大魔王になります12
南の島を平定したレギンバラ王国軍の下に訃報が届いた。
我が耳を疑ったものは多いだろう。
「なにっ?どういうことだ!水の勇者の部隊が壊滅しただと」
報告に来た兵士に火の勇者 天辰 雄姿は怒声を張り上げた。
「はっ、水の勇者様及び付き従っていたガンドルフ・ホーキンス将軍は敵に敗れたと報告がありました」
「バカな。彼女は水の勇者だぞ、負けるはずがないだろ」
「・・・」
伝令も天辰の剣幕に圧倒されて言葉がでない。
「もういい。下がれ」
「はっ」
伝令を下がらせて、天辰はテントの中に置かれているテーブルを殴りつける。
テーブルは粉々に粉砕し、火がついて灰になる。
「どうなってるんだ・・・」
天辰の中で時東との約束を思い出す。
「デートは絶対に叶えてみせる。君が生きていると信じているぞ」
安否の心配を胸に秘め、時東との約束を叶えるため敢えて天辰は高笑いした。
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勇者を気絶させたまではよかったが、鏑木 絶貴は力尽きて自身も倒れた。
「おい。バカ弟子、上出来だ」
砂丘は鏑木の傍に着地する。
大将を貼り付けにして小丘の一番目立つ場所に飾る。
その前に勇者のレイピアを地面に突き刺す、砂丘は準備が済むと合図の狼煙を打ち上げた。
すると炎の壁が消え去り、10万の軍勢の前に二人の司令官の敗北が知らされる。
未だ迷路を突破しようと幻想の怪物戦っている者も、物資と食料を焼かれ途方に暮れている者も、怪物の襲撃を受けて逃げ惑う者も、狼煙と丘の上に張りつけにされた大将の姿を確認したとき、自分達の敗北を知った。
「どういうことだ?」
誰かが上げた声で波紋は更に広がる。
逃げ惑う者、怒りに駆られて小丘を目指す者、呆然と将軍の亡骸を見つめる者など
彼らは忘れている、彼らが戦うべき敵の事を、そして誰が将軍を討ったかを・・・
既に消え失せた影達を探す者はいない。
白い祠の前で影達は満足げに自身の活躍を語りあっていた。
「俺の霧のお蔭で皆動き易くなったね」
「本当だな。俺なんて霧を全体に充満するように風を操作しただけだ・・・」
「いやいや。ムラサキも十分スゲ~よ。俺も今回は頑張ったけどな」
「姉さん。私の方がやっぱり頑張りましたね」
「何を言ってるのコクちゃん。私が一生懸命考えたから私の方が頑張ったでしょ?」
「兄様。私の方が結局多く馬車を燃やしましたね」
「何を言っているんだ妹よ。我の方が多くの物資を燃やしていただろ」
「あ~あ、結局僕は最後まで縁の下か、まぁ天才だから一番大変なところを任されるのは仕方ないか」
勝手に盛り上がっている子供達を放っておいて、眠る二人の男女を砂丘が見下ろしている。
共に傷ついているが、すでにケガの治療は終えている。
後は目を覚ますのを待つだけだ・・・・
「おい。バカ弟子共、今日はよくやった。存分に食べて寝ろ」
「うわっ、師匠が褒めた。珍しい」
「アオとミドリが頑張ったからだよ」
「いやムラサキも頑張ったよ。俺も頑張ったけど」
「姉さん。やっと私達の愛が伝わったのね」
「コクちゃん。そうね。やっぱり愛は伝わるものね」
「兄様。師匠に認められたぞ」
「おいおい妹よ。あれは俺に言った言葉だぞ」
「ふふん、とうとう師匠も認めたか僕を天才と」
砂丘は思い思いに話す子供達に苛立ちを覚えながら、ずっと黙って横に立つ白を見る。
「何か?」
「白も良くやった」
白は白い肌を赤く染める。
「こういう反応が一番癒されるな」
砂丘は白の反応に納得する。
その晩は賑やかな夜を迎えた。
朝になり、鏑木が起きると酷い惨状に驚きの声を上げる。
「なんだよこれ」
「気付きましたか、気付いたならこの縄を解いてください」
「捕虜を自由にするわけないだろ」
「別に逃げはしません」
「信じられるか」
「解いてやれ」
二人の言い合いを見兼ねて砂丘が声をかける。
「あなたは……なるほど。私が負けた理由がやっと理解できました」
「うん、どういうことだよ」
「彼の正体を知らないのですか?」
「正体って何だよ。確かにアイツは怪物だけどよ。それがどうした」
時東は砂丘の顔を見る。
話してもいいのかと聞くように、砂丘は顔をそらすだけで否定もしない。
「彼はレギンバラ王国が異世界から召喚した土の勇者よ。そして私達勇者が五人束になっても勝てない天才よ」
「なっ!土の勇者だと?」
白鬼の叫び声で他の子供達も目を覚ます。
勇者の存在は、獣人、亜人、龍人にとってもっとも憎むべき相手なのだ・・・
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