勇者。
白雪を失い、憎悪と怒りによる爆発的な殺気を纏うようになった土の勇者。
他の勇者の力は未だ見てはいないが、三人も化け物がいれば十分だ。
本当にどうなってしまうのか、頭を悩ませながら王様は吉報をひたすら待つことしかできなかった。
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