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閑話 その他の勇者達2

いつも読んでいただきありがとうごいます(・_・;)



 神楽カグラ 火鉢ヒバチ安城アンジョウ 風香フウカは元の世界でお嬢様だった。


 神楽は、代々続く名家の娘として育ち、火鉢自身も天才少女と呼ばれていた。帝王学を親から学び、古流武術は免許皆伝、あらゆる言語、学術を15歳で習得して博士号を修めた。

 

 そんな神楽 火鉢は、元の世界をつまらないと感じていた。


 火鉢にとって風香は幼馴染であり、自分にとっての唯一の理解者だと思っている。


 風香もまた名家の娘である。こちらは父親が裁判官をしていて、父親には常にどんな人間でも公平に見るように言われてきた。それが代々続く名家のお嬢様であれ、帝王学を学ぶ少女であれ、一国の王であれ風香には関係ない。その者が正義であるか、悪であるか、自分にとってどんな人物かを見極めるように生きてきた。


「今日は何を買いに行こうかな」


 火鉢が風香の部屋に入るなり、第一声がこの一言である。


「またお買い物かいな~別にええけど、ヒーちゃんホンマに楽しんどる」

「どういう意味だ?」


 図星を突かれたのが面白くないのか、火鉢はふて腐れ気味に問い返す。


「だって買い物なんてホンマにしたいん?いつもと違う日常やで、お父様達の力が及ばない世界やで、ヒーちゃんが望んでたのはこういう世界とちゃうん」


 風香の言葉に火鉢は頭をかいて、風香の方を見る。


「やっぱり、フーは何でもお見通しだな」

「まぁヒーちゃんとは付き合いも長いし、うち自身の性格やからね。人を見定めるのが、うちの家系の流儀っていうのもあるし」

「そうだったな……確かにこの世界に来たときはワクワクしたよ。でも、この世界に来ても一緒だった。王様の庇護の下、本当の自由なんてない」

「ヒーちゃんならもっと早く爆発するかと思っとったわ」

「アタシをなんだと思ってるんだ。フーは」



 風香はお転婆な妹に向けるような笑みを作り、火鉢のことを優しく見つめる。


「帝王学を学んだ支配者階級の人間にして、あらゆる武術、学術を免許皆伝と博士号まで取れてしまう人やんね~それに買い物と言いながら市場の調査と、自分が得意な武器の調達。普通の人とはやっぱりちゃうよね~」

「そういうフーだってちゃっかり薙刀と小太刀の説明をして鍛冶師に作らせてたじゃないか」

「私のは護身用です。それにヒーちゃんの後について歩いてたらそれぐらい必要やろうしね」


 火鉢は口で一度も風香に勝ったことがない。風香はおっとりとして天然系に誤解されやすいが、観察力、洞察力が鋭く、本質を見抜く目を持っている。


「はいはい、私はフーには勝てないよ」


 降参という感じで火鉢が両手を挙げてバンザイのポーズをとる。


「なんや早いんやね」

「これ以上言い返しても勝てる気がしないから。そんなことよりも、これからのことを話そうか」

「これからね~あの王さんは狸さんみたいやしね~あのスーツの阿久津さんやったかな?あの人みたいに露骨に態度に出すのは得策やとは思わんけどね~」


 火鉢と風香は王様が狸であることも、アクイがそれに気づいて警戒していることもわかっていた。ただ風香は人の名前を覚えるのが苦手だ。


「そんなことはしないよ。そんなことしなくても、もっと堂々と城を出て行けばいいんだ」

「またなんか思いついたんやね……まぁ、まかせるよって好きにして」

「フーならそう言ってくれると思ったよ。ありがとう」


 鏡の前で座っていた風香に火鉢が抱き着いた。


「もう~ヒーちゃんはズルいんやから。私はどこでもヒーちゃんと一緒やで」

「もちろんだ」


 満面の笑みで返す火鉢に、ため息交じり息を吐きながら笑み返す。風香とって、この世界のことなどどうでもいい。火鉢と共に居るならどこでもいいのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「じゃみんな、行こうか」


 王様の許可を取り付けた火鉢が、白いパンツに赤い軍服を着て、白いマントを翻し馬車に乗り込む。同じく白いパンツに緑の軍服と白いマントを着た風香が神楽と同じ馬車に乗りこむ。

