大魔王になります18
「どういうことだ、これは!」
エレオノール・シルビアは現状に怒りを込めて叫んでいた。
彼女はレギンバラ王に約束された通り、土地を貰い密かに異世界で暮らしていければと最初は考えていた。
その中で闇の勇者 黒金 飛鳥の監視を自分が行おうと思っていたのだ。
しかし、現状は木場 クリスティンと共に領地を譲り受け、中央大陸を四分割した際の南半分を手にしている。
それも木場がレギンバラ王に交渉して手に入れたのだ。
獣人達の脅威を遮る防壁の役目も込めて、これぐらいの領地がほしいとかなんとか、エレオノールとしてはこんなにも大きな領地を貰っても仕方がないのだ。
何より自分は黒金の監視もしなければならないのに・・・・
「何を怒っているのさ、エレオノール」
木場がエレオノールを窘めながら、怒りの原因について質問を投げかける。
「何もかもだ。木場、私のことを名前で呼ぶのもまだ許してはいない」
「僕はいつでもクリスと呼んでくれて構わないよ」
「私の名前を呼んでいいのは旦那になる者だけだ。木場は私の旦那ではない」
「僕はエレオノールの旦那さんになりたいけどね」
「そんな恥ずかしいことをさらりと言うな。それに話をすり替えるな、私は今の状況に怒っているのだ」
「話をすり替えたのはエレオノールだよ。だから現状の何に怒っているのさ」
二人は、教主と聖女という立場になっている。
それはエレオノールが望んだことではなく、いつの間にか木場に仕立て上げられていたのだ。
民衆もエレオノールを聖女として認めて、崇められているのだ。
「おかしいだろ。どうして私が聖女なのだ。私は武人だぞ」
「そうかい?今までの君の功績を考えれば聖女の方がしっくりくると思うけど」
エレオノールは自身の功績について考えてみるが心当たりがない。
確かに多くの獣人を倒して活躍はした。
獣人達の将軍も倒したが、それ以外はしていない。
「わからないって顔だね。じゃヒントをあげようか。君は逃げ遅れた老婆や子供がいたらどうする」
「もちろん助ける。武人とは戦う力のある者だ。戦う力がある者が無い者を守るのは当たり前のことだ」
「じゃ負傷した足手まといの兵士がいました。君は見捨てる?それとも助ける?」
「もちろん助ける。負傷していようと仲間は仲間だ、見捨てるつもりはない。その兵士が歩けないなら肩を貸そう。他に貸すものがいるならそのものが逃げる退路を確保しよう。それが仲間というものだ」
「最後だよ。相手は負傷した敵、最後の止めを求めている。君はどうする?」
「たとえ敵であろうと心意気は素晴らしいものだ。助かるなら手厚く介抱し、その者が万全になったならば再戦しよう。もし助からないのであれば私の力でできるだけ安らかな最期を迎えさせてあげたいと思う」
「どう?君が聖女と言われている所以がわかったかい?」
「全然わからん。ハッキリ言え、木場」
木場は溜息を吐く。
彼女を聖女と崇める者達は、戦場で命を救われた者がほとんどだ。
その中には兵士もいれば、力ない老婆や子供もいる。
敵である者にも情けをかける姿は戦場では有名な話だった。
彼女は自身の信じる道を進むことで確実に聖女と言われる道を歩んできたのだ。
「ハァ~君は僕にとって聖女だよ」
「また貴様はそうやって誤魔かすのか」
エレオノールは本当にわからないと怒りを露わにしているが、木場にはその全てが愛おしく、本当に愛していると思えた。
二人が夜の会談をしている場所に伝令がノックをする。
「申し訳ありません。火急の用件ゆえ、お二人のお時間のお邪魔をお許しください」
伝令としてやってきたのは、木場付きの騎士で、名前をオーフェという。
彼は木場の飄々とした態度とは逆に実直で真面目なのだが、意外と融通が利くので木場は重宝している。
「二人の時間などではない。用件とはなんだ」
エレオノールはオーフェの物言いが、気に食わなかったらしく先を促す。
オーフェは木場の顔を見て、木場が頷いたので話し始める。
「先程王都に在住している者から伝書鳩が届き、王が崩御されたと連絡がきました」
「「はっ?」」
二人はあまりにも思いがけない要件に声を揃えて驚く。
「王が死んだだと?あの馬に蹴られても死にそうにない王が」
「はい。どうやら暗殺された模様です。詳細は分かりませぬが、王都はかなり混乱の中にあるそうです」
オーフェは自身の伝令は終わったと下がろうとする。
木場もそれを止めることなく、用件についてを思案しているようだ。
「どうするのだ。王が暗殺されるなど」
エレオノールが不安な声をあげる。
彼女は人の上に立つ人間なのだが、自身に自覚がない。
そのためときたま弱々しいことを言う。
「大丈夫だよ。エレオノール、むしろこれは好機かもしれない」
「好機?人が死んだときに何をいっているんだ」
「エレオノール、僕たちは王から直々に領地をもらっている。その王が死んでここは誰の物だ」
「それは王族の物ではないのか」
「違うよ。もうここは僕達の土地だ。ここは君の物なんだよ。だからここに国を作ろう」
「国?どういうことだ」
木場はレギンバラ王の死を利用することを考えた。
そこからの木場の動きは早いものだった。
レギンバラ王の死が発表されるよりも早く、神興国セントセルスを立ち上げた・・・
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