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閑話 その他の勇者達38

 ランドがカブラギ皇国に入ったとき、懐かしい思いを感じた。

まるで時代劇に出てくる街並みを歩いているような、映画の世界に迷い込んだような。


「ランド、どうかした?」


 アリスが呆けているランドを心配して声をかける。

ランドの他にアリスとドロップが供として行動を共にしている。

 絶貴の暗部隊の一人、鬼人クルルがランド達を案内しているのだ。


「いや。なんだか懐かしいような気がして、どうしてかはわからないんだけどな」

「そう、それならいいんだけど」


 アリスはそれでも不安そうにランドの顔を見た。

アリスはランドが水の勇者に会う事が不安だった。

 ランドの過去を知ることへの不安、ランドを失うことへの不安、ランドが暴走してしまう不安、アリスは様々な思いを抱えてここまでついてきた。

 それはけっして短い旅ではなかった。

自分とランドの間には確かな絆があると思っている。

 だけど、ランドと自分では思いが違うとずっと感じていたのだ。


「着きました。ここがカブラギ皇国、カブラギ城の城下町です」


 城は小高い丘の上に見えている。

それを囲むように綺麗な城下町が賑わいを見せていた。

 ランド達は異国の客人として奇異の目で見られたが、嫌悪や悪意の込められた目があったことは戦争中だということで仕方がないだろう。


「城に着きましたので、くれぐれも不審な動きだけはしないようにお願いします」


 クルルが何度もランド達に念を押す。

ランド達を出迎えたのは長身の紫色の鬼人だった。

 顔は美人なのだが眉がつり上がり、明らかに警戒している。

紫鬼の忍び装束から見える腕は太くて鍛えられているのがよくわかる。


「紫苑様、どうしてあなたがここに」


 出迎えられたと相手を見てクルルも予想外だったのか、紫苑に質問を投げかける。


「姫の護衛である近衛隊長が出迎えては何か不都合でもあるか」

「いえ、滅相もございません」


 クルルと紫苑では位も格も違い過ぎた。

戦闘や隠密に関してクルルの方がエキスパートではあるが、家柄と一対一の戦いでは紫苑に勝てないことをクルル自身が知っている。


「よかろう。では客人、ここからは私が案内する。殿がお待ちだ」


 紫苑はどこまでも高圧的にランド達に言葉をかける。

ランドはクルルの態度を不審に思ったが、ここで騒いでも良いことなど何もない。

 紫苑と呼ばれた鬼の後に黙って従うことにした。


「ここで待て」


 紫苑に案内されている城は本当に時代劇などで出てくる城のような作りをしている。

 襖で仕切られた部屋に通され、ランドは畳の感触を懐かしく思ってしまう。

自然に視線は部屋の中を見渡していた。


「ジロジロ見るな」


 紫苑がいつの間にか戻ってきてランドを咎める。


「減るもんじゃないんだ、いいだろ」


 ランドの態度に紫苑が怒りを顔に出したが、ランドはあえて無視して部屋を見渡す。


「もういい。殿が会われるそうだ。ついてこい」


 ランド達は紫苑に付いて行く。

ここまででランドはかなり苛立ちを覚えていた。

 目的の相手である水の勇者に会えていない、それがランドを無性に苛立たせた。

 怒りを抑えて紫苑に連れて行かれた場所は、襖が他の部屋よりも上等な作りになっているのが一目で分かる豪華な部屋だった。

 襖を開けると中には50人は入れそうな大きな広間があり、さらに広間の奥には一段高い場所が作られて白い肌をした鬼の少女が座っていた。

 少女から見て一段低い広間に二十人近い鬼が左右に座っている。

そして紫苑と呼ばれた鬼が白鬼の少女の横に立ち、ランド達を手招きする。


「我らがカブラギ皇国皇帝、カブラギ アヤメ様だ」


 紫苑が白鬼を紹介したことで、全員の視線がランド達に向けられる。

それは案に自己紹介をしろと訴えている行為なのだが、ランドは黙っている。


「なんじゃお主は口がきけぬのか」


 アヤメが挑発するようにランドを見る。


 だが状況は一転した。


 ここまで苛立ちを溜めていたランドは、目的の相手に会えるかと思えば。

エラそうな言葉を話す少女がいるだけ、少女は確かにこの国の皇帝かもしれない。

 だが、客人に対して上からモノを言う無礼な態度に苛立ちを頂点に達した。

鬼人族にしてみればその考え方自体、ランドの方が失礼なのだが、ランドにそんなことは関係ない。

 ランドは苛立ちを隠すことをやめて、殺気を部屋全体に充満させる。

二十人の左右に座っている鬼人は腰を抜かして立てなくなり、白鬼の少女にいたっては息ができないほどの苦しみを感じた。

 唯一動ける紫苑だけが腰に差す刀を抜いてランドに襲いかかろうとした。

しかし、ランドの殺気が紫苑に向けられたことで、誰よりもランドとの力の違いを痛感させられる。

 自分がランドに戦いを挑めばこの場にいる者は全てが殺されると思った。


「頼む。許してくれ」


 紫苑にできることは刀を置いて頭を畳に擦りつけることだけだった。

ランドも幾分か苛立ちを和らげることができたので殺気を納める。


「ランド?」


 アリスが不安そうに声をかける。


「心配ない」


 アリスを気遣うようにランドが声をかける。


「うん」

「アヤメとかいったな。水の勇者はどこにいる」


 ランドは自己紹介をせずに質問を投げかける。

それは鬼人達にとってプライドを著しく損なうものだった。

 しかし、誰もランドに反抗できる者などいなかった。


「わらわは・・・知らぬ」


 アヤメだけは絞り出すように知らぬとだけ答えてランドに抵抗した・・・

いつも読んで頂きありがとうございます。

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