 二人の後に一人のメイドが馬車に乗ってきた。さらに馬車を守るように四人の騎士が馬に乗って従う。火鉢と風香が乗る場所を操るのも二人の護衛をする騎士だ。


 火鉢は風香に了承を取ると、すぐに王様に謁見を求めた。


「これはこれは火の勇者様。こんな朝早くにどうされました?」


 プライベートルームで会うわけにもいかず、王様は火鉢の面会を謁見の間で受けた。王様を守るように近衛兵も配置されている。


「王様、私は魔王と戦ったという場所に視察をしに行きたいと思います」

「はっ?今なんと、視察にいきたい?」

「はい、そう言いました」

「それはなりませぬぞ。いつ魔王が攻めて来るかわからぬのです。そんなところに勇者様を向かわせるなど、勇者様方は我が国の最後の切り札なのですから」


 火鉢の申し出に王様は大いに慌てた。闇の勇者を取り逃がしただけでなく、火の勇者まで手元からいなくなるなど、あってはならないと思ったのだ。


「それでは戦えません。私たちは相手を知らなければならないのです。百聞は一見にしかず」

「はっ?どういう意味ですか?」

「百の戯言よりも自分の目で一度見た方が早いという事です。私は魔王の脅威を知りません。だから本当の意味で、この国を守れる自信がありません。ですので一度戦闘の跡を見ることで、どれぐらい魔王が凄いのかを確認したいのです」

「う、うむ・・・」


 王様は火鉢の言葉に返す言葉が浮かばない。


「王様が、何を心配されているかわかっています。それは私一人では危険だとお考えなのでしょう?」

「そっ、そうじゃ、まだこの世界に来たばかりのあなたでは危険なのです。ちゃんとこちらで訓練に励んでからでも遅くはありません。魔王と戦う前に火の勇者様を失う訳にはいかないのです」


 王様は我が意を得たりと、火鉢の言葉に乗っかって言葉をまくし立てた。


「だと思いました。ですので風の勇者 安城 風香にも同行をお願いしました。彼女も了承してくれています」

「はっ?いやいや、勇者二人でなど余計にダメじゃ。同時に二人も失うなど考えられない」

「では、王様。どうすれば認めていただけますか?」

「それは……ならば、ここにいる五人の騎士に勝てたなら認めようではないか」


 王様は苦肉の策で、この場にいる近衛騎士達五人と戦うことを提案した。異世界から来たばかりの勇者では五人の近衛騎士に勝つことなど無理だと判断したのだ。こういえば火の勇者は引き下がるものだと王様は思っていた。


「それで許していただけるんですね」


 だが、火の勇者、神楽 火鉢は怯むどころか、余裕の笑みを浮かべて聞き返した。


 これには近衛騎士達も苛立ちを覚えた。仮にも王国最強を集めたと言われる近衛騎士が、召喚されて碌に訓練もしていない未熟勇者に負けるはずがないというのが、彼らの思いだった。


「うっうむ……よかろう」


 王様もまさか火の勇者が受けるとは思わず、さらに近衛を挑発したことで、彼らの怒りまで伝わってくる。こうなっては王様も、発した言葉が引っ込み辛くなり承諾するしかなくなってしまう。


「では、この場でしますか?それとも場所を変えますか?」


 火鉢は相手の事を思って言ったつもりだった。


「すぐに終わります……ここでいいでしょう」


 騎士達の中で、一番火鉢に近かったものが剣を抜いて正眼に構えながら答える。


「あはっ。気が早いんですね。でもいいでしょう」


 火鉢は別にどこでもよかった。全ての武術を免許皆伝まで修めた少女は異常だった。正眼に構えた騎士は、火鉢の出方をうかがっていたが、何もわからないまま意識を失うこととなった。


 騎士に火鉢の動きを捉えることはできない。神楽は開始されたと同時に、全ての者の視覚から消えて、現れたと同時に一人、また一人と意識を刈り取る。

 

 それは異常な光景だった。五人目の意識を刈り取って王様に向き直る。


「これでいいですか?まだ許可をいただけないでしょうか?」


 王様に笑いかける火鉢に、王様は恐怖しか湧いてこなかった。


「いや……構わぬ、視察を認める。ただし条件がある。今お主が倒した近衛騎士五人を随行させること、それを断るなら認めるわけにはいかぬ」

「そんなことでいいですか?後、あたし達の世話をしてくれているメイドさんも連れて行っていいですか?一人メイドがいるだけで、朝の準備とかお茶の用意とかが全然違うので、後、お金と馬車もお願いしますね」


 ニッコリ笑顔で、どんどん要求してくる火鉢に、王様は逆らうことなくすべてを受け入れた。


「全部受けてもらえるなんて太っ腹ですね、王様。大丈夫ですよ、私達は敵にはならない。王様が裏切らない限りはね」


 火鉢はその言葉を残して謁見の間を退室した。


「闇の勇者以外にも、今回は異常な存在が多すぎる」


 王様は一人呟き、倒れた近衛騎士達を見下ろした。彼らに非はない、ただ火の勇者 神楽 火鉢が異常なのだ。


 背筋を伝う冷や汗を王様は決して忘れないだろう。


読んでくださりありがとうございます(^^)/

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