大魔王になります9
暗い空は紅く輝いている。
レギンバラの兵士達は、突然現れた火の海によって先に進めないでいた。
「どうして、こんなことに」
水の勇者 時東 椿は目の前で行われている現状に成す術も無く項垂れる。
「言っただろ、お前は俺に勝てないって」
「あなたを絶対に許しません」
顔を上げる時東の前に鏑木 絶貴は勝ち名乗りを上げた。
それは決して簡単なことではなかったことが、彼の全身から流れる血液の跡によって物語られている。
「お前を捕虜とする」
鏑木は時東を気絶させて連れて行く。
そして改めて戦場を見る。
「エグイな」
草原だった戦場は火の海と化していた。
しかし、死人は一人だけと言うから後になって鏑木は更に驚いた。
鏑木は砂丘から言われた作戦を思い出す。
「お前ら、作戦を話すから聞けよ」
砂丘が白の祠の前で子供達を集める。
「作戦?なんだよそれ」
鏑木が子供達の代表として砂丘に聞き返す。
「これから相手をほとんど殺さずに、相手の最大戦力を無力化する」
「そんなことができるのか」
「できるかじゃない、お前達がするんだ」
「俺達が?」
鏑木は子供達の顔を見渡す。
「そうだ。お前達は鏑木の手足にならなければならない。だがらお前達八人で10万人を足止めして退却させるぞ。今回は俺が指揮官としてお前達を使うぞ。だが、これからお前達はお前達自身で考えなければならない。少しでもいい、この戦いで自分らしい何かを視つけてみろ」
「「「はい」」」
子供達も鏑木は王として崇めているが、砂丘のことは師匠として恐れている。
同時に尊敬しているのだ、子供達は戦争で親を失い友を失った。
力がほしいと願った。
そして砂丘はその力を授けてくれた。
「じゃ作戦は以上だ」
「主様?私は何をするのでしょうか?」
「白には囮を頼む」
「囮ですか?」
「奴らは一月前に現れた怪物を調査しに来ているんだ。だからそこに白の本来の姿で軍の前に現れて、暴れてもらいたいんだ」
「わかりました。主様の仰せのままに」
砂丘は全員に作戦の内容を言い終えると、準備に取り掛かるため戦場になる草原に向かった。
砂丘は相手が軍隊で来るならば、夜にここで野営すると確信を持っていた。
10万という人数では、どうしてもまとめて休むことはできない。
調査隊、先遣隊、本隊、遊撃隊、後方支援部隊、それぞれの部隊だけでもいくつも別れ、更に食料は本国から持ち込みながら補給路の確保が必要になる。
人間は食事ができなければ生きては行けないのだから。
「おい、こんなとこに来てどうすんだよ」
砂丘についてきた鏑木が質問する。
鏑木は最近こうして、砂丘の後に付き従うことが多い。
それもこれも砂丘の命令ではあるが、多くの事に触れて学ばせようと思って、砂丘なりに鏑木を鍛えているのだ。
「軍とはなんだと思う?」
「はぁ~?いきなりなんだよ」
「軍だ」
「軍、そりゃ兵士の集まりだろ」
「はぁ~?お前は本当にバカ弟子だな」
「なんなんだよ」
「いいか、軍っていうのは生きモノだ。指揮官によって軍の動きが変わる」
「生きモノ?どういうことだよ」
「お前この間、軍隊の何を見てたんだ」
砂丘は溜息を吐いて、鏑木に視線を向ける。
「いや、目立つ鎧と女がいたから・・・」
「お前の目は節穴だな」
砂丘がしみじみと溜息を吐く。
「さっきからなんなんだよ。ムカつくな」
「いいか、軍は10万ほどいた。そこから10ずつの部隊に分かれていただろ。10ずつの部隊はそれぞれの特色を持って動いていたはずだ」
「特色?」
「そうだ。たとえばお前が見た、目立つ鎧の奴と女の周りには立派な鎧を着た奴が多く居ただろ」
「確かに目立つ奴の周りにも立派な鎧の奴が多かった気がする」
「それは相手の指揮官がそこにいて、それを守るために強い奴が集まっているからだ」
