大魔王になります8
時東は南の島に入る前に怪物が出たという東の戦闘区域を訪れていた。
一月前に怪物騒ぎがあり、その後の怪物の足取りは掴めていないと報告を受けている。
勇者として人間の味方として、化け物の存在を放ってはおけない。
「ここが怪物の出た場所ですか?」
時東の副官を務めるレギンバラ将軍ガンドルフ・ホーキンスに質問する。
「そうみたいですね」
「痕跡らしきものはないですね」
「それはそうでしょう。すでに一カ月の時を費やしています。当時も近くにいた黒金様が探索を行ったと言っておりました」
「他人が見たことを鵜呑みにするつもりはありません。倒せていないことの方が大事なのです」
「それはそうですが、そこまで警戒する必要があるんでしょうか。すでに大勢は決しています。後は獣人共の討伐を残すのみです」
「憂いを残して進軍するわけにはいきません。第一軍、第三軍、第四軍だけでも十分南は攻められます。ならば私は気になる憂いを討たねばなりません」
「用心深いことです」
ガンドルフはやれやれといった感じで、我儘な娘を見るような目を向ける。
ただこれまでの戦いで、この少女が言った言葉は本当によく当たるのだ。
予知といってもいいほどに・・・
「ならば探索の範囲を広げましょう。折角第二軍全てで来たのです。10万もいればデカい怪物の一匹や二匹すぐに見つかるでしょう」
「そうだといいのですが・・・」
時東は視線を東に向けて睨み付けた。
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「おいおいどうするんだ。あんなに大群どうしようもないぞ」
若こと鏑木 絶貴は隣にいる砂丘と共に偵察にきていた。
砂丘が大群が近づいていることを察知して、偵察に鏑木を同行させたのだ。
「うるさい。数は問題じゃない。だが確かに厄介な奴らが来たな」
「どういうことだ。知っている奴がいるのか」
「ああ。あれはレギンバラ王国が召喚した勇者の一人で、確か水の勇者 時東 椿だ」
「異世界の勇者!幹部を殺した奴か、俺の親父もあいつらに!!!」
「落ち着け、確かに今のお前なら良い戦いができるだろうが、作戦もなしにあの大群に向かうのはバカだ」
「作戦ってなんだよ。それに俺のシノビの極意ならやれるだろ」
「うるさい。お前は王様だろ。いちいち熱くなるな、戦いは常に冷静でいろ。冷静に相手を観察して絶対に勝てる戦いをしろ」
「絶対に勝てる戦いってなんだよ。そんなのあるわけないだろ」
「お前達、獣人、亜人、竜人同盟の欠点はそこだ。相手を知ろうとしなかったことだ」
「相手を知る?」
「そうだ。お前にはもう教えたはずだ。相手の手の内がわかれば、次に相手が何をしてくるか予想ができる。相手を知らなければ何をしてくるかわらかない」
「ああ。確かに言っていたな」
「わかったなら黙れ。俺も久しぶりに会うんだ。アイツがどれほど強くなったかわからん」
砂丘が黙って大群に目を向けたので、鏑木も従う。
「相手の数はだいたい十万ってとこか、ここから見える分には地面が人で埋まってやがる」
「そんなにいるのか、俺達は足ったの11人だぞ。しかもほとんどが子供だ」
鏑木の言葉を砂丘はあえて無視して、軍を見続ける。
軍は、10ずつの組に分かれてテントを張っている。
1万ずつの固まりになり、指揮官を務める者が一人か二人はいるだろう。
指揮官をする者がいるだけで軍は組織として機能し戦力を何倍にも上げてくる。
ここまで生き残っているという事は修羅場をいくつも越えてきた者ばかりということなのだ。
一人一人の技量が、砂丘が鍛えた鬼人族と同等だと言ってもいい。
後はお互いの力か、能力かの違いなだけだ。
それだけならばまだ勝てるチャンスはあるが、10万を束ねるために大将が一人と勇者が一人・・・
大将はレギンバラ中でも三人しかいない。
その戦力を分かり易く言うと、兵隊10万人と対等といえる。
その大将よりも、勇者は全ての能力が上なのだ。
ただ、大将にはそれぞれ得意な武器を極めている。
勇者よりも魔力が弱いが、使いこなす武器が脅威なのだ。
倒すことはできるが、めんどくさい相手ではある。
「いくぞ。バカ弟子。もう情報は十分だ」
「えっ!そうなのか?」
「ああ。後はお前たちに経験を積ますだけだ」
「まぁお前が言うならそうなんだろうぜ」
鏑木はもう一度軍を見下ろす。
すると、軍の中で一際目立つ鎧を着た男の横に立つ女性が、こちらを見たような気がした。
「まさかな?」
鏑木は気のせいだと思った。
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「あれは・・・」
「どうかされましたか?勇者様」
「多分見間違いだと思いますが、崖の上に人がいたような気がします」
「まさか?あんなところ人が上がれるはずがありません」
「あなたでも無理ですか将軍」
「私が無理とは言いませんが、逆に普通の者では無理だと言えます」
「そうですね。断崖絶壁な上にあそこに上がるためには絶壁を上るための道具か能力が必要でしょうね」
「そうです。だから無理があるでしょう」
「気のせい・・・」
時東は崖を睨み続けた・・・
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