「なんだよ、もっともらしいこと言って、当たり前のことじゃねぇか。それぐらい知ってるよ」
「ならわかってるな、そこがお前の仕事場だ」
「はっ?」
「ここまで話してやったのにわかんないのか、お前はあいつらの王だ。王は一番強くならねばならないと俺は思う」
「一番強く?」
「そうだ。お前は相手の指揮官と闘って、無力化してこい」
「俺が、指揮官と闘う?」
「そうだ」
「そのための準備は全て俺がしてやる」
鏑木は自身の手を見つめる。
砂丘に言われた王としての重みを背負って・・・
ーーーーーーーーーー
「今日はここで野営にしましょう」
「勇者様。今日で最後なのですよね」
時東に将軍が問いかける。
「ええ。一通り見て回れたので、この辺が危険ではないことがわかりました。明日には南の島に進軍を開始します」
「他よりも遅れています。明日は強行軍になること覚悟しておいてください」
「わかりました。将軍」
水の勇者 時東は、自身の勘を信じていた。
時東の勘は予知に近く、先を見通せると自負していたが今回は当てが外れたことを疑問に思っていた。
夜も更け、草原といえど周は沼や森に囲まれているので、かなり暗闇が多くなっている。
水の勇者 時東 椿は本陣から離れて、一人で東を見つめるため小高い丘に来ていた。
二日前に監視されていたような気がしたこともあり、この辺で草原を見渡せる場所を探していると自然とこの丘にきてしまっていた。
「本当に怪物はいないのかしら」
「こんなところにいらっしゃったのですね」
「将軍、後をついてきたのですか?」
「申し訳ありません。私はあなたの護衛も務めておりますので」
「護衛と言う名の監視ですか」
「さぁそれは勇者様次第だと思います」
将軍は目を鋭くして時東を睨む。
「戯言でした。戻りましょう」
時東が将軍に並び、丘を下りようとしたとき悲鳴が上がる。
「敵襲~!!!敵襲~~~!!!!」
時東はもう一度丘から草原を見渡すと、確かに部隊の北側から化け物らしき何者かが部隊に攻撃をしている。
北側は後方支援や輜重隊がほとんどで戦力が乏しい。
「まずいわ。将軍行くわよ」
「おう」
将軍も事の重大さに気づいて、駈け出そうとする。
しかし、今度は丘全体が炎の壁に包まれる。
「なっ!どういうこと」
「わかりません。勇者様、私の傍を離れないようにお願いします」
「そうね。背中を合わせて攻撃に備えます」
炎の中から二人の人物が現れる。
二人とも深くフードを被っているので顔は見えないが、この異常な空間では敵と判断できる。
「どうやってあの炎の壁から」
将軍が疑問を口にすると、フードの人物の一人が一瞬消えて、将軍の前に現れる。
「将軍、前です」
「わかっております」
「転移」
フードを被った人物が何かを言った瞬間、フードの人物と将軍は消えた。
「何をしたのですか?」
「お前の相手は俺がする」
残ったフードの人物が、フードを脱ぎ捨てる。
フードの中から現れたのは、黒い髪に真っ白い肌、そして普人族と明らかに違うとわかる額の角が生えている。
「鬼人族、どうして鬼人族の方がここにいるんですか」
「我は鬼人族が王、カブラギ ゼッキである。勇者よ我と勝負せよ」
名乗りを上げた相手に時東は戸惑いながらも、腰に差したレイピアを引き抜く。
最初召喚されたとき、一番使いやすいと思った武器がレイピアだったのだ。
背の低い時東には、スピードと突きに特化したレイピアという武器が戦闘スタイルにマッチした。
「何が何だかわかりませんが、あなたを敵と判断します。早々に殲滅して仲間の下に戻ります」
「お前は俺には勝てないぜ」
白鬼は目を赤く光らせて、二匹の龍を解き放った・・・
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